YSCPにおけるHEMSによる実証実験の成果
〔1〕既成市街地をスマートシティ化する取り組み
YSCPが他の3地域の実証事業と大きく異なるのは、新設ではなく、すでにでき上がっている「既成市街地をスマートシティ化する取り組み」という点である。
図5中の表に示したように、横浜市には2013年度末時点で、累積約4,200世帯にHEMSが導入され、PV(太陽光発電)は37MW、EV(電気自動車)は2,300台も導入された。2014年度には、そのうちの約3,500世帯を対象に、国内最大規模の省エネ行動実験が行われた(この時点で、デマンドレスポンスによる最大ピークカット効果が15.2%であることが確認されている)。
表2は、2014年度に行われた、省エネ行動実験(3,500世帯)の実証参加者グループの内訳と、実証に使用されたCPP、TOU、PTRの料金メニューである注7。
表2 HEMSによる実証実験(2014年度の実証)
<実証に用いる料金メニュー>
①ピーク別料金(CPP):需給がひっ迫しそうな場合に、事前通 知をしたうえで通常より高い料 金を課すもの。
②時間帯別料金(TOU):時間帯に 応じ異なる料金を課すが、実験 期間中は同じ料金を適用。
③ピーク時報奨金(PTR):需給が ひっ迫しそうな場合に、事前通 知をしたうえで削減量に対して 節電報酬を支払うもの。
出所 横浜市温暖化対策統括本部、「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)の取組と今後の展開について」、2017年9月
さらに表3は、実証実験の内容を形態別に分類し、それぞれに新しい料金メニュー(CPP、TOUなど)に移行した場合の情報を市民に提示して、その効果を検証した例である。
表3 HEMSによる実証実験(2014年度実証成果。約3,500世帯)
出所 横浜市温暖化対策統括本部、「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)の取組と今後の展開について」、2017年9月
〔2〕ユニークな新料金メニューへの加入促進政策
YSCPでは、消費電力のピークタイムをずらして平準化を行うため、表2に示した約3,500世帯を対象に、新たな料金メニューに切り替える場合のメリット・デメリットを整理した。
具体的な新メニューへの加入促進政策として、①単なる勧誘、②勧誘+情報提供、③勧誘+情報提供+特典付与などの3つのレベルに分けて市民にアピールし、効果的な誘導策によって電力削減効果(ピークカット効果)を検証(実証)した。
その結果が前出の表3である。新しい電気料金のメニューを提示し、「勧誘する」とそれに応えてくれた人は加入率が16.3%しかいなかったが、加入した人の電力ピークカット効果は26.2%に上った(トータルのピークカットは4.4%)。
次に、勧誘をするだけではなく、「こちらの料金メニューに変えると、あなたの家庭は△△円得します」と、具体的な情報提供を付加して紹介すると、加入率はその2倍の30.7%となったが、トータルピークカットは、4.2%にとどまった。
さらに「移行してくれたら特典を与えます」(例えば、報奨金〇〇円を差し上げます)と提案すると、加入率は3倍の47.6%に上昇し、これによる電力のトータルのピークカットは、勧誘だけのグループに比べて2倍の7.8%になることがわかった。
〔3〕一定の成果を挙げた節電施策
現在、新電力などから、さまざまな新しい工夫が加えられた料金メニューが提案されているが、一般家庭が電力会社を変えるにはまだ抵抗がある。しかし、横浜市の場合には冒頭で解説したように、家庭の節電が必須である。このような中で、実証事業において市民が行動を起こし、先に挙げた削減率を達成できたのは、一定の成果であったといえよう。
なお、経済産業省の発表によれば、一般家庭向け(低圧)のスイッチング件数(切替え件数)が、平成29(2017)年5月時点で全国的で約634万件に達し、スイッチング率としては10%を超えて、約10.1%に到達したところである注8。
スイッチング件数の内訳としては、みなし小売電気事業者(旧10電力会社)から新電力へのスイッチング件数が約353万件(約5.6%)、みなし小売電気事業者内のスイッチング件数(自社内切替注9)が約281万件(約4.5%)となっている。
▼ 注7
CPP:Critical Peak Pricing、クリティカルピーク料金。電力がひっ迫しそうな緊急ピーク対応として事前に通知した後、懲罰的な(通常より高い)価格を設定する料金方式
TOU:Time-of-Use Pricing、時間帯別料金。季節別、時間別に異なる料金として設定(本実証期間中は同一料金を適用)する料金方式
PTR:Peak Time Rebate、ピークタイムリベート。電力がひっ迫しそうな緊急ピーク対応として消費量の削減に応じて節電報酬を支払う料金方式
▼ 注8
経済産業省、「電力のスイッチング率(低圧)が10%を超えました」2017年8月22日
なお、2016年3月の一般家庭等の通常の契約口数は約6,253万件となっている。
▼ 注9
消費者保護のため、少なくとも平成32(2020)年3月末までは、小売自由化前(2016年4月1日より以前)と同じ電力会社・料金メニュー〔経過措置メニュー(規制料金)〕で電力を購入することが可能となっている。これを切り替えることを自社内切替という。