[特集]

地域マイクログリッドの最新動向

― レジリエンスを強化した「分散エネルギープラットフォーム」へ ―
2022/04/11
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

地域マイクログリッド(Microgrid、小規模電力網。後述)が、再エネの主力電源時代の重要な「分散型エネルギープラットフォーム」として、電力供給システムのレジリエンス強化の面からも期待されている。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、大容量蓄電池によるマイクログリッドを米国カリフォルニア州で実証運用し、CHIBAむつざわエナジーは、自営線による実運用のマイクログリッドを構築した。また政府は、2020〜2022年度の3カ年計画で「系統線による地域マイクログリッド」の構築支援事業を開始している。
ここでは、事例を紹介しながら、マイクログリッドの利点について見ていく。

米国における大容量蓄電池によるマイクログリッドの実証

〔1〕カーボンニュートラルの実現に向けた世界の取り組み

 英国グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締結国会議)注1では、加速する地球温暖化(気候危機)を防ぐため、産業革命以前(1850〜1900年)の基準からの気温上昇を「1.5℃」に抑える努力を追求する、と舵を切った合意文書を採択した注2

 この1.5C目標を実現するためには、世界のCO2を含む温室効果ガスの排出量を2030年までに2010年比で45%削減し、2050年には実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする必要がある。世界各国では、このカーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が活発化している。

〔2〕NEDO:米国でマイクログリッドの実証に成功

  1. 州法「SB100」を成立
     再エネの大量導入に伴い、各国で「マイクログリッド」への取り組みが活発化している。マイクログリッドは、通常時でも非常時(停電時)でも、電圧や周波数の変動の少ない安定した電力品質を提供し、災害にも強い、レジリエンスを備えた電力システムを構築できるからだ。
     このような背景のもと、米国カリフォルニア州は、脱炭素に向けて、2045年までに電力の100%を温室効果ガス排出量ゼロの再エネで賄う州法「SB100」を成立させている(2018年)注3
  2. 7年にわたる実証事業の成果
     この州法に則ってNEDOは、2015年9月11日、米国カリフォルニア州とスマートコミュニティ実証事業を実施することで合意し、基本協定を締結した。
     これに基づいてNEDOは、2015〜2021年度の7年間にわたって、住友電気工業(以下、住友電工)を委託先として、カリフォルニア州サンディエゴで、大容量(8MWh)の定置用蓄電池「レドックスフロー電池」(RF電池:Redox Flow Battery System、図1参照)を活用した、実証事業注4を実施した。

図1 米国カリフォルニア州サンディエゴにおけるマイクログリッドの実証事業

図1 米国カリフォルニア州サンディエゴにおけるマイクログリッドの実証事業

出所 以下を参考にして編集部で作成
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101508.html
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101032.html

 そして最終年度の2021年10月〜12月には、RF電池を活用して、実際の配電網(系統線)の一部にマイクログリッド(系統線によるマイクログリッド)を構築(図1下部)し、カリフォルニア州で課題となっている自然災害や計画停電(輪番停電)注5に関する追加検証を行うための実証試験を行い、その運用に成功した(2022年1月27日のプレスリリース)注6

米国におけるマイクログリッド構築・実証事業の成果

〔1〕災害時のレジリエンス強化を検証

 実証事業では、レジリエンスの強化を目指し、実際に災害(停電)が発生した停電地区へ電力供給することを想定して、

  1. 大容量8MWhのRF電池(図1のSan Diego Gas and Electric社の変電所に設置)を接続した配電網の一部を、商用系統から切り離し、
  2. RF電池を自立電源としたマイクログリッドを形成し、需要家66軒に電力を供給し、
  3. マイクログリッド内の電力需要の変化や、需要家の屋根などに設置された太陽光の発電出力を、RF電池(自立電源)が電力の需給バランスの維持に必要な電力を充放電することで、配電線の電圧や周波数を安定化させること

に成功した。

〔2〕系統連系状態からマイクログリッドへ移行

 同実験では、非常時(停電時など)に、需要家側が「系統連系状態からマイクログリッドへ移行」する場合は、次のいずれにおいても安定して動作することを確認した。

  1. 停電状態で蓄電池を起動するブラックスタート注7移行ケース
  2. 需要家に停電を感じさせない無瞬断(一瞬も停電しない)でのシームレス移行ケース

 このように、大型の定置用蓄電池「RF電池」を運用することによって、RF蓄電池は、「平常時」は、系統運用機関(日本の場合:一般送配電事業者)との電力取引で収益を上げながら、「非常時」(災害や計画停電など)には、

①マイクログリッドの自立電源として停電を解消できること、
②停電予定地区に電力供給できること、

などが確認され、平常時・非常時の併用運転(デュアルユース)を実現した、世界初の実証事業となった。


▼ 注1
COP26:The 26th session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change、国連気候変動枠組条約第26回締結国会議。2021年10月31日〜11月13日、英国グラスゴーで開催された。

▼ 注2
2015年のCOP21で合意されたパリ協定において、1.5℃は「世界的な平均気温上昇を産業革命以前(1850〜1900年)の基準とされている温度に比べて、2℃よりも十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」という努力目標であった。

▼ 注3
SB100:Senate Bill No.100。正式名称は“The 100 Percent Clean Energy Act of 2018(100パーセントクリーンエネルギー法2018)

▼ 注4
実証事業名は「国際エネルギー消費効率化等技術・システム実証事業/米国加州における蓄電池の送電・配電併用運転実証事業」。事業期間は2015〜2021年度

▼ 注5
計画停電:大規模な停電を防ぐため、事前に計画をつくり、特定の地域ごとに順番に停電させること。順番に停電させていくので輪番停電ともいわれる。

▼ 注6
NEDO、住友電工、「蓄電池の世界初の平常時・災害時併用運転(デュアルユース)の追加実証を決定」(2021年1月22日)
・NEDO、住友電工、「日米初の蓄電池による実配電網でのマイクログリッド構築・運用に成功」(2022年1月27日)

▼ 注7
ブラックスタート:Black Start。ブラックアウト(大規模停電)時に、外部(系統)からの電源に依存しないで、マイクログリッド内の蓄電池(あるいは非常用電源など)を起動して、停電を解消するための発電を行うこと(マイクログリッド起動ともいわれる)。

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