省庁の壁を越える規制緩和:インフラ空間の活用と国際標準化の主導
省庁の壁を越える規制緩和:インフラ空間の活用と国際標準化の主導
2026年3月10日、「日本成長戦略会議(第3回)」でペロブスカイト太陽電池が戦略的重点技術に位置付けられ、規制緩和と税制優遇の方針が確認された。複数省庁にまたがる規制の見直しを内閣官房が主導することで、省庁横断の調整に優先順位が与えられる点が、個別省庁の補助事業とは大きく異なる。
税制面では、GI(グリーンイノベーション)基金採択事業者への固定資産税課税特例が設けられた。規制面では、高速道路の防護壁、鉄道インフラ、空港などのインフラ空間への設置を可能にする建築・安全基準の緩和を順次進めることが確認された。インフラ空間が重視されるのは、設置面積が大きく施工の標準化や横展開が容易となり、普及の加速が見込めるためだ。
注目すべきは、規制緩和と実証実験が連動して進む点である。①法令整理が進めば実証の選択肢が広がり、②実証データが蓄積されれば基準見直しの根拠となる。「整えてから動く」のではなく「動きながら整える」という設計だ。
その一例が、NEDOの施工ガイドラインである。2026年3月に公表された「フレキシブル太陽電池を利用した太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン」は、実証実験等を通じて得た知見を反映した現時点での到達点であり、「製品仕様や設置・施工技術の進捗に伴い、随時アップデートを行う」と明記されている。完成を待つのではなく、先行公表して実態に合わせて更新し続ける手法をとっており、規制と実証を連動させる政策設計の姿勢が表れている。
さらに、業界団体による標準化の動きも本格化している。一般社団法人日本電機工業会(JEMA)は2026年3月25日、ペロブスカイト太陽電池の評価法やシステム標準化に関する業界ガイドラインを策定・公表した。民間レベルでの安全基準や性能評価の標準化を先行して進めることは、国内での施工・運用の円滑化にとどまらず、IEC(国際電気標準会議)などを通じた国際標準化の議論において、日本が主導権を握るための重要な基盤となる。
また、米・独・伊・豪などの同志国と連携した国際標準策定も確認された。現在、太陽電池の国際調達は価格が最優先され、コスト面で圧倒的な中国勢が市場を制している。日本は、「脱炭素」「供給安定性」「資源循環」といった要素を各国の調達基準に組み込むことで、価格だけに依存しない公平な競争環境を同志国と共に整えることを目指している。
社会実装の本格化:普及促進協議会(JPSC)の発足とインフラ実証
2026年5月20日に開催された第10回官民協議会では、社会実装加速に向けた2つの動きが発表された。
1点目は、2026年5月15日に設立された「一般社団法人日本ペロブスカイト太陽電池普及促進協議会」(JPSC)である。メーカー、施工業者、部材メーカーなどの業界横断団体として設立され、標準化や施工ノウハウの共有、普及推進を担う。これまで政策議論の中心だった官民協議会の側に、業界側の受け皿が生まれた形だ。ただし、現時点での市場は立ち上がり段階にあり、JPSCが自律的に市場を牽引するのは量産体制確立の先となる。
2点目は、NEXCO西日本(西日本高速道路株式会社)による社会実証の採択である(表3参照)。名神高速道路・桂川パーキングエリア(上り線)の駐車スペース屋根への設置が決まり、インフラ空間への実装が議論から実証フェーズへと前進した。高速道路という公共性の高いインフラへの設置は、技術の視認性と社会的認知度を高める効果ももつ。
官民協議会自体の役割も変化しつつある。2024年度は「次世代型太陽電池戦略」の取りまとめが主な目的だったが、2025年度の第9回以降は「戦略の進捗確認とフォローアップ、課題特定と施策の具体化」へと重点が移っている。これに合わせて、実務担当者レベルの情報共有を目的とした「次世代型太陽電池の実装加速連絡会」も新設された。社会実装に向けた体制整備が着々と進んでいる。
今後の展望:かつてのシリコン型太陽電池の教訓を活かした市場形成
2026年6月18日の数値目標決定をもって、政策の枠組みは整ったといえる。残るは実装だ。直近の焦点は、2027年度に予定される積水化学工業の100MW級製造ラインの稼働である。コストと品質が計画水準を確保できるかが、計画全体の現実性を測る最初の指標となる。
また、国際標準化の推進、2032年度以降のFIT/FIP注5満了に備えたタンデム型などの新技術確立、廃棄・リサイクルシステムの整備、長期屋外実績データの蓄積など、今後の課題も多い。
1990年代、シリコン型太陽電池で世界的なシェアを誇った日本メーカーは、政府助成の終了、中国メーカーの台頭、技術・人材の流出によって競争力を失った。当時の反省と教訓が、ペロブスカイト太陽電池における各種取り組みの大きな原動力となっている。この新たな太陽電池が文字通り日本の次世代を切り拓くのか、期待とともに見守りたい。
(特集「第1部 その2」に続く)
注5:FIT:Feed-in Tariff(フィードイン・タリフ)、再エネ電力の買取りを国が一定期間保証する制度。
FIP:Feed-in Premium(フィードイン・プレミアム)、FITの後継制度で、市場価格にプレミアムを上乗せする。2012年以降にFITで導入された事業用太陽光設備が2032年度以降、順次買取期間を満了する。
参考リンク
経済産業省 2025年5月、「次世代型太陽電池に関わる動向について」
環境省 2026年3月30日、「太陽光発電整備計画に基づく今後の取組方針について」
経済産業省 「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」
環境省 2026年3月30日、「政府部門におけるペロブスカイト太陽電池の率先導入について」
経済産業省 「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」



