[特集:特別対談]

電力自由化と日本の再生可能エネルギーの課題≪後編≫

— 欧米に後れをとった「再エネ」の新しい展望を語る —
2015/02/28
(土)

日本の再生可能エネルギー(以下、再エネ)は、なぜ欧米に後れをとっているのか。日本での電力自由化を間近に控えた今、3名の研究者に集まっていただき、急遽座談会を開いた。
前編(2015年2月号)では、再生可能エネルギーとその不確実性の課題から、社会コストをミニマムにする全体最適の重要性、再エネ導入の課題と欧米との違い、日本が誇るべき配電自動化システムなどを語っていただいた。
後編では、日本の再エネを発展させるために求められる規制機関や、再エネの普及とともに浮上しているエネルギー貯蔵システムとしての「揚水発電」、電気自動車も含む蓄電池の役割、日本における陸上風力から洋上風力への展開に至るまで、広範なテーマで議論をしていただいた。
【座談会出席者】<司会>名古屋大学 エコトピア科学研究所 教授 舟橋 俊久(ふなばし としひさ)氏、関西大学 システム理工学部 電気電子情報工学科 准教授 安田 陽(やすだ よう)氏、横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 准教授 辻 隆男(つじ たかお)氏〕

座談会風景

日本の再エネの状況と規制によるイノベーションの促進

moderator:Toshihisa Funabashi

〔1〕日本における再エネへの参入障壁

─舟橋:現在、欧州全体の再エネの動きはどのような状況でしょうか。 

:前編でも話題となりましたが、欧州では電力系統の安定運用のために欧州全体で系統を制御するなど、非常に取り組みの大きさを感じさせます。

 とくにドイツやアイルランドの例に見られるように、在来の電源と新エネルギーが協調的に電力の需給調整を実施する姿は非常に魅力的なものに感じます。無効電力制御を安定度の改善に活用する話も同様ですが、このような取り組みが日本でももっと見られると、「全体最適」という方向にもう少し向かっていくと思うのです。

安田:そうですね。その際に、最適化されずにローカルミニマムに陥っているところがもしあるとしたら、それがまさに前編で議論した日本における再エネの参入障壁だと思います。欧州などではすでに行われていることなのですが、日本では、「前例がない、今まで入ったことがない」という理由だけで、新しい技術(再エネ)が導入されない。その結果、全体設計されないということになってしまっています。

〔2〕欧米に比べて日本は制度的に規制機関が弱過ぎる

─舟橋:そのような新しい技術は、自由化に当たって各電力会社には導入しようという機運はあると思いますが、全体で統一して行うところまでは至っていないように思います。それを、どこがきっかけになって積極的に始めるのか。これは個人的な意見ですが、全体で統一して行うためには、ある程度の規制が必要だと思うのです。

安田:私もそう思います。欧州と日本の違いで言うと、技術的な部分もたくさんありますが、制度的には日本は規制機関が弱過ぎます。

 まず米国ですと、系統に関する米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)注1があります。欧州においても、EUレベルでEU加盟国のエネルギー規制当局間の協力を促進する欧州エネルギー規制協力庁(ACER)注2が2010年にできました。ドイツでもドイツ連邦ネットワーク庁(BNetzA)注3や、英国ではガス・電力市場監督局(OFGEM)注4などがありますが、これらは、かなり強力な規制組織です注5。日本でいえば三条委員会レベル注6の組織で、政府からも独立していますので、規制局が国民を向いて取り組んでいるのです。

Yoh Yasuda

〔3〕規制がイノベーションを促進する

安田:日本の場合、電力小売りを自由化しても、送電部門は独占ですので、むしろ規制強化になります。電力自由化の過程で規制機関の権限が強くなれば、「あれをしなさい、これをしなさい」と言えるのです。規制というと、日本では「あれはだめ、これはだめ」と受け止められてしまいますが、欧米においては、「イノベーションを進めなさい、再エネを入れなさい」という監督もしますから、日本とは大きな違いがあります注7

 このような背景から、欧米では、自由化や再エネの導入が、図1に見られるように、どんどん進んできたのです。世界の風力発電と太陽光発電など再エネの発電電力量導入率を比較すると、デンマーク、ポルトガル、スペインの導入率が20%を超えているのに対し、日本は1.4%にとどまっており、OECD中の26位に甘んじています。

図1 世界の風力発電と太陽光発電の発電電力量導入率比較(2013年)

図1 世界の風力発電と太陽光発電の発電電力量導入率比較(2013年)

〔出所 IEA: Electricity Information 2014のデータより安田陽氏作成〕

 舟橋先生がおっしゃるように、やはり規制がしっかりしていないと進まないのではないでしょうか。

─舟橋:おっしゃる通り、進まないと思いますね。自由化によって利益を追求するという展開だけでは、どうしても無理があると思うのです。


▼ 注1
FERC:Federal Energy Re-gulatory Commission

▼ 注2
ACER:Agency for the Cooperation of Energy Regulators

▼ 注3
BNetzA:Bundesnetza-gentur für Elektrizität, Gas, Telekommunikation, Post und Eisenbahnen

▼ 注4
OFGEM:Office of Gas and Electricity Markets

▼ 注5
欧米の規制機関については、「電力自由化と日本の再生可能エネルギーの課題≪前編≫」の注1を参照のこと。なお、前編の注1では「欧州エネルギー規制協力庁 (ACER) が2008年に設立されている」と記述しましたが、2010年の誤りです。謹んでお詫びするとともに訂正致します。

▼ 注6
三条委員会:国家行政組織法の第三条により設置される行政委員会のこと。内閣府の外局であるが、政府から一定の独立した地位が与えられている委員会。例として運輸安全委員会、原子力規制委員会などがある。

▼ 注7
例えば、マイケル・ポーターは1991年に発表した論文の中で、環境規制はイノベーションを阻害するのでなくむしろ促進するという仮説(いわゆるポーター仮説)を立てている。ポーター仮説に関して日本語で読める資料としては、例えば下記の文献を参考のこと。
・伊藤康、浦島邦子、『ポーター仮説とグリーン・イノベーション — 適切にデザインされた環境インセンティブ環境規制の導入—』、科学技術動向 2013年3・4月号、pp.30-39、2013
http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-STT134J-3.pdf

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