[特集]

横浜スマートビジネス協議会(YSBA)の新しい展開

実証から実装へ!エネルギー循環都市を目指す
2017/11/09
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

実証から実装へ!YSBAで「エネルギー循環都市」を目指す

〔1〕横浜市エネルギーアクションプランの策定とYSBAの設立

 130億円を投じて5年にわたって行われたYSCPの実証実験では、前述したような大きな成果を上げ、ノウハウを蓄積することができた。横浜市は、実行計画のエネルギー施策を着実に推進するため、2015年3月注11に「横浜市エネルギーアクションプラン」を策定した。

 さらに2015年4月には、実証実験のノウハウを生かして、防災性、環境性、経済性に優れた「エネルギー循環都市」を目指して、新たに企業6社が参画した公民連携組織「横浜スマートビジネス協議会」(YSBA:Yokohama Smart Business Association)を設立し、実証から実装へ向けた取り組みを開始した(図8)。

図8 YSCP実証から実装を目指す横浜スマートスマートビジネス協議会(YSBC)の構成

図8 YSCP実証から実装を目指す横浜スマートスマートビジネス協議会(YSBC)の構成

出所 横浜市温暖化対策統括本部、「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)の取組と今後の展開について」、2017年9月

 エネルギー循環都市とは、太陽光発電の更なる普及拡大や、生ごみのバイオマス化の検討、熱の有効利用など、市域から生み出されるエネルギーをできる限り増やすとともに、HEMSやBEMSなどのエネルギー管理機器も活用しながらエネルギーを効率的かつ効果的に使用することで、「市域から生み出されたエネルギーを無駄なく活用できるまち」のことを意味している。

市大センター病院とのエネルギー連携

 横浜市は、YSCPの実装化の1つとして、横浜市南区にある南区総合庁舎の移転再整備〔南区花之木町から南区浦舟町への移転注12〕にあわせて、エネルギー連携の取り組みを推進した。

 南区庁舎では、東日本大震災の際に実施された計画停電によって、庁舎の機能が止まってしまい市民生活に大きな影響が生じた。また、区役所は災害時に区の防災対策本部となることから、絶対に停電しないシステムが求められていた。

 このことから、図9に示すように、横浜市南区の総合庁舎整備(移転再整備事業)に伴い、南区総合庁舎、南土木事務所作業所などが集結した移転先の近隣にあった市大センター病院とエネルギー連携事業を実施することとなった。

図9 横浜市南区総合庁舎整備事業による完成図

図9 横浜市南区総合庁舎整備事業による完成図

出所 横浜市温暖化対策統括本部、「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)の取組と今後の展開について」、2017年9月

 図9に示す、エネルギー連携のキーワードとして、次のものがある。

  1. 自営線を用いた特定供給(市大センター病院と南区総合庁舎間の距離は約300m。市大センター病院と南土木事務所作業所の距離は約200m)
  2. 電源の多重化〔電気事業者、CGS(ガス事業者)〕
  3. BEMSを活用したCGSの最適な運転

〔1〕自営線を用いた特定供給

 南区総合庁舎と南土木事務所作業所は、移転前はそれぞれ独立して電気事業者から受電していたが、この移転によって、南区総合庁舎と南土木事務所作業所は電気事業者からではなく、市大センター病院を経由して受電することが可能なった。これは特定供給制度の規制緩和によって可能となったものである(図10)注13

図10 コジェネ導入促進に向けた電気事業制度の運用改善 : 特定供給の規制緩和

図10 コジェネ導入促進に向けた電気事業制度の運用改善 : 特定供給の規制緩和

出所 経済産業省資源エネルギー庁、「コジェネ導入促進に向けた電気事業制度の運用改善について」2012年10月

 具体的には、市大センター病院が電力会社から特別高圧(2万2,000V)を受電し、市大センター病院から特定供給制度を利用して、自営線でつないだ南土木事務所作業所と南区総合庁舎へ送電する。

 南土木事務所作業所(自営線長約200m)への送電は低圧(105V/210V)に変え、南区総合庁舎(自営線長約300m)へは高圧(6,600V)に変えて送電される注14。両者の電気使用量の請求書は電力会社からではなく、市大センター病院から届く。すなわち、電気料金は病院に支払うことになる。

〔2〕電源の多重化〔電気事業者、CGS(ガス事業者)〕

 災害時でも停電しない市庁舎を実現するため、市大センター病院に出力370kWのガスエンジンCGS(コジェネ)2台を増設した。

 この結果、南区総合庁舎では、①電力会社からの電力と、②市大センター病院のCGSで発電された電力、③南区総合庁舎に設置された非常用発電機からの電力を含めて、最大三重の多重化が行われていることになる。

 また、市大センター病院は災害拠点病院に指定されており、地下に埋設されている送電線から信頼性の高い特別高圧の電気が受電でき、停電しづらくなっている。さらに、南区総合庁舎も土木事務所作業所も、市大センター病院から自営線を通じて受電できるため、同様の恩恵を受けることができる。

〔3〕BEMSを活用したCGSの最適な運転

 市大センター病院に増設された、出力370kWのガスエンジンCGS2台は、すでに導入されていた3台のCGSと合わせて、合計5台のCGSを最適に運転するため、YSCPで実証されたスマートBEMSが使用される。各機器は、スマートBEMSによって、経済的に最も適した運転を実施しており、電気料金が約6,800万円/年、削減できた。

 また、市大センター病院には、電気事業者の電気とコジェネ注15で発電された電気(図9の黄色い線)に加えて、コジェネからの廃熱(図9の赤色の点線)が、市大センター病院に供給される。この廃熱は暖房だけでなく、熱変換によって冷房にも使用される。


▼ 注11
「横浜市エネルギーアクションプラン」、平成27(2015)年3月。再エネなどを活用した、自立分散型電源の導入や、熱の有効利用等を通じて、低炭素社会の実現、地域の電力安定供給への寄与、災害時の影響軽減等、安心・安全で環境にやさしい都市の実現を図る。
このプランを370万市民、11万事業者と共有し、環境未来都市として、エネルギー施策を推進し、新たな技術の導入および環境に配慮したライフスタイルの定着を図る。
http://www.city.yokohama.lg.jp/ondan/plan/actionplan/actionplan.pdf

▼ 注12
南区総合庁舎(1974年竣工)は築造後40年が経過しており、耐震補強などのため移転再整備をし、市大センター病院近くの浦舟町に移転するという計画。

▼ 注13
改正前の電気事業制度では、当該(ここでは市大センター病院)の発電設備(コジェネ)によって需要場所(ここでは南区総合庁舎)の需要の100%を満たすことが要件(バックアップは不可)とされていた。しかし、コジェネを含む分散電源の導入促進を図るための規制緩和により、当該の発電設備によって、50%以上を満たし、不足分は電力会社等からバックアップを受けることが可能となった。
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/6086248/www.meti.go.jp/press/2012/10/20121023001/20121023001.html

▼ 注14
供給電圧の違いによって、電圧は大きく「低圧」「高圧」「特別高圧」の3つ分類される。特別高圧:7,000V以上(市大センター病院の受電電圧は2万2,000V)、高圧:600V〜7,000V、低圧:600V以下。

▼ 注15
コジェネ:コジェネレーションシステム(Cogeneration System)。熱電併給システム。燃料から電力と熱を生産し供給するシステム。例えば、天然ガスや石油を燃料としてエンジンやタービン等の内燃機関で発電し、その際に発生する廃熱を回収して同時に活用する方法。回収した廃熱は、蒸気や温水として、工場の熱源、冷房/暖房・給湯などに利用する。これによって高い総合エネルギー効率を実現できる。

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