IoT関連の技術展示会「IoT Technology 2016」(2016年11月16日~18日:パシフィコ横浜)で、ロームは工場での利用を想定した無線通信のデモを展示していた。工場で稼働する製造機器の稼動状態の監視を想定したもので、場所に応じて2種類の無線通信技術を使い分けることを提案するものだ。
図 ロームのブースでは、工場を模した設備を用意して無線通信技術のデモを披露していた
撮影 SmartGridニューズレター編集部
ブースではコンプレッサーで水を吸い上げ、透明の水槽に入れる設備を用意し、各所に無線通信機能を持ったセンサーを取り付け、計測値が変動する様子を見ることができた。注目すべきは、場所に応じて2種類の無線通信技術を使い分けていたことだ。水温センサーや気圧センサーなどはWi-SUN HANで通信し、振動センサーや照度センサーなどはドイツEnOcean社が開発した無線通信技術「EnOcean」で通信していた。
Wi-SUNは、電池でも長期間稼働することを狙った通信規格だ。ロームの担当者もWi-SUNについて「20mWほどの電力で電波を飛ばせる。条件が良ければ1km先まで電波が届く」と語った。しかし、こう付け加えた「電池で長期間稼働するのは確かだが、電池はいずれ切れる。センサーが数個なら電池交換もすぐ済むが、大量にセンサーを設置してしまったら電池交換の作業は長い時間がかかる重労働になってしまう」。
担当者は、「無線通信機能を持つセンサーは、商用電源で稼働させることが望ましい。電池を交換する手間がなくなる」と考えているという。では、商用電源が届かない場所でばどうすればよいのか。その答えがEnOceanだ。
EnOceanが電波を飛ばすのに必要な電力はわずか1mW。通信可能な距離は100m程度だという。そしてEnOceanの最大の特徴が、電源を必要としないという点だ。「エナジーハーベスティング(環境発電)」という技術で発電しながら動作するのだ。
エナジーハーベスティングとは、わずかな振動などから電力を作る技術。例えば工場ならモーターやコンプレッサーなど、常に振動を発生させている機器がある。この振動から通信に必要な電力を得られるのだ。押しボタン型のスイッチなら、人間がスイッチを押す力で電力を作る。電力を送るケーブルに取り付けて、ケーブルから出て来る漏れ磁束で電力を作るセンサーもある。エナジーハーベスティングを利用できない場所なら、小さな太陽光発電パネルを付ければ良い。今回のデモでも、照度センサーなどは太陽光発電パネルで電力を得ていた。
図 展示台の隅には振動センサーが取り付けてあった。展示台の下にあるコンプレッサーが発生させる振動で発電して通信する
撮影 SmartGridニューズレター編集部
EnOcean社は2001年にSiemensの技術者が立ち上げた企業。同社の無線通信技術はビル施設を中心に、多くの用途で実用のものになっている。例えば、照明を点灯/消灯させるスイッチに、同社の技術を利用した例がある。配線工事をすることなく、手軽にスイッチを付けられるので、好評を得ているという。EnOceanの技術は、「IoT」という言葉よりもずっと長い歴史を持ち、十分な実績を積んできたものだ。
ロームによると、最近になって工場の器機の稼働状況監視にEnOceanのセンサーを使いたいという顧客が現れ始めたという。モーターの稼動状態を調べるために使うという顧客が多いそうだ。ロームでは顧客と共同で実証実験を実施しているところで、現在のところ良好な結果が得られているという。また、EnOceanの通信とWi-SUNの通信を仲介するゲートウェイの開発も検討している。
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