EV(電気自動車)は動く蓄電池:V2H/H2Vの実証も
一方、2015年12月のパリ協定の採択以降、温室効果ガス(CO2)削減に向けて、各国の環境規制の強化が進み、世界の電気自動車(EV)への取り組みは、まさに地殻変動的な現象を起こし始めた。
英国とフランスの両政府が、2040年までにガソリン・ディーゼル車(内燃機関車)の販売禁止を2017年7月に決定したことを皮切りに、世界の自動車メーカーはすべてEVシフトへ舵を切り、その動きを加速させている。
〔1〕先進的なEVの実証実験を展開
このような動きを予測して横浜市は、YSCP実証プロジェクトの中で、先進的にEVの実証実験を展開してきた。日本最大の2,300台ものEVが導入されている横浜市は、EVを電気貯蔵が可能な社会的インフラととらえ、
- EVを車というよりは、蓄電池にタイヤが4本付いた「動く蓄電池」と見て、活用する。
- 充放電対応のEVシステムを太陽光発電の蓄電装置として活用し、低炭素化と太陽光発電の利用率の向上を目指す。
- さらにEVカーシェアによるエネルギー管理や、EVを利用したDRによる電力の需給調整を行う。
などの視点から、
- V2H:Vehicle to Home、電気自動車(EV)から家庭への給電、
- H2V:Home to Vehicle、家庭用電源から電気自動車(EV)への給電
のような、充電だけではなく放電を含む、充放電EVという実証実験が行われた(図7)。
図7 電気自動車(EV)の蓄電池(バッテリー)を活用したエネルギー管理 : V2H/H2V
出所 横浜市温暖化対策統括本部、「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)の取組と今後の展開について」、2017年9月
〔2〕「エコ充電スタンド」を使った充放電システムでCO2の排出量を削減
同実証実験の特徴的なところは、図7の左上に示す「エコ充電スタンド」の上(屋根)に太陽光パネルを設置して発電(再エネ発電)し、その電気をそのままEVで活用する点である。この充放電システムによって、CO2の排出量は、ガソリン車に比べて戸建て住宅当たりで25%削減、エコ充電スタンド当たりで15%削減できた。
ただし、課題としては、次のようなものが挙げられている。
- 天気が良いときだけしかエコ充電スタンド(充電ステーション)を活用できない。
- 現状では充電ステーションがガソリンスタンドに比べて少ない。
- 充電する際の料金は計量法に基づく課金が必要であること。
- ガソリンスタンドにおける給油は数分で満タンになるが、EVでは急速充電注10でも30〜40分程度時間かかる。
- 充電ステーションの設置コストが高い(まだ充電ステーションが少ない)。
- 家庭での普通充電(充電時間8〜16時間)ではなく急速充電(充電時間30〜40分)をする場合、瞬間の電力消費が大きくなるため、契約電力を、例えば40アンペアを60アンペア契約に変更する必要があるため、電気料金が高くなる。
なお、横浜市内には、市役所と各区役所に計18カ所のEV用普通給電スタンド〔充電時間1時間/1回、充電料金は無料(駐車場料金は別)〕のほか、ポートサイド地下駐車場(2基 :横浜市神奈川区)と馬車道(ばしゃみち)地下駐車場(2基:横浜市中区)、さらにエコ充電スタンドが2カ所設置されている。EV用急速充電スタンドは、2017年6月時点で118カ所設置されている。
▼ 注10
従来、日本の充電規格であるチャデモ(CHAdeMO)規格※と呼ばれる直流型急速充電規格は、最大電圧500V、最大電流125Aと定められていた。2017年3月にこの規格が改訂され、最大電圧500V、最大電流400Aの出力を可能とした。この改訂によって、従来50kWであった実効充電出力を150kWまで向上させることが可能となり、充電時間は従来の1/3で可能となった。
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