「2050年カーボンニュートラル」宣言
2020年10月に菅前総理大臣が行った所信表明演説で、2050年に温室効果ガス(GHG :Greenhouse Gas)の排出量を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」が宣言されて以降、温室効果ガスの排出量削減に関する政策や技術に大きな注目が集まっている。
2021年12月9日に環境省が発表注2した2020年度の速報値によると、2020年度の温室効果ガス排出量は11億4,900万トンとなっている(図1)。
発表資料によれば、2020年度の温室効果ガス排出量11億4,900万トンのうち、二酸化炭素(CO2)の排出量は10億4,400万トン注3となっており、温室効果ガス排出量全体の90.8%を占めている注4。このように温室効果ガスの中でも多くの割合を占めるCO2の排出量を削減することは、2050年カーボンニュートラル実現の鍵となるものであることがわかる。
図1に示す通り、近年の日本では2013年(最高値)を境に年々減少を続けているCO2の排出量だが、世界全体を見るとそうではない。IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)が2022年3月に発表したレポート(Global Energy Review CO2 Emissions in 2021)注5によれば、2021年のCO2排出量は36.3Gt(ギガトン)となっており、過去最高を記録している。
図1 2020年度温室効果ガス排出量(速報値)[注:2013年の14億800万トンが最大]
出所 環境省「2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」、令和3(2021)年12月10日
また、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、一時的に排出量が減少した2020年(年間排出量34.2Gt)からの増加率は6%となっている。
カーボンニュートラル実現に欠かせない資金提供の動向
このような中でカーボンニュートラルを実現するためには、経済産業省 資源エネルギー庁のコラム注6でも紹介されているとおり、ファイナンスとイノベーション(技術の革新とその活用)とが欠かせない。
カーボンニュートラルを実現するためには、新しい技術の開発や既存の技術の普及といったイノベーションの取り組みが必要となる。そのためには、それら技術開発や普及のための取り組みを推進するためのファイナンスが必要となる。
まず、ファイナンスの観点で、現在のカーボンニュートラルを取り巻く状況を見てみよう。
世界に目を向けると、CO2排出量削減も含む、気候変動分野への投資が進んでいる。英国に拠点をおく国際的なコンサルティング会社PwCが公開した「State of Climate Tech 2021」(気候変動テックの現状 2021年)によると、世界における気候変動分野のスタートアップ(リスクを取り急成長を目指す企業)への投資は、ここ最近で大きく伸びている(図2)。
図2 世界における気候変動テックへの投資状況
※本レポートの概要はWebサイト上でも見ることができる。引用したグラフ等の詳細な情報は無料ダウンロード資料をもとにしている。
出所 State of Climate Tech 2021
図2のうち最新の2021年上半期では、金額としては過去最高の600億ドル(約7兆5,600億円、1ドル=126円換算)となり、投資案件数も600を優に超えている。
日本においても、例えば2022年5月19日に発表された「クリーンエネルギー戦略 中間整理」注7の中で、脱炭素に必要となる投資額として今後10年間で約150兆円、2030年単年で約17兆円の投資が必要となると試算している(図3)。
図3 脱炭素に必要となる投資額
▼ 注1
「第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説」令和2(2020)年10月26日
▼ 注2
環境省、2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について
▼ 注3
環境省「2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」、令和3(2021)年12月10日の添付資料
▼ 注4
残りの10%未満を占めているのは、メタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)、代替フロン等4ガス(ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六フッ化硫黄、三フッ化硫黄)である。
▼ 注5
https://www.iea.org/reports/global-energy-review-co2-emissions-in-2021-2
▼ 注6
CO2排出量削減に必要なのは「イノベーション」と「ファイナンス」
▼ 注7
経済産業省「クリーンエネルギー戦略 中間整理」、2022年5月19日