[クローズアップ]

温暖化に“Code Red”(厳戒警報)!IPCCが『第6次評価報告書』を発行

― 66カ国/234人の専門家が4,000ページで科学的に分析 ―
2021/09/06
(月)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

急速に進む気候危機を背景に、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は、2021年8月9日、気候温暖化をリアルに分析した『IPCC第6次評価報告書 第 Ⅰ 作業部会報告書』を発表し、世界が大きく注目した。
各国政府に気候温暖化政策の策定に関する科学的情報を提供するIPCCは、1990年に気候変動に関する第1次評価報告書を公表して以来、これまでに第5次までの報告書を公表してきた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は、最新の第6次報告書の作成にも影響を与えてきたが、このほど、そのIPCCの第 Ⅰ 作業部会(WG1)の報告書が公表されたのである。
本稿では、IPCCの位置づけにも立ち戻りながら、最新の報告書の特徴を取り上げ、その内容を解説する。

グテーレス国連事務総長が発した“Code Red”(厳戒警報)

 国連事務総長であるアントニオ・グテーレス(Antonio Guterres)氏は、2021年8月9日、3つの声明を発表した。

 1つ目は、「世界の先住民の国際デー(International Day of the World’s Indigenous Peoples)」に合わせた声明注1。2つ目は、長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に寄せる声明注2。そして、3つ目は、IPCC(The Intergovernmental Panel on Climate Change、国連気候変動に関する政府間パネル)の報告書に関する声明注3である。

 IPCCの報告書に関するグテーレス氏の声明では、冒頭で「(この報告書は)人類に対する厳戒警報(a code red for humanity)」という強い言葉が使われている。さらに、「警鐘が大音量で鳴り響いている(The alarm bells are deafening)」という表現も使われている。海外のさまざまなメディアでは、最初の文面で使われた“Code Red(厳戒警報)”という言葉を強調して報道しているものも多かった。

 それでは、グテーレス事務総長が、ここまで強い言葉を使って呼びかけたIPCCの報告書とは、どのような内容なのだろうか。

IPCCの位置づけとその組織構造

 IPCCは、1988年に国連の専門機関である世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)と国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)によって設立された政府間組織であり、各国政府に対して、気候政策の策定に関する科学的情報の提供を目的としている。本稿執筆時点で、世界195カ国注4がIPCCのメンバーとなっている。

 組織としては3つの作業部会(WG:Working Group)と1つのタスクフォース(特別作業班)から構成されている(図1)。

図1 IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の組織図

図1 IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の組織図

TSU:Technical Support Unit、技術支援ユニット(組織)
TFI:Task Force on National Greenhouse Gas Inventories、国別の温室効果ガス(CO2)排出/吸収(量)に関する計算/報告に関する、手法やソフトウェアの開発/改訂を行う作業班
出所 気候変動に関する政府間パネル

 気象庁のWebサイトには、IPCCにおけるそれぞれの作業部会とタスクフォースの役割について、表1のように解説している。

表1 IPCCの各作業部会とタスクフォースの役割

表1 IPCCの各作業部会とタスクフォースの役割

出所 気象庁のWebサイトの解説をもとに筆者作成


▼ 注1
Secretary-General’s message on the International Day of the World’s Indigenous Peoples

▼ 注2
Secretary-General’s Message to the Nagasaki Peace Memorial on the 76th Anniversary of the Atomic Bombing of Nagasaki
※日本語訳は「長崎平和祈念式典に寄せるアントニオ・グテーレス国連事務総長メッセージ

▼ 注3
Secretary-General’s statement on the IPCC Working Group 1 Report on the Physical Science Basis of the Sixth Assessment
※日本語訳は「IPCC 第6次評価報告書 第 Ⅰ 作業部会報告書(自然科学的根拠)に関するアントニオ・グテーレス国連事務総長声明

▼ 注4
195カ国のリストは、以下のサイトから確認することができる。
List of IPCC Member Countries

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