[リレーインタビュー]

DXを加速するIoE(Internet of Everywhere)の展開 !拡大するIoTプラットフォーム「SORACOM」の最新導入事例

― 160カ国・地域で400万回線を突破し2万ユーザーが利用へ ―
2022/08/11
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部
パート2: 新生Sigfox(UnaBiz)と
ガスメーターのDX化(ニチガス)

❶ ソラコムとUnaBiz、ニチガスの協業とSigfox

 ソラコムは4年前の2018年に、シンガポールのUnaBiz注4に出資し、同社にSORACOM Air for Sigfoxを提供するようになった。当時UnaBizは、Sigfoxのネットワークオペレータで、シンガポールと台湾でSigfoxの基地局を整備したり、Sigfoxのソリューションを販売したりしていた。

 一方、日本瓦斯(以下、ニチガス)注5は、Sigfoxを活用して、ガスメーターをネットワークでつなぐNCU〔Network Control Unit、ネットワーク制御装置。製品名:スペース蛍(ほたる)〕を開発し、ガスメーターの検診や異常検知をオンライン化していた。

「このオンライン化に際しては、UnaBizとソラコム、KCCS(京セラコミュニケーションシステム)、ニチガスの4社が協力して、業界でも最大規模のIoTプロジェクトを成功させたのです。しかし、2022年に入って、フランスに本社があるSigfox SA(2009年設立)が経営難となり、再建手続きに入ったというニュースが報道されました。その後、2022年4月に、なんとUnaBizがSigfoxの新しいオーナー注6になったのです」と、ソラコムの玉川氏は、同社とUnaBiz、ニチガスとの緊密な関係を紹介した(写真1参照)。

写真1 Sigfoxの最新動向について対談する、ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲(たまがわ けん)氏(左)、日本瓦斯 代表取締役社長執行役員 柏谷 邦彦(かしわや くにひこ)氏(中央)、UnaBiz Co-CEO & Co-Founder Henri Bong(ヘンリー・ボン)氏(右)

写真1 Sigfoxの最新動向について対談する、ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲(たまがわ けん)氏(左)、日本瓦斯 代表取締役社長執行役員 柏谷 邦彦(かしわや くにひこ)氏(中央)、UnaBiz  Co-CEO & Co-Founder Henri Bong(ヘンリー・ボン)氏(右)

出所 「Sigfox<最新>動向 〜Sigfoxのこれから、大規模ユースケースを紹介〜」(2022年7月)、SORACOM Discovery 2022 ONLINEより

❷ Sigfoxの最新動向

〔1〕新生Sigfox

 Sigfoxは技術名として残るが、Sigfox自体はUnaBizグループの完全子会社となり、事業はUnaBizが推進していく。これによって、UnaBizの従業員数は買収前の90名弱から、現在は240名と約3倍の規模となり、Sigfoxの世界中の法人顧客数は73カ国1,500社を超え、登録デバイスは2,000万台以上、そのうち1,000万台近いデバイスが毎日稼働しているという。

〔2〕Sigfoxの新ビジョン

 図7に、新生Sigfoxの3つのビジョンを示す。

図7 Sigfoxの戦略的方向性:次ステージに向けた3つのビジョン

図7 Sigfoxの戦略的方向性:次ステージに向けた3つのビジョン

出所 「Sigfox<最新>動向 ~Sigfoxのこれから、大規模ユースケースを紹介~」、2022年7月、SORACOM Discovery 2022 ONLINE

(1)テクノロジーコンバージェンス

 1つ目のビジョンは、「テクノロジーコンバージェンス」(技術の融合)。これはSigfoxが、他のLPWA技術と連携(融合)をすることよって、Sigfox技術の用途を広げ、今後も有効であり続けることができる。

 例えば、LoRaWAN(LoRa Alliance)やELTRES(ソニー)、Wi-SUN(IEEE 802.15)などのアンライセンス周波数帯域(日本では920MHz帯)を利用している他の非セルラーLPWAにまで、Sigfoxのプロトコルや技術をオープンにして広げていく。

 4年後には、4Gや5Gに続いて、さらに6Gのような、より広帯域化された低遅延のセルラー技術が登場するが、これらをベースにしたセルラーLPWAは、さらにクリティカルIoT(基幹業務用IoT)のユースケースに対応するものに進化していく。

 UnaBizのヘンリー・ボン氏は、「様々なIoT向けのいろいろなLPWAプロトコルの間にブリッジを築き、それらの技術の連携を可能にし、互換性をもたせていこうと考えています。これがUnaBizによる新生Sigfoxの1つ目のビジョンであり、現在の最優先事項となっています」と述べた。

(2)超低価格化

 2つ目のビジョンは、「Sigfoxの低価格化」。

 表5に示す主力ビジネスにフォーカスして取り組んでいく。現在、Sigfoxのモジュールは2ドル程度であるが、フランスのSigfoxの研究開発チームが取り組んでいる技術を使えば、Sigfoxを使ったセンサーモジュールは、近い将来もっと低価格化できるという。

表5 Sigfoxによるスマートメーター、トラッキング、設備管理のユースケース

表5 Sigfoxによるスマートメーター、トラッキング、設備管理のユースケース

出所「Sigfox<最新>動向 ~Sigfoxのこれから、大規模ユースケースを紹介~」、2022年7月、SORACOM Discovery 2022 ONLINE、セミナー内容をもとに編集部で作成

「例えば、当社が取り組んでいるトラッキング(追跡)ソリューション(表5)は、1ドルを下回る価格になるでしょう。コネクテッドデバイスで1ドルを下回る価格を実現できれば、大規模なマッシブIoT(大量なIoTデバイス接続)の機会がさらに広がっていきます」(ヘンリー・ボン氏)。

(3)サステナビリティ

 3つ目のビジョンは、「サステナビリティ」。

 ヘンリー・ボン氏は、「サステナビリティは、UnaBizの現在の戦略の中心にある重要なテーマです。数年後には、センサーの数は何億、何十億にもなります。それらのセンサーをどうやって作るかというだけでなく、それらのライフサイクルが終わったときに、どう回収するのかも考えておく必要があります。それがサステナビリティにとって重要なことなのです」と続けた。

 新生Sigfoxが、今後、取り組みたいテーマの1つとして、環境発電(エネルギーハーベスティング)注7も挙げた。これによって、センサーにバッテリーを搭載する必要がなくなり、代わりに環境発電を使ってセンサーに電気を送り、データを送信できるようになる。

〔3〕注目されるSigfoxの「アイボリープロジェクト」

 ヘンリー・ボン氏は、次世代Sigfoxの新しい展望について、現在取り組んでいる新たな「アイボリープロジェクト」(Ivory Project)を明らかにした。

 同プロジェクトでは、Sigfoxの機能が強化され、Sigfoxで「メッセージ通信」注8ができることを目標にしている。同時に、省電力化によってバッテリー消費量も少なくし、モジュールのコストは1ドル未満に抑えられる。これによってSigfoxは、大規模IoTシステムを実現するために、低コストで使い勝手の良いビジネスモデルを作ることができる。


▼ 注4
UniBiz Pte Ltd.:[本社所在地]22 New Industrial Road, Singapore、[設立]2016年7月、[従業員数]240名。Sigfox、LTE-M、NB-IoT、LoRaなどのLPWA技術に対応したセンサー製品の設計・製造、およびクラウドプラットフォームを提供。2022年4月にSigfoxを買収した。
UniBiz Japan(東京都中央区)は2021年6月に設立。

▼ 注5
日本瓦斯株式会社(商標:ニチガス):[本社・本店所在地]〒151-8582 東京都渋谷区代々木4丁目31番地8号、[設立]昭和30(1955)年7月29日、[代表者]代表取締役社長執行役員 柏谷邦彦、[資本金]70億7千万円、[従業員数]1,775名(連結、2022年4月1日時点)。[主な事業]LPガス事業、都市ガス事業、電力事業(電力販売)、生活関連事業(ガス機器の販売)等。
ニチガスは2022年6月、経済産業省/東京証券取引所共催の「DXグランプリ2022」に選定された。

▼ 注6
トゥールーズの商事裁判所による管財人としてunabiz/

▼ 注7
環境発電(エネルギーハーベスティング):日常的に身の回りにある、わずかなエネルギーを採取(ハーベスティング)し、電気に変換して活用する技術。例えば、太陽光やオフィスの照明の光や機械が発するわずかな振動、人間の歩行時に体重でかかるマットへの圧力、熱などのエネルギーが利用される。

▼ 注8
Sigfoxは、主に小さなセンサーデータ(温度や湿度、電圧、電流、圧力、照度等)の送信を行うことを想定して開発されているため、非常に単純化され、低消費電力(長時間運用が可能)、長距離通信が可能な通信仕様が特長である。このため、上り通信は最大12バイトのデータ(センサーデータであれば十分な容量)を送信する限定的な仕様となっている。これに対してアイボリープロジェクトにおける次世代Sigfoxでは、通常のメッセージ通信も可能となる仕様が検討されている。

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