[特別レポート]

EV化と再エネ主力電源化時代、変わる蓄電池の役割

― 2030年までに車載用蓄電池の製造能力を100GWhへアップ ―
2022/03/08
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

政府は、2050年カーボンニュートラルに向けて発表した「グリーン成長戦略」中で、重要分野として位置づけた「自動車・蓄電池産業」分野について、蓄電池産業の競争力強化へ向けて、本格的な取り組みを開始した。
中でも2030年のできるだけ早い時期に、車載用蓄電池の国内製造能力を100GWhまで上げることを目標に、「自動車・蓄電池産業」分野の研究開発・社会実装計画を策定した。
ここでは、急拡大する車載用蓄電池市場や次世代の車載用「全固体LIB」の動向とともに、EV化と再エネ主力電源化時代に変化する蓄電池の役割と、その将来像を見ていく。

新エネルギー基盤としての自動車・蓄電池産業

〔1〕2050年カーボンニュートラル実現に向けた「グリーン成長戦略」

 政府は、2050年カーボンニュートラルの実現を目指し、2021年4月22日、米国主催の気候サミット(オンライン開催)において、2030年度のCO2削減目標を大幅に引き上げ、2013年度比で46%削減(従来の削減目標は26%)、さらに50%の高みに向けて挑戦すると発表した注1

 これを受けて、2021年6月、最新版の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(以下、グリーン成長戦略)が発表された注2。グリーン成長戦略では、成長が期待される産業として14分野注3を特定し、これらの産業を技術開発から実証・社会実装まで継続して支援するため、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に対して、2030年までの10年間で2兆円のグリーンイノベーション基金を造成した。

 NEDOは、すでに「エネルギー関連産業」分野において、「次世代型太陽電池の開発」や「洋上風力発電の低コスト化」などのプロジェクトに着手している(本誌2022年2月号参照)。これに続いてグリーン成長戦略の重要な分野を占める「自動車・蓄電池産業」の具体的な取り組みを目指して、「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトに関する公募を実施した(2022年1月6日締切)。プロジェクトのメンバー企業および開始時期については、まもなく発表される。

〔2〕研究開発・社会実装計画の策定

 「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトの研究開発・社会実装計画は、2021年11月に策定され注4、グリーンイノベーション基金から、上限1,510億円の予算が計上された(表1)。

表1 グリーンイノベーション基金事業「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトの予算

表1 グリーンイノベーション基金事業「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトの予算

出所 NEDOグリーンイノベーション基金事業「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトに係る公募要領」、2021年11月11日

変わる蓄電池の役割と将来像

〔1〕多様な目的に活用される蓄電池

 現在、世界では再エネの急速な普及・拡大とともに、次のような需要が急増している。

  1. 家庭・産業・系統用の定置用蓄電池
  2. 自動車の電動化へのシフトに伴う車載用蓄電池

 同時に、図1に示すように、蓄電池の役割は、再エネの主力電源化時代に多様化し、拡大している。

図1 再エネ・主力電源化時代の蓄電池の主な役割・用途例

図1 再エネ・主力電源化時代の蓄電池の主な役割・用途例

BEV:Battery Electric Vehicle、電気自動車。蓄電池の電力を使ってモーターで駆動する自動車。EVと言われているが、最近ではBEVと呼ばれるようになっている
DER:Distributed Energy Resource、分散型エネルギー資源。太陽光発電や蓄電池、BEVなど、各所に散在しているエネルギー資源のこと
VPP:Virtual Power Plant、太陽光発電や蓄電池、BEVや住宅設備などをまとめて管理し、あたかも1つの発電所のように制御する仕組み。仮想発電所
ΔkW:調整力(デルタキロワット)。電力の需要と供給の細かい変動によって、絶えず発生する需給の不一致(アンバランス)を解消し、同時同量を実現するための調整用電力
V2H:Vehicle to Home、電気自動車から家庭に電力を送ること(給電すること)
蓄電池:電気を貯めることができる電池(二次電池)。鉛蓄電池(セル当たりの公称電圧:2.4V)、ニッケル水素電池(1.2V)、リチウムイオン電池(LIB。3~5V)、NAS電池〔負極にNa(ナトリウム)、正極にS(硫黄)を使用するナトリウム硫黄電池。2.3V〕などがある。小型化が可能で、高電圧でエネルギー密度が高いためスマートフォンやBEV用などに広く普及している[参考サイト
出所 各種資料をもとに編集部で作成

〔2〕蓄電池は電気を貯めるだけではない

 蓄電池の利用法も変化している。

 現状では、図2の左に示すように、定置用蓄電池は太陽光発電などの再エネ電源の近くや需要家側に設置され、電力の自家消費や非常時用電源として、設置場所内で活用されているケースが多い。また、普及が進む電気自動車(BEV)などの車載用蓄電池は、現在では走行のための充電のみが行われている。

 しかし、今後は、図2右図に示すように、①家庭やビルなどの需要側に設置される定置型蓄電池、②車載用蓄電池、③電力網と直接つながる大規模な系統用蓄電池などは、電力系統(送電網や配電網)に接続されるようになる。これによって、蓄電池に充電された電力を電力系統を介して再エネ事業者や送配電事業者に調整力(ΔkW)として活用したり、あるいはVPP(仮想発電所)の分散電源として活用したりするなど、多様な用途で使用されるようになっていく。

 このため蓄電池は、今後、新たなエネルギー基盤として期待され、市場競争力の強化が求められている注5


▼ 注1
外務省、「日本の排出削減目標」〔国が決定する貢献(NDC: Nationally Determined Contribution)〕

▼ 注2
経済産業省、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました」2021年6月18日(※グリーン成長戦略の「初版」は2020年12月25日に発表され、この時点でグリーンイノベーション基金2兆円が造成された)

▼ 注3
14分野:①洋上風力・太陽光・地熱(再エネ)、②水素・燃料アンモニア、③次世代熱エネルギー、④原子力、⑤自動車・蓄電池、⑥半導体・情報通信、⑦船舶、⑧物流・人流・土木インフラ、⑨食料・農林水、⑩航空機、⑪カーボンリサイクル・マテリアル、⑫住宅・建築物・次世代電力マネジメント⑬資源循環関連、⑭ライフスタイル関連

▼ 注4

▼ 注5
経済産業省『「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性』、2021年10月

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