[特別レポート]

効率的な再エネ発電をどう実現するか!

― 気象協会が気象予測データを提供しインバランス料金も削減 ―
2021/10/04
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

脱炭素社会を目指す再生可能エネルギー(以下、再エネ)の主力電源化に向けて、「気象予測」への関心が高まっている。
太陽光や風力などの再エネは、晴れや曇り、風況など天候に左右される変動電源であるところから、効率的な再エネ発電を実現するには、「再エネ発電出力予測(太陽光や風力)」「電力需要予測」「電力取引価格予測」が求められる。
ここでは、2021年9月2日に開催された‘INTEL ENERGY FORUM 2021’の第1回 追加セッションにおける日本気象協会(表1。以下、気象協会)による対談(注1)の中で、同協会が提供している、AIなどを活用した最新の電力需要予測サービスやその取り組みを中心にレポートする。

表1 日本気象協会のプロフィール(敬称略)

表1 日本気象協会のプロフィール(敬称略)

出所 https://www.jwa.or.jp/company/about/ 等をもとに編集部で作成

気象情報の流れの例:「気象庁」⇒「気象協会等」⇒「TSO」

 対談の内容の紹介に入る前に、最近の気象情報と電力エネルギーの関係を簡単に俯瞰しておこう。

 2020年4月1日から電力システム改革の第3弾「送電部門・配電部門の法的分離」が実施され、新規参入する再エネ事業者などが、旧10電力会社が保有している送電網や配電網などの電力網を、より中立的で公平に利用できるようになった。

 この改革に伴って、沖縄電力を除く9社注2が新しく分社され、一般送配電事業者(TSO:Transmission System Operator)が誕生した。

 このTSOは、図1に示すように、再エネの変動電源も含めて、需要家に対して安定的に電力供給するため、精度の高い最新の気象情報を取り込んで運営している。

図1 最新の気象情報の取り込みの考え方

図1 最新の気象情報の取り込みの考え方

FIT通知:一般送配電事業者(TSO)が発電事業者等に再エネ(FIT電源)の買取計画を通知すること。
特高PV:PVはPhotovoltaic power generation、特別高圧太陽光発電設備のこと。受電電圧が7,000Vを超え、発電出力が2,000kW(=2MW)以上の産業用太陽光発電設備。
TM実績値:Telemeter実績値。電圧、電力等の遠隔監視による計測の実績値。
GPV:Grid Point Value、大気中もしくは地表などに設定された格子点上の気象要素などの値。
MSM:Meso-Scale Model、メソモデル。日本およびその近海(日本周辺)の大気を対象とした気象庁の数値予報モデル。
出所 電力広域的運営推進機関、「再エネ予測精度向上に向けた一般送配電事業者の取り組み状況について」、2020年12月18日

 概略的であるが、TSOは図1のような仕組みで、気象庁や気象協会等からの気象情報をベースにして、必要な再エネ電力など(調整力)を確保している。

  1. 気象協会等は、気象庁が自身の地上観測情報や衛星観測情報、他国の気象情報などを含めて演算処理したアウトプットデータを取得する。
  2. アウトプットデータを受信した気象協会等は、TSOが必要とする気象データを作成するために演算処理を行い、TSOに送信(提供)する。
  3. TSOは、気象庁や気象協会等のアウトプットデータと、TSO自身のTM実績値(電圧・電力等の実績値)などを含めて、総合的に出力予測処理を行う。これらの予測処理データをもとに、TSO自身が必要とするPV(太陽光発電)出力想定値を設定する。TSOは、この設定値をベースに、発電事業者等に再エネの買取計画を通知し、必要な再エネ電力を確保する。

 以上のような、<気象庁>⇒<気象協会等>⇒<TSO(一般送配電事業者)>の気象情報の流れから、再エネの主力電源化には、気象情報の役割がいかに大きいかが見て取れる。

気象協会が提供する気象情報サービス「気象×エネルギー」

 現在、日本において、全産業の3分の1程度の企業が、何らかの気象リスク注3をもつといわれているが、カーボンニュートラル時代を迎えて、多くの企業で気象リスクへの対処に関心が高まっている。

 このような背景から気象協会は、新たな気象情報サービス「気象×エネルギー」を事業展開している。特に再エネ分野では、刻々と変化する気象状況下で、いかに効率的な再エネ発電を行うかを目指し、気象情報サービスを推進している。

 このため気象協会では、気象予測技術の高度な利用によって、電力の「需要」「供給」「市場取引」の3つの側面から、高い柔軟性を備えた電力システムを構築するという方針のもとに、「気象×エネルギー」をキーワードに、予測データの提供や技術支援、コンサルティングの取り組みを進めている。

 具体的には図2に示すように、予測に関する「三種の神器」ともいわれる、「再エネ発電出力予測(太陽光・風力)」「電力需要予測」「電力取引価格予測」の各種データを軸に提供している。

図2 気象協会のエネルギー事業:予測に関する「三種の神器」※を提供

図2 気象協会のエネルギー事業:予測に関する「三種の神器」※を提供

※予測の三種の神器とは、「再エネ発電出力予測(太陽光・風力)」「電力需要予測」「電力取引価格予測」のこと。
出所 一般財団法人 日本気象協会「気象×エネルギーTotal Support」、インテル・エネルギー・フォーラム2021(第1回 追加セッション、2021年9月2日)より

 気象協会は各種予測データを活用して、顧客の再エネ発電システムを最適化・効率化して稼働させ、その結果、日本の脱炭素化を促進することを目指している。


▼ 注1
INTEL ENERGY FORUM 2021(2021年7月7日〜8日、オンライン開催)に続く、同FORUMの第1回 追加セッション「気象×エネルギーTotal Support」(2021年9月2日)。
対談の参加者は次の通り。【司会】インテル インダストリー事業本部 エネルギー事業開発部長 飯田 誠一(いいだ せいいち)氏、【登壇者】日本気象協会 事業本部 環境・エネルギー事業部 エネルギー事業課 再生可能エネルギー推進グループリーダー 吉川 茂幸(よしかわしげゆき)氏、同 需要予測分野統括 榎本 佳靖(えのもとよしやす)氏。

▼ 注2
沖縄電力を除く9社:北海道電力ネットワーク、東北電力ネットワーク、東京電力パワーグリッド、中部電力パワーグリッド、北陸電力送配電、関西電力送配電、中国電力ネットワーク、四国電力送配電および九州電力送配電。沖縄電力は、小規模であることや島が多いなどの特殊性を考慮して、送配電部門を別会社化しないこととした。

▼ 注3
気候リスク:気候変動によって企業が影響を受ける可能性をいう。例えば、エネルギー分野では、再エネは天候によって発電量が左右されるため、気象リスクをもっている。

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