[特集]

次世代スマートメーターシステムの最新動向

― 電力DX/GXを加速! 標準仕様や新設IoTルートで新ビジネスが展開へ ―
2022/02/05
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

海外の事例:欧州のDSF(需要側フレキシビリティ)の活用

 海外では、再エネ時代に、どのように発電電力量と消費電力量のバランスをとっているのだろうか。ここでは、欧州における事例を紹介しよう。

 今回、日本における次世代スマートメーターを審議するうえで、再エネ導入で先行している欧州の動向が参考にされている。欧州では、洋上風力を含め風力発電が大量に導入されているので、例えば「風力発電と需要側の消費電力のバランス」をとらないと系統に障害が発生し、停電を引き起こす原因にもなる。

 西村氏は、「欧州には、日本と比べて再エネの余剰電力を吸収できるような、大きな揚水発電所はあまりありませんので、EVや家庭用蓄電池、小型の再エネ発電などの分散電源を集約して細かくバランスをとっています。そのため、スマートメーターの計測値は15分値(日本の現行は30分値)と細かくして、“風が吹いている、吹いていない”などに対応した電気の市場価格も含めてバランスをとっています。広域にわたる再エネの大量導入が行われた欧州の事例は、日本の2030〜2040年頃の前提モデルとなる可能性もあるのです」と説明する(図9参照)。

図9 欧州DSF(需要側フレキシビリティ)の活用~kWh当日市場

図9 欧州DSF(需要側フレキシビリティ)の活用~kWh当日市場

G2mobility(ジーツーモビリティ):フランスのEV充電スタンドの運営事業者
Voltalis(ヴォルタリス) :フランスのデマンドレスポンス(DR)サービス提供事業者
NUVVE(ヌービー):米国のV2G(Vehicle-to-Grid)サービス提供事業者
Restore(リストア):ベルギーの標準デマンドレスポンス(DR)アグリゲーター
centica storage(セントリカ・ストレージ):英国のガス貯蓄事業者
octopus energy(オクトパス・エナジー):英国の再エネ100%販売の小売電力事業者
eMotorWerks(イーモーター・ワークス):米国のEVの充電制御のサービス事業者
enel X(エネル・エックス):イタリアの独立系デマンドレスポンス(DR)アグリゲーター
JEDLIX(ジェドリックス):オランダのEV関係のアグリゲーター
ENER-G(エナージー):英国の熱と電力を同時供給するコジェネレーションシステム事業者
NEXT KRAFTWERKE(ネクストクラフトヴェルケ):ドイツの大規模VPP事業者
出所 西村 陽、「次世代スマートメーターのDER-DX像」、2021年6月4日

 図9は、欧州や米国のEV充電スタンド運営事業者、DRサービス提供事業者、大規模VPP事業者などによって提供されている、DSF(需要側フレキシビリティ)注11の活用例を示している。

「例えば、風力発電は太陽光発電に比べて1日中運転し発電しています。ですから、電力系統のバランスを維持するため、図9に示す深夜から早朝の時間帯(0〜7時頃)は当日市場の価格が安く、需要家側が電気を買う(例:EVの充電用)時間帯となっています。この時間帯は、場合によってはネガティブ価格〔使用した分だけ需要家側がお金をもらえます。例:3ユーロセント(3円)/kWhもらえる〕時間帯ともなります。13〜22時頃は、企業活動や家庭、飲食街で電力消費が多くなる時間帯となりますので、需要家側はEVの蓄電池に充電されている電力などを売電する〔例:20ユーロセント(22円)/kWh〕などによって、当日の電力市場のバランスを維持しています」と、西村氏は、日本の2030年頃に実現されそうなビジネスモデルを示した。

次世代スマートメーターの全体像は2022年3月に!

 これまで見てきたように、次世代スマートメーターシステムでは、系統電力のバランスの精度を向上させるため、スマートメーターの計測粒度を1分値、5分値、15分値、30分値と、きめ細かい計測機能を搭載することや、Bルートの通信仕様として新たにWi-Fiの導入が行われる一方で、IoTルートなども新設された。

 さらに、一般送配電事業者のMDMSデータを、インターネット(LTEや5Gなどを利用)を介して、第三者(小売電気事業者やアグリゲーターなど)に開示する「Cルート」も考えられる。これらのデータ開示や新通信方式、新ルートの活用は、多くの事業者によってデータの活用の幅を広げることが期待されているが、同時に、外部からの不正アクセスなどのリスクの増加も懸念される。

 そこで、次世代スマートメーター制度検討会内には、次世代スマートメーターセキュリティ検討ワーキンググループが2021年5月に設置され、3カ月に1回のペースで検討が行われている。同ワーキンググループでは、次世代スマートメーターシステムに関するリスクアセスメント(リスク評価)なども検討されている。

 2022年3月までには、スマートメーターの標準機能やサイバーセキュリティも含めた次世代スマートメーターシステムの全体像が取りまとめられ、発表される予定である。

表3 次世代スマートメーターシステム関連の用語解説

表3 次世代スマートメーターシステム関連の用語解説

出所 各種資料をもとに編集部で作成

◎プロフィール(敬称略)

西村 陽(にしむら きよし)

大阪大学大学院 工学研究科 招聘教授(ビジネスエンジニアリング専攻)/早稲田大学 先進グリッド研究所 招聘研究員/関西電力株式会社 ソリューション本部 シニアリサーチャー

1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、学習院大学 経済学部 特別客員教授他を歴任。
ERAB検討会委員、次世代技術を活用した新たな電力プラットホームの在り方研究会委員、次世代スマートメーター制度検討会委員。
近著に『未来のための電力自由化史』(共著。日本電気協会新聞部、2021年10月発売)がある。


▼ 注11
DSF:Demand Side Flexibility、需要家側フレキシビリティ。需要家側のデマンドレスポンス(電力の需給制御)やVPP(需要家側のエネルギーリソースを集約して提供)、需要家側のエネルギー管理等を活用する仕組み。

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