再エネ電力をどのように調達し導入するか
世界中で脱炭素、カーボンニュートラルへの取り組みが活発化する中、企業の事業運営を100%再エネで賄う「RE100」注2への取り組み、すなわち、企業が太陽光や風力、地熱、バイオマスなどによる再エネ電力をどのように調達し導入するかが、重要な課題となってきている。
再エネ電力の調達方法として、
- 自産・自消する(自家発電し自家消費する)タイプ
- 小売電気事業者から再エネ電力を購入するタイプ
- 環境価値(クレジットや証書など)を購入するタイプ
- 発電事業に投資あるいは長期契約を結ぶタイプ〔「コーポレートPPA(Power Purchase Agreement、電力購入契約。後述)とも呼ばれる〕
などが登場している。
これらの調達方法については、今後、再エネ普及に向けた投資を促進させて(新たにCO2排出量を削減させて)、従来の化石燃料の代わりに普及できるかどうかという「追加性」注3の視点も重視されるようになってきた。
さらに、(1)の自家消費型には、再エネ発電設備の初期コストがゼロで実現できる「PPA」も登場し、急速に普及し始めている(後述)。
以降では、再エネをどのように評価すればよいのか、また調達方法の事例についていくつか紹介してみよう。
リコー:独自の再エネ電力総合評価制度をスタート!
〔1〕大量な再エネ電力の導入でCO2排出量を削減
リコー注4は、日本で最初に、事業で使用する電力を100%再エネで調達する国際的な組織「RE100」に加盟(2017年4月)した。リコーは、これまでも同社の国際事業に大量な再エネを導入してきたが、2020年度に限ってみても、表1に示すように、大量な再エネ電力を導入し、CO2排出量の削減を実施してきた。
表1 リコーの2020年度の主な再エネ導入の取り組みとCO2削減効果・再エネ電力量
リコーは、再エネ電力を調達するために、「再エネ電力総合評価制度」(以下、評価制度)の導入を開始した。この評価制度は、国内における再エネの導入率の向上とその質の確保に向けた、リコー独自のユニークな再エネ導入戦略である。
2021年3月、リコーは、カーボンニュートラルに向けて、事業で使用する電力における再エネ比率の2030年度目標を、従来の30%から50%に引き上げることを発表した注5。同時に、この目標を実現するために次のような戦略を推進している。
- 2021年4月から「第20次中期経営計画」(2カ年計画)注6のスタートにあわせて再エネ比率をESG注7目標に追加する。具体的には、2023年3月までの目標を30%に設定し、従来の目標を2030年から8年前倒し、取り組みを加速する。
- 海外事業では、2030年度までに主要拠点における使用電力を、すべて再エネ100%にする。
- 国内拠点の再エネ率向上と質の確保に向けた施策として、新たに独自の評価制度を導入する。評価制度を活用して、リコー本社事業所(東京都大田区)で使用する電力を2021年度(2021年4月)から100%再エネ化〔CO2削減効果約2,000トン/年、再エネ電力量4.3GWh/年(430万kWh/年)〕する。具体的には、この評価制度に基づいて小売電気事業者のみんな電力(東京都世田谷区)から太陽光発電や風力発電などの再エネ電力を調達する。
〔2〕再エネ電力総合評価制度とは
- Three Ps Balance
今回、リコーが導入した「再エネ電力総合評価制度」とは、表2に示すように、リコーグループが目指すべき社会課題として、
①持続可能な経済(Prosperity)
②持続可能な地域社会(People)
③持続可能な地球環境(Planet)
を定義し、この3つの‘P’のバランスが保たれた社会(Three Ps Balance)に基づき、再エネの価格だけでなく、新規の開発を促進する「追加性」のある電源であることや、環境負荷がより低いこと、地域社会が出資する発電所であることなどを、総合的に評価するものとなっている。
今後、リコーでは、国内で再エネ電力を調達することが決定した拠点では、この評価制度を用いて電力の調達先を選定する。 - 評価制度における評価項目と配点
表2に示すように、この評価制度における評価項目とその配点に関しては、「価格」が100点、「それ以外すべての合計」を100点とし、総計200点で評価する。
自然エネルギー財団の石田氏は、「再エネを導入する場合、再エネであれば何でもよいということではない。リコーの評価制度のように、“追加性”のある電源であることや、環境負荷がより低いこと、さらに地域社会が出資する電源(発電所)であることなど、再エネの質の確保を総合的に評価して導入することが重要になってきています」と指摘した。
表2 リコーの再エネ電力総合評価制度と評価項目(価格が100点、その他が計100点)
※CDPでは、各企業の気候変動への取り組みや戦略などの実績を、「A、A−、B、B−、C、C−、D、D−」の8段階のスコアで評価。特に優れた企業には最高評価のAリストが設定される。
出所 リコー「総合評価制度の概要」資料をもとに編集部で作成
▼ 注1
自然エネルギー財団主催ウェビナー、「日本のエネルギー政策は脱炭素を実現できるのか」(2021年7月9日)中、同財団 シニアマネージャー 石田 雅也 氏の講演「企業の自然エネルギー調達の課題 」
▼ 注2
RE100:100% Renewable Electricity。 TCG(The Climate Group、温室効果ガスのネットゼロ排出を目指す国際NPO)とCDP(気候変動に関する炭素排出量の削減情報などの開示を推進するプロジェクト)によって運営される、企業の電力を再エネ100%で推進する国際ビジネスイニシアティブ(2014年9月設立)。日本国内の支援窓口はJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)。2021年7月現在、RE100加盟企業319社のうち日本加盟企業は57社。
▼ 注3
追加性:Additionality。企業の選択した電力の調達方法が再エネへの投資を促進し、従来の火力発電などを代替えすることによって、CO2削減効果が期待できること。特に、再エネの調達に積極的なRE100を目指している世界の企業の中で、重要視されている。
▼ 注4
株式会社リコー。本社は東京都大田区(1936年2月6日設立)。オフィス向け画像機器を中心とした製品とサービス・ソリューション、プロダクションプリンティング、産業用製品、デジタルカメラなどを世界約200の国と地域で提供。
連結売上高:1兆6,820億円、連結対象子会社・関連会社:227社、連結従業員数:8万1,184名(2021年3月31日現在)。
▼ 注5
https://jp.ricoh.com/release/2021/0302_1/
▼ 注6
https://jp.ricoh.com/-/Media/Ricoh/Sites/jp_ricoh/IR/events/2020/pdf/r02_keiei.pdf
▼ 注7
ESG:Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス。企業が公正に迅速に意思決定を行うための仕組み)の頭文字。企業経営において、ESGの3つの観点を意識して企業活動を行っていくことで企業のサステナビリティ(持続可能性)を向上し、将来的にSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献できる。