[特集]

NGNの核となるIMS(2):IMSのアーキテクチャ、インタフェースとプロトコル

2006/09/08
(金)
SmartGridニューズレター編集部

この連載では、NGN(Next Generation Network、次世代ネットワーク)を実現する中核的な技術であるIMS(IP Multimedia Subsystem、IPマルチメディア・サブシステム)について、そのアーキテクチャからセキュリティ、QoS、IPTV応用などに至るまで、やさしく解説していきます。第2回目の今回は、IMSの全体構成、アーキテクチャとそこに含まれる機能要素、機能要素間の標準化されたインタフェース、そしてそのインタフェース上で使われるプロトコルなどを概観します。

IMSの基本構成と3つの特徴

第1回目で解説したように、IMSはこれからのIPベースのネットワークにおいて、サービスを提供するうえでの基本的な枠組みとなります。それでは、IMSはどのような要素から構成され、各構成要素はどのように役割分担がされているのでしょうか?

IMSのアーキテクチャは、次のような特長をもっています。

(1)IMSは、IPをベースとするパケット・ネットワーク上で、さまざまなサービスを実現するための共通の仕組みを提供する。

(2)IMSは、通信事業者が提供するネットワークの中に閉じた形で、通信事業者主導のもとで、サービスを提供することを前提としている。

(3)IMSは、ユーザーがアクセスするネットワーク間を移動(ローミング)しても、移動先からそのユーザーのホーム網(ホーム・ネットワーク)にアクセスし、ホーム網側からサービスを提供することを基本とする。

このような特長をもつIMSの基本要素を、図1に示します。

図1 IMSの基本要素
図1 IMSの基本要素

まず、(1)の特長により、IMSは、ユーザーがADSLやFTTHなどのさまざまな手段でアクセスしてくるIP網上に位置しています。さらに、IMSは、さまざまなサービスを実現するアプリケーション・サーバ群から共通に利用されます。サービスで利用する通信パス(通信路)の設定や開放の制御は、前回述べたようにSIP(Session Initiation Protocol)を用います。そのために、ネットワークの中の複数のSIPサーバが連携します。

また、(2)の特長から、IMSでは、IP網上で通信サービスを提供するためのすべての構成要素を規定しています。この中には、アプリケーションに応じて適切なサービス品質(QoS)を実現するための仕組みや、セキュリティ、課金のサポート機能なども含まれます。端末のクライアント機能もIMSアーキテクチャに含まれます。

最後に、(3)の特長から、IMSは、ユーザーがローミングしたときにもホーム網側に在圏するときと同じサービスを提供するために、ネットワーク間で連携して「ホーム網制御」を行います。これによってユーザーは、移動先の網に依存しないで、常にどこでも同じサービスを利用することが可能となります。

IMSのアーキテクチャ

それでは、IMSのアーキテクチャについてもう少し詳しく見ていきましょう。図2は、アーキテクチャの全体像を示したものです。また、表1に各種の機能要素の概要を示します。

図2 IMSアーキテクチャ
図2 IMSアーキテクチャ

 

表1 IMSの主な機能要素
表1 IMSの主な機能要素

IMSにおいて核となるのは、CSCF(呼セッション制御機能)と呼ばれるSIPサーバです。CSCFは、網間を移動してもIMSの利用を可能とするなどSIPの機能を拡張し、セッションの設定制御やアプリケーション・サーバ(AS)へのアクセスによる、サービス処理の起動を行います。

CSCFには、ユーザーが直接アクセスするP-CSCF(Proxy CSCF)と、ホーム網で他網とのゲートウェイ機能をもつI-CSCF(Interrogating CSCF)、ホーム網におけるセッション制御を行うS-CSCF(Serving CSCF)の、3種類があります。

【1】P-CSCF

P-CSCFは、ユーザーの端末とアクセス・ネットワークを経由して接続されます。例えば、携帯電話用のW-CDMAネットワークでは、外部ネットワークとの接続機能をもつGGSN(Gateway GPRS Support Node)と呼ばれるパケット交換機を経由して、接続されます。また固定のブロードバンド・アクセスや無線LANからのアクセスでは、アクセス系のIP網にある中継ルータを経由します。

P-CSCFは、ユーザーの登録時に割り当てられ、認証を行った後、ユーザー端末との間にIPsecトンネルを設定します。ユーザーからのすべてのSIPメッセージは、IPsec上を安全に転送され、P-CSCFでメッセージの合理性チェックも行われます。

また、P-CSCFは、ユーザー間でやり取りされるSIPメッセージを効率良く転送するために、必要に応じてメッセージを圧縮してコード化する処理も行います。これは、特に信号チャネルの帯域が限られた、無線アクセスを利用する場合に有効です。

ユーザーは、ローミングの際に、移動先の網のP-CSCFを利用することも、ホーム網のP-CSCFを利用することも可能です。移動先の網にIMS機能が備わっていないなどの理由でホーム網のP-CSCFを利用した場合は、VoIPなどのユーザー・トラフィックも、すべてホーム網を経由することとなります。

一方、移動先のP-CSCFを利用すれば、例えば移動先の網にいるユーザー間のトラフィックは、移動先の網内でローカルに効率良く転送されます。なお、ユーザーがホーム網に在圏していれば、必ずホーム網のP-CSCFを利用します。

【2】I-CSCF

I-CSCFはホーム網に位置し、ユーザーの登録時に必要に応じてSLF(加入者ロケータ機能)にアクセスし、そのユーザーの加入情報が格納されたHSS(ホーム加入者サーバ)を特定します。そして、HSSからの指示に従ってユーザーを担当するS-CSCFに、登録処理を引き継ぎます。I-CSCFは、HSSが複数ある場合の負荷分散を円滑化すると同時に、網内の構成を外部から隠蔽する役割も担います。

【3】S-CSCF

S-CSCFは、SIP登録サーバとして、HSSからダウンロードした加入情報やユーザーの現在位置情報を保持します。また、ユーザー間のセッション制御を行い、必要に応じてAS(アプリケーション・サーバ)のサービス処理を起動します。さらに、ユーザーが通信相手を電話番号で指定した場合に、これに基づいてルーティングするような機能ももっています。

S-CSCFは、SIPベースのISC(IMS Service Contorol、IMSサービス制御)と呼ばれる標準インタフェースを介して、異なるサービスで共用される共通イネーブラ(プレゼンスやメッセージングなど、個々のサービスの実現のために利用する汎用的な機能)や、個々のサービスごとの制御を行うアプリケーション・サーバと接続されます。

これによって、複数のアプリケーション開発業者からのさまざまなサービスを、柔軟に導入することが可能となります。

また、Parlayゲートウェイを導入することにより、Parlay(非営利の業界団体)という従来から電話網を主なターゲットに開発されてきた標準API(Application Programming Interface)が、IMSに拡張されたものを利用することもできます(サービスを提供するためのセッションの設定、開放やユーザーの位置情報の取得などの切り口をサービスを制御する外部サーバに提供)。

このParlayを利用すると、サービスの開発業者が、広くビジネス向けなどのサービスを開発し、通信事業者に提供できるようになります。

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