経済安全保障と持続可能なエコシステムの構築
経済安全保障と持続可能なエコシステムの構築
─編集部 冒頭で触れられた「サプライチェーンの構築」は、具体的にどう調整・推進していくのでしょうか。
JPSC 大量の原材料を安定的に調達するためには多くのサプライヤーに協力を仰ぎ、時に踏み込んだ交渉も必要になります。一方で、強いサプライチェーンを構築するためには、調整というよりも、健全な普及促進に向けて必要な共有情報を、JPSCとして発信していくことが重要な役割になるのではないか、と思います。
─編集部 グローバルな供給網を築くうえで、海外の友好国との連携方針をお聞かせください。
JPSC 経済安全保障の観点からも、特定国への依存を高めるのはリスクがあります。日本は、材料調達を含めてインドやオーストラリアなどの友好国と上手に連携しなければいけません。特にインドは、将来的に中国よりも市場が大きくなる可能性があります。こうした、海外との関係構築もJPSCが担えると考えています。
─編集部 技術流出の防止や国内産業の保護という観点で、留意すべき点はありますか。
JPSC サプライチェーンを構築するうえで、もう1つ重要な視点が「製造装置メーカー」の存在です。ペロブスカイト太陽電池の製造装置が海外へ輸出されると、貴重な製造ノウハウまで丸ごと流出してしまいます。しかし現状をみると、それを防ぐ仕組みが日本の産業界には欠けています注14。
かつて日本のシリコン太陽電池産業は、過度なコストダウンの圧力がかかり、結果として国内での生産が立ち行かなくなってしまいました。そうすると、製造装置メーカーは重要な製品である製造装置を海外に輸出せざるを得なくなります。
このような教訓を生かし、ペロブスカイト太陽電池では、製造装置メーカーに適切な利益が還元されるエコシステム(複数の企業が相互に連携しあい、全体として大きな価値を生むシステム)を構築する必要があります。
─編集部 参画企業間における特許や知的財産(知財)の共有・活用についてはどうお考えですか。
JPSC ペロブスカイト太陽電池の耐久性を低下(劣化)させている主な要因は、大きく5つほど存在しますが、それらの技術的な課題を解決するための研究開発を進めています。その過程で、特定の工程に不可欠な材料を発見した場合には、その知的財産権を保有するメーカーの権利を保護する「パテントプール(各企業等がもつ関連特許をもち寄って、共同で一括管理する仕組み)」のような枠組みを構築し、JPSCの参画企業が円滑に技術を利用できるよう調整を図っていくことも、将来的にJPSCの役割としてあるかと思っています。
─編集部 最後に、政府が掲げる「2040年に20GW」という目標に対する見解と、今後の抱負をお聞かせください。
JPSC 現在、国内のシリコン太陽電池の累計導入量は約78GW(2025年12月時点)に達しており注15、これを勘案すると政府の「2040年までにペロブスカイト太陽電池20GW」という目標は決して大きくありません。2032年以降のFIT買取満了に伴い、既存設備の撤去等で再エネ比率が低下することは回避すべきです。
従来のシリコンと競合・排除し合うのではなく、互いに補完して再エネ総量を維持・拡大することが極めて重要となります。耐荷重の低い屋根や壁面といった新空間への設置やリプレース(更新)拡大、技術革新による形態の変化、さらには日本の低いエネルギー自給率(2024年度:16.4%)の向上も見据えれば、「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」の報告注16にあるように「2040年に最大40 GW」という高い目標を目指すべきです。当事者として研究開発と社会実装を加速させ、その実現に尽力してまいります。
─編集部 ありがとうございました。
(特集 終わり)
注14:産業界には「仕組み」はないが、官には「技術管理強化のための官民対話スキーム(製造技術の海外移転の際の経産省への事前相談)」がある。具体的には以下を参照。
経済産業省「経済産業省告示第七十一号 新旧対照表」(2026年6月16日公布、2026年8月16日施行)
この告示の中に、「ペロブスカイト構造を有する化合物を用いる太陽電池セル、又はこれを直並列に接続した太陽電池モジュール(ペロブスカイト太陽電池セル以外のセルを積層したものを含む)」等が追加された。
注15:経済産業省 資源エネルギー庁、経済産業省説明資料、2026年6月24日
注16:次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会 「次世代型太陽電池に関わる動向について」、2025年5月のP6に、「大幅なコスト低減等が進んだ場合は、約40GW~」と表記されている。
参考サイト
一般社団法人 日本ペロブスカイト太陽電池普及促進協議会(JPSC)
経済産業省Webサイト、「第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました」、2025年2月18日
経済産業省、「次世代型太陽電池戦略」、令和6(2024)年11月
経済産業省Webサイト、「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)」、2024年2月
上脇 太 氏、積水化学工業株式会社 取締役 専務執行役員/積水ソーラーフィルム株式会社 代表取締役社長、「ペロブスカイト太陽電池事業説明会」、2025年1月7日のP8
次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会、「次世代型太陽電池戦略」、令和6(2024)年11月
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