シリコンと競合しない「新市場」の創出

一般社団法人 日本ペロブスカイト太陽電池普及促進協議会 理事
瀬川 浩司(せがわ ひろし)氏
1989年3月京都大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)。京都大学助手、東京大学助教授等を
経て、2006年4月東京大学先端科学技術研究センター 教授、2026年4月東京大学先端科学技術研究センター
シニアリサーチフェローに就任、現職。2009年内閣府最先端研究支援プログラム「低炭素社会に資する有機系太陽電池の開発」の中心研究者として産官学連携プロジェクトを推進、2015年以降現在まで複数のペロブスカイト太陽電池開発プロジェクトで研究代表者。2026年有機系太陽電池技術研究組合(RATO)理事長。
─編集部 国内市場にとどまらず、海外市場の開拓にはどのように取り組む計画ですか。
JPSC ペロブスカイト太陽電池は、ヨウ素(I:Iodine、イオダイン)をはじめとする原材料をほとんど国内で調達できます。この日本の強みも活かし、サプライチェーンの構築をしっかりと行い、その後に世界に打って出る計画です。私(編注:田中氏)は、2006〜2010年にかけて、NTTグループで世界中の太陽光モジュール(太陽光パネル)を集めて評価するという業務に携わりました。そのなかには、多数の国内メーカーが存在しましたが、今では、すべて撤退してしまいました。しかし、その水面下では日本の研究者が探求を続け、ペロブスカイト太陽電池という新たな技術が誕生しました。私は、この日本発の技術を、今度こそ絶対に日本の産業としてものにしなければいけないという強い思いで、取り組んでいます。
─編集部 ペロブスカイト太陽電池の量産化・商用化では中国勢が先行しているとの見方もありますが、現状をどう捉えていますか。
JPSC JPSCは、商用化にあたって事業者が直面する「共通の課題」の解決や製品の登録を担う組織として立ち上げたのであり、中国への危機感を直接の理由として設立したわけではありません。私(編注:瀬川氏)の実感としましては、中国製のモジュールが日本製の品質や技術と比べ優れているとは思っていません。実際に中国製モジュールをいくつか入手し、調査・測定した結果、技術的な面で過度な心配をする必要はないと感じています。
シリコンと競合しない「新市場」の創出
─編集部 日本製ペロブスカイト太陽電池の本格的な市場投入(商用化)は、いつ頃を見込んでいますか。
JPSC 日本製のペロブスカイト太陽電池が市場へ本格投入されるのは、2027年頃になると見込んでいます。
─編集部 市場参入にあたり、既存のシリコン太陽電池と直接競合することになるのでしょうか。
JPSC ペロブスカイト太陽電池とシリコン太陽電池では、適用領域がまったく異なります。これまでシリコン太陽電池が設置できなかった場所に置くのが基本なので競合はしません。例えば、シリコン太陽電池モジュールはけっこう重いので、耐荷重の低い体育館や工場の屋根には置けませんし、窓に設置すると視線を遮ってしまう問題もあります。
一方のペロブスカイト太陽電池は、軽量性やデザイン性を活かしてこのような場所にも設置できます。これまで太陽光が届いても発電できなかった多くの場所で、発電できるようになることがポイントです。
これまでシリコン太陽電池は、地上設置の大部分はメガソーラー向けで、電力需要地から遠く離れた場所に設置される傾向があります。そのため、送電線などを増強する必要があるため、系統整備に莫大なコストがかかります。
また、出力制御も問題です。電力需要に対して発電量が上回る地域や送配電網の容量が不足している地域では、太陽光発電など再生可能エネルギー(以下、再エネ)の供給過剰による系統への影響を防ぐため、太陽光発電などの出力を一時的に制限する「出力制御」が頻発しています。
これに対してペロブスカイト太陽電池は、電力需要地に設置できる、すなわち地産地消となるため、系統(送配電の容量)に依存しないのが特徴です。
例えば、パナソニックが開発しているガラス型は、建材であるガラスの内部に太陽電池を組み込む「建材一体型太陽光発電」(BIPV)注4というアプローチをとっています。一方、積水ソーラーフィルムのフィルム型は軽量で柔軟なため、ビルの壁面に後付けしても簡便に施工でき、さらに、これまで重量の関係で太陽光パネルが置けなかった、体育館や駅のホームの屋根などにも設置が可能です。
このように、シリコン太陽電池では困難だった場所への設置こそが、ペロブスカイト太陽電池の「一丁目一番地」(最優先)の役割になるのです。ペロブスカイト太陽電池は、シリコン太陽電池の市場を奪うのではなく、これまで存在しなかった新しい市場を創り出します。
─編集部 近年、シリコンとペロブスカイトを重ね合わせる「タンデム(Tandem)型」(重ね合わせて二重構造にした)も注目を集めていますが、こちらの可能性をどう見ていますか。
JPSC タンデム型(直列型)は、シリコン太陽電池をベースにペロブスカイトを積層する製品を、株式会社カネカが国内で先行開発しています。こちらは、仮に発電効率が30%を超えるモジュールを量産化できれば、シリコン太陽電池のリプレース需要(置き換え需要)を取り込める可能性があります。
注4:BIPV:Building Integrated Photovoltaics、建材一体型太陽光発電。太陽電池を建物の屋根や外壁、窓ガラスなどの建材そのものに組み込む技術。デザイン性を損なわずに発電設備を導入できる。
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