[【連載】立ち上がる気候テック市場 ビジネス編]

第1回 G7での気候変動への言及と気候テックの全体像

― 輸送・エネルギー等7分野への投資動向を見る ―
2023/09/22
(金)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

2023年7月27日、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、米国・ニューヨークの国連本部で会見し、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」(The era of global warming has ended and “the era of global boiling has arrived”)と全世界に警告を発した。その2か月前の2023年5月19日~21日、広島で開催されたG7注1広島サミットでは、現代の世界におけるさまざまな重点課題について取り上げられたが、その中の1つが気候変動であった。その対策として、個別声明の中では気候変動対策に役立つ技術の推進について触れられた。この技術は「気候テック」注2(Climate Tech)と呼ばれ、近年、大きな注目を集めそのビジネスが立ち上がり始めている。 連載の第1回目では、この気候テック・ビジネスの全体像や投資動向について整理する。

G7広島サミット開催

 広島において開催されたG7広島サミット(2023年5月19日~21日)には、日本のほか、イタリア、カナダ、フランス、米国、英国、ドイツ、そしてEUの首脳が参加した。また最終日の21日にはウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が来日し、日・ウクライナ首脳会談が行われたほか、岸田総理大臣とともに原爆死没者慰霊碑への献花なども行われた。

G7における気候変動分野への言及

 そのG7では、さまざまなトピックについて議論が交わされ、その結果はG7広島首脳コミュニケ(共同声明)という形で英語版注3、日本語仮訳版注4が公開されている。中身を見ると、軍縮や世界経済、貿易、食糧安全保障、教育、デジタル、ジェンダーといった多様なトピックの中に気候(Climate Change)や環境(Environment)、エネルギー(Energy)、クリーン・エネルギー経済(Clean Energy Economy)といったトピックも取り上げられている。

 例えば、気候変動については「我々の地球は、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの世界的危機並びに進行中の世界的なエネルギー危機からの未曾有の課題に直面している注5」と、気候変動が現在の世界的危機であるという認識を示している。また、エネルギーに関しては「我々は、エネルギー安全保障、気候危機及び地政学的リスクに一体的に取り組むことにコミットする注6」ことが示されており、エネルギーが、気候危機だけではなく、地政学的なリスクにも関連していることが示されている。

G7クリーン・エネルギー経済行動計画における7つのトピック

 気候変動やエネルギーに関するトピックは、G7広島首脳コミュニケと合わせて発表された個別声明の中の1つである「G7クリーン・エネルギー経済行動計画注7」でも詳しく触れられている。また、4月15日と16日に北海道札幌市で開かれた関係閣僚会議G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合注8における「G7 気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケ注9」においても、関連するテーマが紹介されている。

 個別声明として発表された「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」では、次の7つのトピックについて触れられている。

  1. 一致団結して前進
  2. インセンティブの効果の最大化
  3. 貿易政策を通じた排出量削減
  4. 強靭なグローバル・サプライチェーンの確立
  5. クリーン・エネルギー技術の推進
  6. クリーン・エネルギーの物品およびサービスの貿易・投資の促進
  7. グローバル・パートナーへの支援

 これら7つのトピックでは、まずパリ協定の目標達成に向けて一致団結して前進する必要があるという点(トピック1)や目標達成に向けクリーン・エネルギーへの移行を行うためには新たなインセンティブ(目標達成のための誘因の意味)や産業政策などが必要という点(トピック2)といった枠組みに関する点に触れたうえで、より具体的なトピックに触れている。

 具体的なトピックとしては、貿易財を生産する際に生じた排出量の明確化などによって脱炭素化および排出削減を促進する貿易政策を追求する点(トピック3)、クリーン・エネルギーや重要鉱物資源のグローバル・サプライチェーンを整備する点(トピック4)、気候変動対策に有意義な環境的な物品やサービス、技術を特定し、これらの生産と貿易を促進する点(トピック6)、世界銀行などの国際開発金融機関をよりグローバルな課題に対応できるよう進化させるなどの取り組みを進める点(トピック7)が定められている。


注1:G7:Group of Sevenの略。ジー・セブン。フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国を指し、「主要7か国首脳会議」(G7サミット)といわれている。実際の会議には、7か国に加えてEU(欧州連合)も参加している。
注2:この連載では、Climate Techを「気候テック」と日本語化して解説する。
注3https://www.g7hiroshima.go.jp/documents/pdf/Leaders_Communique_01_en.pdf
注4https://www.g7hiroshima.go.jp/documents/pdf/Leaders_Communique_01_jp.pdf?V20230521
注5:G7広島首脳コミュニケ日本語仮訳 8ページ。
注6:G7広島首脳コミュニケ日本語仮訳14ページ。
注7:英語版は https://www.g7hiroshima.go.jp/documents/pdf/session5_02_en.pdf 、日本語仮訳版は https://www.g7hiroshima.go.jp/documents/pdf/session5_02_jp.pdf を参照。
注8:G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合 | 環境省、https://www.env.go.jp/earth/g7/2023_sapporo_emm/index.html
注9:英語版は https://www.env.go.jp/content/000127828.pdf 、日本語仮訳版は https://www.env.go.jp/content/000127829.pdf を参照。

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