[特集]

福島県相馬市のスマートコミュニティ事業戦略とそうまIHIグリーンエネルギーセンター

― 再エネの余剰電力を最大活用して地産地消をめざす ―
2018/08/01
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

3.11東日本大震災から7年。甚大な被害を受けた相馬市は、今、復興から発展に向けて、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の余剰電力を最大活用する「スマートコミュニティ事業」を本格化させている。
同市内に、日本を代表する総合重工業メーカーであるIHIが、相馬市と連携して「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」を開設し、CEMS(地域エネルギーマネージメントシステム)を核に、太陽光発電などの再エネをベースに、「CO2フリーの循環型の地域社会創り」の構築を推進している。再エネの利活用においては、自営線(運営:そうまIグリッド合同会社)の構築や、地産地消制御による徹底的な系統への逆潮流防止システムを実現し、さらに、再エネ余剰電力による水素製造実証および下水汚泥乾燥処理など画期的な実証を行っている。ここでは、同センターの現地取材をもとにレポートする。

相馬市の復興を目指すスマートコミュニティ事業

図1 福島県相馬市の位置

図1 福島県相馬市の位置

出所 http://www.city.soma.fukushima.jp/profil/access_h23.html

 東北地方の南部(南東北)の福島県の東北端に位置し、東は太平洋と接する相馬市は、東日本大震災において、死者458名、住宅被害5,584棟に及ぶ甚大な被害を受け、現在も復興・発展に向けて急ピッチな作業が進められている(図1、表1)。

 具体的には、「相馬市復興計画 Ver.2.3」注1と平成27(2015)年度復興庁の「新しい東北」先導モデル事業とを連携させた、スマートコミュニティ事業を構築し、推進している。同事業は、相馬市をはじめ、株式会社IHI(東京都江東区、以下IHI)や福島大学などの協力、福島県・産総研注2などの協賛を得て推進されている。

表1 福島県 相馬市のプロフィールと被害の状況

表1 福島県 相馬市のプロフィールと被害の状況

出所 http://www.city.soma.fukushima.jp/、および「東日本大震災 相馬市5年間の記録」(相馬市、2016年3月発行)等をもとに編集部作成

 このような復興計画のもとに、IHIは、相馬市において太陽光発電電力の地産地消の実現と、地域振興・発展に寄与することを目的としたスマートコミュニティ事業を開始し、2018年4月4日には「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」(表2)を開所した。相馬市には、航空・宇宙関連の部品などをつくるIHIの相馬事業所があり、現在、約1,900人の従業員が従事している。

表2 そうまIHIグリーンエネルギーセンター(図5の右上:黄色点線内)の概要

表2 そうまIHIグリーンエネルギーセンター(図5の右上:黄色点線内)の概要

PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell、固体高分子形燃料電池
出所  をもとに編集部作成

CO2フリーの循環型の地域社会創り

 図2に示すように、平成27(2015)年度における復興庁の補助金を使用して、地域主導の事業モデルの検討が開始された。

図2 復興計画と連携したスマートコミュニティ事業を構築

図2 復興計画と連携したスマートコミュニティ事業を構築

出所 IHI配布資料、「福島県相馬市で展開するスマートコミュニティ事業の取り組みについて」、2018年6月28日

 相馬市とIHIが共同で「CO2フリーの循環型地域社会創り」を実践していくという方針のもと、再エネの地産地消と、地域に根づくような事業モデルをつくって、復興から再生に向けた新しいまちづくりのきっかけとなるような「地産地消型スマートコミュニティ」の構築を目指して、相馬市総合計画「相馬市マスタープラン2017」注3が、2016年12月に策定され、2017年2月に公表された。

〔1〕CO2フリーのスマートコミュニティ事業モデル

 策定された「CO2フリーのスマートコミュニティ事業モデル」は、図3に示すように、次の内容に注力していく方針を確定した。

  1. エネルギーマネージメントによって、太陽光発電電力の地産と最大地消を実践(再エネ推進)する。
  2. 一般送配電系統に送れない太陽光余剰電力を水素、熱に転換し、有効利用(CO2フリー)する。
  3. 災害時に、貯蔵水素で燃料電池発電(最大420kWh送電)を行う。
  4. 水素研究機関(オープンイノベーション)、水素関連産業の誘致の起爆剤(交流人口増加)とする。

図3 CO2フリーのスマートコミュニティ事業モデル

図3 CO2フリーのスマートコミュニティ事業モデル

出所 IHI配布資料、「福島県相馬市で展開する スマートコミュニティ事業の取り組みについて」、2018年6月28日

 図3の下部に赤字で「一般送配電系統へ逆潮流ゼロ」とあるが、現在、この相馬エリアは、東北電力の一般送配電系統の空き容量がゼロという状況のため、太陽光発電などによる再エネの電気を接続できない(逆潮流できない)状況になっている注4。少なくとも、東京オリンピック・パラリンピック以降でないと接続できないという状況もあるため、再エネをどう供給し、活用するかが大きな課題になっていた。

〔2〕自営線の構築と太陽光電力供給のモデル

 これらの制約を解決するため、太陽光発電(再エネ)による電力の地産地消を目指して、図3の赤線で示した自営線(自営の配電線。全長約1.2km)を構築し、太陽光発電電力を必要とする需要家に供給するモデルが考え出された。

 具体的には、図3に見られるように、太陽光の電力を地域の需要家である下水処理場などに供給するが、余剰電力が出てくるので、①余剰電力は蓄電池に蓄電する、あるいは②図3右に示す水素や熱に置き換えて最大限使い切る、すなわち余剰電力を地産地消するというコンセプトが打ち出された。水素や熱に置き換えて利用する用途としては、次にようなことが挙げられる。

(1)水素(水電解・貯蔵)

 余剰電力を利用して水を電気分解して水素をつくることによって、次のようなことが考えられる。

①水素を燃料電池自動車(FCV)に利用する。

②災害時に防災機能の強化という観点から、燃料電池発電システムを導入して非常時の電力供給用に利用する。

③水素を他のエネルギーキャリア(後述)に転換して貯蔵する。

(2)熱(蒸気化・貯蔵)

 余剰電力によって水を熱して蒸気化させて貯蔵し、その熱を利用して下水の汚泥を乾燥させてバイオ燃料を製造する、などに有効利用する。


▼ 注1
相馬市復興計画 Ver.2.3は2016年5月30日に改定された計画で、その後2017年8 月 28日にVer.3.1が策定されている。
https://www.city.soma.fukushima.jp/0311_jishin/hukkou_keikaku_6.html
https://www.city.soma.fukushima.jp/0311_jishin/hukkou_keikaku_PDF/3-1/01.pdf

▼ 注2
産総研:国立研究開発法人産業技術総合研究所(経済産業省傘下)。日本最大級の公的研究機関。全国10カ所の研究拠点で約2,000名の研究者がイノベーションを巡る環境の変化や、それらを踏まえて策定された国家戦略等に基づき、ナショナルイノベーションシステムの中核的、先駆的な立場で研究開発が行われている。

▼ 注3
https://www.city.soma.fukushima.jp/ugoki/master_plan/index_2017.html
https://www.city.soma.fukushima.jp/ugoki/master_plan/index.html

▼ 注4
発送電分離:2015(平成27)年6月に、電力システム改革の第3弾として、「電気事業法が」改正された。これによって、電力会社(旧電力10社)の送配電部門を別の会社に法的に分離することで、送配電ネットワークを公平に利用できるようになる。これは2020(平成32)年4月から実施されるが、この発送電分離(発電と送電の事業を分離すること)によって、再エネによる逆潮流問題が解決されると期待されている。

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