東日本大震災から学ぶ危機管理システム
今回の未曾有の大震災で受けた被害の原因は、何であったのだろうか。
答えは明確である。それは、我々が、過去の歴史的事実を学ばなかったことである。
大震災に対する国家的な危機管理システムを構築するための基本は、起こりうる最悪の状況のもとに、発生する問題をできる限り解決する手段を考えることである。
しかし、現在我々がもつあらゆる科学的手段を使っても、残念ながら大震災の発生日時や場所・規模を予測することは不可能である。
起こりうる最悪の状況を科学的手段で立証できないならば、我々は過去1,000年以上の歴史を通して、現在我々が住んでいる地域で何が起こったかを克明に調査し、この結果から、災害時における危機管理システムの在り方を考えなければならない。
今回の大震災の被害のなかで、我々が歴史から学ばなかったために起きた多くの悲劇がある。そのもっとも大きな例が、原子力発電所が被害を受けたことであるが、この被害のなかには、次の2つの重要な事実がある。
- 第1は、東北電力の女川(おながわ)原子力発電所は今回の大震災、大津波でもほとんど被害を受けていないこと、
- 第2は、東京電力の福島第一原子力発電所の悲惨な状況(福島第一原子力発電所:1号機〜6号機の廃炉を決定)
である。この両者の違いは何であったのであろうか。
それは、東北電力は、女川原子力発電所建設の際、危機管理の立場から、西暦869年に三陸を襲った貞観(じょうがん)大地震(マグニチュード約8.3と推定されている注1)と津波のデータを真剣に調査し、参考にして建設した。これに対し、東京電力には、東北電力のように過去の歴史から学ぶ危機管理の発想がなかったことである。
その結果として、福島第一原発の事故は、地域住民に対する甚大な被害と、日本の原子力政策の将来に対して大きな影響を与え、国益を損なった。
東京電力が、原子力発電所の建設後でも貞観大地震のことを調査し、危機管理を十分に行っていれば、震災後の原子力発電所に対してはるかに有効な復旧の手段が打てたはずである。
また、行政が、過去の歴史から大津波に関する情報を地域住民に徹底して伝えていれば、大津波による人災を大きく減らすことができたはずである。
この東日本大震災の経験をもとに、災害の被害を最小にとどめ、また、被災後の復旧を迅速に行うためには、現在、社会インフラとして欠かすことのできない情報通信(ICT)基盤を活用することが重要である。
それでは、ICTを活用した、災害に強い危機管理システムの構築を早急に行うためには、どのような情報が必要となるのだろうか。
▼注1
参考文献:宇佐美龍夫、石井寿、今村隆正、武村雅之、松浦律子(2013)『日本被害地震総覧 599-2012』東京大学出版会 p.45
◆写真1 出所