カーボンプライシングの可能性と新しい役割
〔1〕カーボンプライシングは経済成長に寄与できる可能性
カーボンプライシングを歴史的に見ると、今から約30年前の、1990年代初頭注9から、北欧諸国で導入されたカーボンプライシング(環境税)は、その後、排出量取引制度も導入しながら各国に拡大し、実践の経験を積んできた。
各国の実践結果から、カーボンプライシング導入の効果は、次のように整理できる。
- カーボンプライシングは、経済成長や雇用に大きなマイナスの影響を与えることはなく、経済成長に寄与してきたこともあり、今後も経済成長に貢献していくと評価されている。日本は、2012年に温暖化対策税(炭素税、政府が決定する)を導入したが、現在、排出量取引制度(CO2排出権の需給バランスによって取引価格が決まる)については、検討中である。
- カーボンプライシングは、CO2排出量の削減が主な目的であるが、技術的なイノベーションを誘発した多くの事例も報告されている。
- カーボンプライシングの導入によって、具体的には次のことが経済成長のプラスに寄与した。
①エネルギー集約型産業(鉄鋼産業、化学産業、セメント産業など)では、減免措置等負担軽減の措置が取られるなど、制度設計上の工夫が行われていること。
②脱炭素に取り組む企業などへの投資が誘発されていること。
③太陽光発電や洋上風力発電など再エネ産業をはじめ、脱炭素関連産業の興隆があったこと。
〔2〕JCLPが制度設計の議論推進とわかりやすく幅広い情報発信を要望
脱炭素時代を迎え、カーボンプライシングは特定の産業が負担するのではなく、脱炭素を考慮して、全産業に対して公平な税負担を課していくうえで、カーボンプライシングは不可欠な施策となってきている。
さらに、カーボンプライシングは、日本の産業の「脱炭素化」と「高付加価値化」を促進する。すなわち炭素生産性注10を引き上げ、「日本の成長戦略実現のための政策手段」として位置づけていくことが、非常に重要となってきている。
JCLPは2021年7月28日、「炭素税及び排出量取引の制度設計推進に向けた意見書」を公表して政府に送付した。
この意見書では、政府に対して、制度設計の議論推進と、わかりやすく幅広い情報発信を要望した。この行動が、政府が進めている「カーボンプライシング制度」の審議(表4)を加速させ、日本の企業の国際競争力を強化し発展させていくことに期待したい。
表4 カーボンプライシングに関する環境省と経済産業省の取り組み状況
※同委員会で、カーボンニュートラルを実現する手法として、カーボンプライシングが議論されている(第1回資料1:世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等を取り巻く状況)
出所 各種資料より編集部で作成
▼ 注9
[参考文献]諸富 徹「日本におけるカーボンプライシングのあり方への提言」、2018年09月18日、グローバルネット2018年9月号
▼ 注10
炭素生産性:CO2排出量当たりの国内総生産(GDP)。