[特集]

横浜スマートビジネス協議会(YSBA)の新しい展開

実証から実装へ!エネルギー循環都市を目指す
2017/11/09
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

新・横浜市庁舎における総合エネルギー戦略

〔1〕熱供給センターを2020年1月に竣工へ

 みなとみらい地区の例に見られるように、今や自治体にとっては、電気やガスとともに、「熱」エネルギーも含めたエネルギー利用効率の向上と、地球温暖化対策に向けたCO2削減を実現する総合エネルギー戦略は、必須の課題となってきている。

 この流れを受けて横浜市は、図12に示す2020年1月に竣工予定の横浜市庁舎注18および隣接する横浜アイランドタワーの地域で、エネルギーの面的利用、すなわち地域熱供給(DHC:District Heating &Cooling system、地域冷暖房)を行うため、2017年10月から「横浜市北中通南地区熱供給センター」(以降、熱供給センター)の建設を開始し、2020年2月の稼働(熱供給開始)を目指している。

図12 横浜市庁舎(新築)の完成イメージ(右は既築の横浜アイランドタワー)

図12 横浜市庁舎(新築)の完成イメージ(右は既築の横浜アイランドタワー)

出所 東京都市サービス、東京電力エネジーパートナーの提供資料より

 熱供給センターは、東京電力EPの関連企業である東京都市サービス株式会社(以下、東京都市サービス注19)が、新たに建設される横浜市庁舎内に設置し、管理・運営を行う。

〔2〕熱供給事業の特徴

 熱供給事業(DHC事業)の事業者である東京都市サービスは、前述した横浜スマートビジネス協議会(YSBA)に参画しており、可能な限りの再エネの導入を推進しながら、バーチャルパワープラント(VPP)実証事業に対する支援事業や熱供給センターに設置する蓄熱槽やCGSを活用し、災害時における非常時対応(BCP:Business Continuity Planning、事業継続計画)など、幅広い取り組みを予定している。

 現在推進している再エネとしては、下水再生熱の導入や、横浜市庁舎で導入される水素燃料電池の廃熱を活用するなど、横浜市と連携して環境性の高いエネルギー戦略を展開していくことを特徴とした事業となっている。

〔3〕熱供給事業とは

 ここで、熱供給事業とは何かを見てみよう。

 熱供給事業は、比較的大きな街区、例えば晴海トリトンスクエアのような晴海アイランド地区、あるいは六本木ヒルズ地区、東京スカイツリー地区など大きな都市開発に導入され、エネルギーを面的かつ効率的に活用する側面から推進されてきた事業である。

 具体的には、建物における冷暖房に使われる空調用の「熱」エネルギーを、建物ごとにボイラや冷凍機などの設備を設置して作るのではなく、1カ所に「熱」を製造する設備を集約(プラントという)して、そこで作られた「熱」エネルギーを、プラントと「熱」供給先となる各建物間に敷設された導管(熱ロスや漏洩を考慮した二重管式の熱供給用配管)を通して、エリア内のいろいろな建物に供給していく事業である。

 横浜市庁舎に導入する熱供給では、東京都市サービスが管理する横浜市庁舎内の熱供給設備から、市庁舎のみならず隣接する横浜アイランドタワーに導管(配管)を通して空調用の冷水や温水、非常用の電力を供給する仕組みを予定している。

 表5および図13に、熱供給事業に必要なエネルギー資源・熱源設備を示している。

表5 横浜市庁舎熱供給センターのプロフィール

表5 横浜市庁舎熱供給センターのプロフィール

INVターボ冷凍機:インバーターターボ冷凍機。冷水製造専用の熱源設備
HP:ヒートポンプ。冷水と温水を製造できる熱源設備
出所 東京都市サービス、東京電力エネジーパートナーの提供資料より

図13 横浜市庁舎(新築)と横浜アイランドタワーのエネルギーの面的利用

図13 横浜市庁舎(新築)と横浜アイランドタワーのエネルギーの面的利用

出所 東京都市サービス、東京電力エネジーパトナーの提供資料より

〔4〕エネルギー資源エネルギー資源としては、

  1. 電気、ガスなどのエネルギー源
  2. 下水再生水熱、地中熱(いずれも空調用に利用)などの再生可能エネルギー源
  3. 太陽光発電、燃料電池(廃温水を空調用に利用)などの分散エネルギー源

などがある。

〔5〕熱源設備熱源設備としては、

  1. 熱源設備:熱回収HP(ヒートポンプ)、水熱源ヒートポンプ、INVターボ冷凍機、ジェネリンク(廃熱投入型ガス吸収冷温水機)など
  2. 常時・非常時の電力供給:CGS(コジェネ)
  3. 蓄熱槽:冷水/温水用(冷水5℃、温水は49℃で蓄える予定)冷水槽1,500m3、温水槽1,200m3、合計容量2,700m3の水槽

などがある(熱供給事業法に基づく技術基準をクリアした設備となっている)。

 これらの熱源設備は、東京都市サービスが交代勤務体制を構築し、24時間365日対応できる管理体制となる予定である。導入するさまざまな熱源設備とこれらを効率的に運用するノウハウを生かして、大幅な省エネを目指している。


▼ 注18
2017年8月着工、2020年1月完成。地上32階、地下2階、高さ155.4m、延べ14万3448㎡

▼ 注19
東京都市サービス:本店所在地は東京都中央区。売上114億円(2016年度)。従業員数277名(2017年3月31日時点)。主な事業は、熱供給の運営・受託で、箱崎地区、幕張新都心地区、銀座5・6丁目地区など、すでに全国18カ所で地域熱供給(地域冷暖房)の実績がある。横浜市は19番目の熱供給となる。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...