カーボンニュートラルとは?温室効果ガスとは?
〔1〕カーボンニュートラルとは?
(1)深刻化する地球温暖化
カーボンニュートラルとは何か。ここで、簡単に紹介しておこう。
昨今、地球温暖化が深刻化し、異常気象による相次ぐ豪雨による洪水や大規模な森林火災などの現象が多発し、「気候変動から気候危機へ」と深刻化している。これを解決するため、2050年に向けて「カーボンニュートラル」を実現(すなわちパリ協定を実現)しようという動きが世界的に活発化し、この用語が頻繁に登場するようになった。
カーボンニュートラルとは、直訳すると「炭素中立」であるが、二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガス(GHG、地球温暖化の原因となるガス)の「排出量を全体としてゼロにする」ことを意味する。単に「脱炭素」「ネットゼロ」といわれることもある。
(2)日本の温室効果ガス排出量構成の現状
温室効果ガスを「全体としてゼロにする」とは、どういう意味かを図1で見ていこう。
図1 日本の温室効果ガス(GHG)排出量の構成(2018年度)とカーボンニュートラル(実質0トン)
※CO2以外の温室効果ガスはCO2換算した数値
(出典)国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」より経済産業省作成
出所 https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_01.html
図1(1)は、2018年度の〔CO2(エネルギー起源CO2と非エネルギー起源CO2の2種類)、メタン、一酸化窒素、代替フロン等4ガスの計7種類。後出の表3参照)の排出量を示している。非エネルギー起源CO2とは、例えば、廃棄物の焼却で発生し、排出されるCO2などのことである。
石油や石炭、ガスなどの燃料を燃やすと発生し、排出されるCO2は「エネルギー起源CO2」といわれるが、図1(1)では、全体の排出量12.4億トンのうち10.6億トンと、エネルギー起源CO2が85%を占めており、日本ではCO2の比率が高い状況となっている。
(3)温室効果ガスの総量を大幅削減
図1(2)は、2018年から32年後の2050年に、カーボンニュートラルを実現する例を示している。図1(2)の右側は、2050年までに太陽光発電や風力発電、水力発電などのCO2を排出しない電力を使用して排出量を削減し続けてきたが、濃い青色部分(排出)が削減できなかった。そのため、「排出」部分を、「森林によるCO2の吸収量や、CO2を回収して貯留するCCS(CO2を除去)」によって埋め合わせする例を示している〔「排出」部分=吸収(森林)・除去量(CCS)注1〕。このような仕組みによって、正味ゼロ(ネットゼロ)を実現するのである。
カーボンニュートラルを実現するとは、単純に温室効果ガスを100%排出削減して実現するのではなく、全体としてゼロ(ネットゼロ)として実現するという意味なのだ。
なお、使用されている排出量や%の数値は、統計の取り方によって多少の誤差があることに留意していただきたい。
〔2〕地球温暖化の仕組みと温室効果ガスの性質
図2は、環境省が策定した地球温暖化の仕組みと温室効果ガスの関係を示した図である。図2の右側に地球温暖化の仕組みを説明している。
図2 地球温暖化の仕組みと温室効果ガスとの関係
※1 主な温室効果ガスの種類として、「二酸化炭素」「メタン」「一酸化二窒素」「代替フロン等4ガス」などがある。
※2 温室効果ガスがまったく存在しなくなった場合、地上から放射された熱は、地球の大気を素通りしてしまい温室効果ガスに蓄積されない。このため地上の平均気温は-18℃~-19℃と低くなってしまい、地球上に人間や生物が生存できなくなる。このため、一定量の温室効果ガスは人類には不可欠なものとなっていることに注意。
出所 環境省「STOP THE温暖化 2008」をもとに編集部で加筆修正して作成
表3 各温室効果ガス(GHG)の排出量(2019年度、単位:百万トンCO2換算)
GHG:Greenhouse Gas、温室効果ガス。大気圏にあり、地表から放射された赤外線の一部を吸収することで温室効果をもたらす。
百万トンCO2換算:温室効果ガスの排出量の単位。温室効果ガスにはいろいろな種類があるので、それぞれを「CO2の重さに換算(CO2相当の重さに換算)」して比較できるようにしている。百万トンCO2換算は、「メガトンCO2換算」「Mt CO2換算」「百万t- CO2換算」と表現される場合もある
対CO2温室効果比率:二酸化炭素(CO2)と比べた温室効果率。例えばメタンはCO2と比べて25倍の温室効果がある
4ガス:ハイドロフルオロカーボン類(HFC)、パーフルオロカーボン類(PFC)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3)の4つのガス
出所 『ガスインベントリ報告書』(国立環境研究所)、『IPCC報告書』および以下を参考に編集部で作成、
https://www.nies.go.jp/whatsnew/jqjm1000000qyvx0-att/jqjm1000000qywk6.pdf
https://sugu-kan.com/the_type_of_ghg
表3に、①各温室効果ガス(GHG)の排出量と、②CO2に対する温室効果の比率、③大気に残る期間などを示す。
表3に示すように、温室効果ガスのうち、CO2の構成比率は91.2%と最も高く、また大気中における残存期間が1000年と、最も長くなっている。そのため、CO2排出量を今すぐ削減しても、残存期間が長いため、すぐに地球温暖化の進行を止められるわけではない。また、他のメタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)などは排出量は少ないものの、温室効果がCO2に比べてメタンが25倍、一酸化二窒素が298倍と約300倍もあるなど無視できない。
▼ 注1
他の場所で発電された再エネなどのクレジットを購入して埋め合わせするケースもある。