[特別レポート]

日本の地熱発電の現状と「次世代型地熱発電」への挑戦

― 1基15万kWの超臨界地熱発電を開発へ ―
2022/09/09
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

地熱発電の特徴と仕組み

〔1〕地熱発電の特徴

 ここで、地熱発電の特徴と発電の仕組みを整理すると次のようになる注4

  1. 地熱発電は、火山帯の地熱を利用するため、昼間も夜間も、また季節変動もしない安定した電源であること。
  2. 日本は世界第3位の地熱資源量(ポテンシャル)をもっており、国産エネルギーのため燃料コストが不要であること。
  3. 発電設備の寿命が長く、また2030年時点の設備利用率注5は83%と高い再生エネ電源であること(洋上風力は33.2%、事業用太陽光は17.2%)注6
  4. 温室効果ガス排出量が少ないクリーンなエネルギーであること。
  5. 九州や東北など山間地をもつ地方自治体を活性化する、分散型ローカルエネルギーであること。

〔2〕地熱発電の仕組み

 現状の地熱発電の方式は、図1に示すように、フラッシュ発電方式とバイナリー発電方式がある。

図1 地熱発電の仕組み

(1)フラッシュ発電方式の仕組み※

(1)フラッシュ発電方式の仕組み※

①地熱貯留層に生産井(せいさんせい。井戸のこと)を掘り、地熱流体(蒸気や熱水)を取り出す。
②セパレータ(気水分離器)で地熱流体を蒸気と熱水に分け、熱水は還元井(かんげんせい)から地下に戻す。
③蒸気でタービンを回転させて発電する。
④発電し終わった蒸気は復水器で温水にし、さらに冷却塔で冷ました後、復水器に循環して蒸気の冷却に使用する。

(2)バイナリー発電方式の仕組み

(2)バイナリー発電方式の仕組み

①生産井から地熱流体を取り出す。
②地熱流体で二次媒体を温めて蒸気化する。二次媒体を温めた後の地熱流体は、還元井から地下に戻す。
③二次媒体の蒸気でタービンを回転させ発電する。
④発電し終わった二次媒体は凝縮器で液体に戻し、循環ポンプで再度、蒸発器に送る。

※ダブルフラッシュ方式もある。ダブルフラッシュ方式は、セパレータで分離した熱水をフラッシャー(減圧器)に導入して低圧の蒸気をさらに取り出し、高圧蒸気と低圧蒸気の両方でタービンを回す仕組み。高温高圧の地熱流体の場合に採用され、シングルフラッシュ方式よりも約20%出力が増加する。八丁原(はっちょうばる)発電所や森発電所で採用されている。 出所 日本地熱協会

(1)フラッシュ(減圧沸騰)注7発電方式

 地下でフラッシュ(減圧沸騰)した、地熱貯留層(図1)から汲み上げた地熱流体(蒸気や熱水)を分離するセパレータ(気水分離器)で、地熱流体から200~300℃の高温の蒸気を取り出して、その蒸気で直接タービンを回転させる。これは、日本の多くの地熱発電で採用されている方式である〔図1(1)〕。

 地熱流体とは、マグマによって熱せられ、高いエネルギーを得た高温・高圧の熱水や蒸気などのこと注8である。

(2)バイナリー発電方式

 しかし、地熱流体が80~150℃程度以下の中低温の場合、分離した蒸気では十分に直接タービンを回すことができない。この場合に利用する方式がバイナリー発電方式である〔図1(2)〕。

 地熱流体が入ってくる蒸発器で沸点が100℃の水(1気圧の場合)より沸点が低い二次媒体(沸点が36℃のペンタンや代替フロンなど)を熱交換器によって加熱して蒸発させる。この二次媒体の蒸気で、タービンを回転させて発電する。

 加熱源系統〔図1(2)の左半分〕と二次媒体系統〔図1(2)の右半分〕の2つ(バイナリー)の熱サイクルを利用して発電することから、バイナリー発電といわれている。


▼ 注4
[参考資料]日本地熱協会、「地熱発電の現況と課題」、2021年1月14日

▼ 注5
設備利用率:太陽光発電や地熱発電などの発電設備の実際の発電量が、100%運転を続けた場合に得られる電力量の何%になるかを示す数値。
例えば、1日の実際の発電量が「100」とする地熱発電設備が、「80」の発電量で稼働している場合の設備利用率は「80%」となる。

▼ 注6
資源エネルギー庁、「電気をつくるには、どんなコストがかかる?」、2021年12月28日

▼ 注7
減圧沸騰:水が100℃で沸騰するのは、その場所の気圧が1気圧という条件の場合。気圧が変われば、水が沸騰する温度を下げることもできる。。

▼ 注8
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構地熱資源情報」のサイトから引用。

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