[特集]

「スマートレジリエンスネットワーク」とは?

― 脱炭素化と電力レジリエンスの向上を目指して設立 ―
2020/09/02
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

5年間にわたる「電力システム改革」(2015年4月〜2020年4月)に続いて、次世代電力システムは、「脱炭素化」「再エネの主力電源化」「電力レジリエンス」などが焦点として注目され、それぞれの動きが活発化している。これらに対応して、2020年6月、「エネルギー供給強靱化法」(後述)が国会で可決・成立し、法制度面から、今後の電力の供給体制を強く持続的なものにする環境が整備された。
この「エネルギー供給強靱化法」と同期して、AIやIoT、5G、クラウドなどのデジタル技術を駆使して、産官学の枠を超えて協力し合う社会共創の基盤構築を目指す、「スマートレジリエンスネットワーク」(SRN)が設立された。
ここでは、2020年8月5日に開催されたリモート記者会見をベースに、SRNの設立の背景と活動内容についてレポートする。

電力システム改革とパリ協定の実現への展開

 最初に、日本における電力システム改革の進展と、パリ協定の実現に向けた地球温暖化対策への取り組みを概観しておこう。

〔1〕電力システム改革の実現

 7年前の2013年4月2日、①電力の安定供給を確保すること、②電気料金を最大限抑制すること、③需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大すること、という3つを目的に、「電力システム改革に関する改革方針」が閣議決定された注1

 これを達成するため、これまで次のような3段階にわたる電力システム改革が行われ、電力システムが整備された。そして2020年4月の法的分離によって、同システム改革は完了した。

  • 第1弾(2015年4月):電力広域的運営推進機関(略称は広域機関、OCCTO注2)の設立(広域系統運用の拡大)
  • 第2弾(2016年4月):電力小売全面自由化(小売および発電の全面自由化)
  • 第3弾(2020年4月):送配電部門の法的分離(発送電分離。法的分離の方式による送配電部門の中立性の確保)

〔2〕気候危機と自然災害の増大

(1)気候変動から気候危機へ

 電力システムに関する整備が進展する一方、この間に、脱炭素社会の実現に向けて、国連による地球温暖化防止に関する国際会議「COP21」〜「COP25」注3が開催され、2015年12月に採択されたパリ協定(表1)が、2020年1月から始動した。

表1 パリ協定の内容と日本の対応

表1 パリ協定の内容と日本の対応

※1 COP21:The 21st Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change、気候変動枠組条約第21回締約国会議。2015年11月30日〜12月12日にフランスのパリで開催された(締約国:条約等を結ぶ国のこと)。
※2 温室効果ガス: 主な温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)には、二酸化炭素(CO2)、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなどがある。このうち、CO2(化石燃料由来のCO2が約65%、およびCO2吸収源である森林等の減少が約11%、合計76%)は、地球温暖化に及ぼす影響がもっとも高い温室効果ガスである。これらの温室効果ガスは人間活動によって増加するとされている(気象庁、「温室効果ガスの種類」より)。
※3 NDC: Nationally Determined Contribution、各国のCO2削減目標(約束草案ともいう)。パリ協定に基づいて、各国が自主的に決定する温室効果ガスの削減目標で、国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出する。
※4 脱炭素社会:今世紀(21世紀)後半に、温室効果ガス(CO2)の人為的な発生源による排出量と、森林等のCO2吸収源による除去量との間の均衡(世界全体でのカーボンニュートラル)を達成する社会のこと。
出所 各種資料より編集部で作成

 同時に、この期間には、国連から気候変動に関する『IPPC 1.5℃特別報告書(2018年)』や『UNP排出ギャップレポート(2019年)』などの科学的な分析が相次いで発表された注4注5

 これらの国連の調査・分析の報告書を手にした国連事務総長のグテーレス氏は、スペイン・マドリードで開催されたCOP25開会式で、

 ①地球の気候変動は『気候危機・崩壊へ』と進み、

 ②地球の温暖化は『過熱化へ』と進んでいる、

と厳しい警告を発した。同氏は、もはや待ったなしの深刻な現状であることを強調し、各国にNDC(CO2削減目標)を大幅に引き上げるように要請した。

 気候危機による具体的な影響は、記憶に新しいところでも、オーストラリア各地で多発した大規模森林火災注6をはじめ、世界各地で記録的な集中豪雨や異常な熱波や深刻な干ばつなど、地球温暖化が原因と考えられる深刻な異常気象が相次いでいる。

 さらに、地球温暖化によって北極圏の凍土が溶解し、閉じ込められていた細菌などが地上で広がるため、今後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような、新たなウイルスの発生についても懸念されている。

(2)自然災害の増大と大規模停電

 日本国内でも、近年、集中豪雨などのほか、自然災害が多発しており、被災の範囲も広域化している。

 例えば、電力インフラ・システム関連で被災し、大きな影響が生じた例としては、

 ①2018年9月6日未明、北海道胆振(いぶり)東部地震(M6.7、震度7)をきっかけに発生した北海道全域の296万戸がブラックアウトした例注7

 ②2019年9月9日に千葉市付近に上陸し関東地方を襲った台風15号は、約2,000本にも及ぶ電柱の破損・倒壊を引き起こし(写真1)、約93万戸が停電。続いて10月12日には、伊豆半島に上陸した台風19号が関東地方を襲い、約52万戸が停電した例注8

などがある。


▼ 注1
資源エネルギー庁「電力システム改革について」

▼ 注2
Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPANの略。

▼ 注3
COP21(開催地はフランス・パリ)は2015年に、196カ国・地域が全会一致でパリ協定を採択した。COP25(開催地はスペイン・マドリード)は2019年に、NDC(CO2排出削減目標)の引き上げをして再提出することを合意した(注:COP22、COP23、COP24はここでは省略)。

▼ 注4
1.5℃報告書:COP24(2018年12月2〜15日)に先立つ2018年10月、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、国連気候変動に関する政府間パネル)から発表された特別報告書。地球温暖化を1.5℃に抑制するための科学的根拠を示した。同書では、1.5℃目標を達成するためには、世界のCO2排出量を2030年度までに45%削減(2010年比)、2050年頃にネットゼロにすることが必要であると分析した。

▼ 注5
UNP排出ギャップ報告書:COP25(2019年12月2〜13日)に先立つ2019年11月、国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)から発表された、パリ協定の1.5℃および2℃の温度目標について、現状のNDCと2030年に予想されるCO2排出量のギャップに関する最新データを分析した報告書。2℃目標には、現行のNDCの削減レベルを3倍、1.5℃目標には5倍に引き上げることが必要であると評価した。

▼ 注6
2019年9月から4カ月以上にわたる火災。森林は陸上における「CO2吸収源」でもある。

▼ 注7
本誌『インプレスSmartGridニューズレター』2018年10月号/11月号の特集、「北海道胆振東部地震で道内全域295万戸がブラックアウト!火力発電所停止までの18分間を解明」を参照。

▼ 注8
経済産業省「台風15号・19号に伴う停電復旧プロセス等に係る個別論点について」、令和元(2019)年10月17日

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