再エネ主力電源の「切り札」として政府が注力
2050カーボンニュートラルの実現を目指して、日本の再生可能エネルギー(以下、再エネ)の主力電源化の「切り札」として普及が急がれている洋上風力発電。海域利用に関する法整備注1がされ、2030年までに10GW、2040年までには30~45GWの案件形成が目標とされている。2024年6月には経済産業省/NEDOによって、日本初の大規模な浮体式洋上風力発電の事業者が選定注2されるなど、実証実験に着手している。
洋上風力発電には、図1に示すように、「着床式」と「浮体式」の2種類がある。
図1 洋上風力発電の着床式と浮体式の設置場所の違い
出所 産総研マガジン、「“洋上風力発電”とは?」
着床式風力発電は、水深が50mよりも浅いところに設置されるため建設が容易で、遠浅の海岸が多い欧州などはこの方式が多い。一方、日本は急に水深が深くなる地形のため着床式の建設エリアは限定されるため、浮体式風力発電が期待されている。この方式であれば、国土の面積や水深に関係なく、広い海域で発電が可能となる。また、地震や津波の影響を受けにくいといったメリットもある。ただし、未成熟な技術領域であり課題は多い。
浮体式の合理的な建設システムの確立を目指すFLOWCON
国土交通省は、2025年1月20日、浮体式洋上風力発電の建設システム確立を目的とした「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合」(FLOWCON:フローコン)注3を認可し、同日認可書交付式を行った。この技術研究組合は、経済産業省のCIP(Collaborative Innovation Partnership、技術研究組合)制度に基づいて、複数の企業や大学などが協同して試験研究を行い課題解決や技術実用化を図るために、主務大臣の認可によって設立される法人。
2024年3月には、浮体式洋上風力発電の核となる浮体システムの設計・製造に関する「浮体式洋上風力技術研究組合」(FLOWRA:フローラ)が発足注4しているが、今回のFLOWCONの設立によって、FLOWRAとともに浮体システムの設計・製造からその建設まで、技術開発の組織が整ったことになる(図2)。
図2 浮体式洋上風力発電の2つの技術開発組織
出所 各種資料から編集部作成
FLOWCONを構成する企業群と研究内容イメージFLOWCON(洋上風力建設システム技術研究組合)は、図3右下に示すように海上工事に実績をもつ建設会社4社をはじめ、海洋鋼構造物関連の鉄鋼系エンジニアリング会社、大型クレーンなどの重機械メーカー、鋼製浮体の製造会社が組合員となっている(注1も参照)。
さらに賛助会員として、鋼製浮体関連2社、鉄鋼系エンジニアリング会社も参加する。
各社の協同によって、浮体式洋上風力発電をより早く大量に、かつ低コストで設置するための合理的な建設システムの確立を目指す。そのほか、海上作業基地に必要な技術開発、さらに海上施工に関わる気象海象予測システムの開発を行う(図4)。同組合の資料注5によれば、まずは海上施工の中で最も重要となる、浮体への風車搭載作業に関して、複数の方法論を比較・検討したいとしている。
図3 浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON)の概要
出所 国土交通省、港湾局海洋・環境課 プレスリリース 令和7(2025)年1月16日、 「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON)の認可について」の別紙1
図4 浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON) 研究内容イメージ
WF海域:Wind Farm(ウィンドファーム)海域。多数の風力発電設備(風力タービン)を1カ所に集合させて設置する海域のこと。
出所 国土交通省、港湾局海洋・環境課 プレスリリース 令和7(2025)年1月16日、 「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON)の認可について」の別紙1
FLOWRA提案の「浮体式洋上風力における共通基盤開発事業」が採択
2025年2月、FLOWCONの設立発表と関連して、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公募していた「グリーンイノベーション基金事業・浮体式洋上風力における共通基盤開発事業」において、前述したFLOWRA(浮体式洋上風力技術研究組合)が提案していた「浮体式洋上風力における共通基盤開発事業」(図5)が、NEDOで採択され、浮体式洋上風力関連の動きが急速に活発化している。
図5 NEDOで採択されたFLOWRAの「浮体式洋上風力における共通基盤開発事業」
出所 NEDOニュースリリース2025年2月13日、『グリーンイノベーション基金事業で新たに「浮体式洋上風力における共通基盤開発」に着手します』
注1:海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号)
注2:経済産業省/NEDO、『グリーンイノベーション基金「浮体式洋上風力発電実証事業」の実施海域及び事業者を決定しました』、2024年6月11日
注3:組合員は7者で、五洋建設、東亜建設工業 、東洋建設、日鉄エンジニアリング 、若築建設、IHI運搬機械、住友重機械工業。また賛助会員は3者で、カナデビア、JFEエンジニアリング、ジャパン マリンユナイテッド。
https://www.mlit.go.jp/report/press/port01_hh_000286.html
注4:2025年2月現在のFLOWRAの加盟企業は20社。INPEX、NTTアノードエナジー、ENEOSリニューアブルエナジー、大阪ガス、関西電力、九電みらいエナジー、コスモエコパワー、四国電力、JERA、中国電力、中部電力、東京ガス、電源開発、東京電力リニューアブルパワー、東北電力、北陸電力、北海道電力、丸紅洋上風力開発、三菱商事洋上風力、ユーラスエナジーホールディングス。
https://flowra.or.jp/overview/
注5:「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON)の発足について」
参考サイト
国土交通省、港湾局海洋・環境課 プレスリリース 令和7(2025)年1月16日、
「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON)の認可について」
五洋建設株式会社、What’s New 2025年1月20日、「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合への参画について」
同上 別添資料
「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON)の発足について」
東亜建設工業株式会社、ニュースリリース 2025年1月20日「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合への参画について」
経済産業省、ニュースリリース 2024年6月11日、 「グリーンイノベーション基金『浮体式洋上風力発電実証事業』の実施海域及び事業者を決定しました」
NEDO、ニュースリリース2025年2月13日、『グリーンイノベーション基金事業で新たに「浮体式洋上風力における共通基盤開発」に着手します』