AI時代のデータセンターは何が変わったのか?

― 求められるネットワーク性能、消費電力、冷却技術、ソブリン性の確保 ―

新井 宏征 インプレスSmartGridニューズレター編集部

2026年2月4日 (水曜) 17:51

 大阪府堺市堺区にシャープがシャープ堺工場を完成させたのは2009年。世界最大級の液晶パネルと太陽電池の工場といわれていた。その後、2016年にはシャープが台湾の鴻海精密工業注1によって買収されるなど、さまざまな歴史をもつ同地が、最新技術を集結する場所に変わりつつある。シャープが、2024年6月にソフトバンク、そして同年12月にはKDDIと、シャープ堺工場跡地にAIデータセンターを構築することで合意したからだ。
 ここでは、AI時代のデータセンターにおける変化や課題について、さまざまな角度から見ていく。

液晶工場から「AIの心臓部」へ:シャープ堺工場跡地の変貌

 ソフトバンクは、2024年6月に基本合意書を締結したことを発表し、2025年中にデータセンターを開設する予定と発表していた注2。その後、2025年3月には新たに発表を行い、2026年中の稼働開始を目指して、シャープ堺工場の約45万平方メートルの土地と延床面積約84万平方メートルの建物などを活用することを発表した注3
 一方、KDDIは、2024年12月にシャープとの基本合意書を締結した注4。その時点で2024年度中に工事に着工し、2025年度中に本格稼働させることを目指すとしていたが、その計画どおり2026年1月22日に「大阪堺データセンター」として稼働を開始した注5。同社の発表によると、延床面積約5万7千平方メートルで、地上4階の施設となる。

AIデータセンターの本質:「学習」と「推論」

 日本でも相次いで「AIデータセンター」についての取り組みが公表され、実際に稼働もしているが、そもそも「AIデータセンター」とは何だろうか。例えばKDDIは、「AIの学習・推論を前提に設計された」ものをAIデータセンターと定義している。
 ではなぜ、このAIデータセンターを建設する場所として、今回シャープ堺工場跡地が選ばれたのか。それを理解するためには、AIの使われ方を理解する必要がある。先ほどのKDDIの定義にも出てきたとおり、AIには大きく分けてモデルをつくる「学習」注6と、つくったモデルを日々使う「推論」注7がある。
 「学習」は膨大な計算をまとめて実行する(一括処理する)ため、それを支える高出力で高効率な電源および冷却インフラが必要となる。いったん学習済みのモデルができたあとの「推論」において、多数のユーザーからのリクエスト(質問)を低遅延で処理(リアルタイムな高速処理)することが求められる。このため、低遅延やデータの所在(データ処理を速く行えるようにユーザーの近傍にデータを配置すること)が重要となる用途では、ネットワークの端(エッジ。ユーザーの近傍)で処理を行うという選択肢も増えてくる。
 今回の堺市のAIデータセンターは、このような特性をもつAIの処理に必要な条件を満たしやすい環境にあった。

AIデータセンターに求められるネットワーク性能

 KDDIの「大阪堺データセンター」の特徴の1つは立地である。先ほど整理したとおり、ユーザーからのリクエストを低遅延で処理するためには近接性が重要になってくるが、同データセンターは大阪の主要な産業・商業エリアから約15キロメートルしか離れていないことが大きなメリットとなっている。
 さらに同データセンターの信頼性の高さも特徴だ。最大100Gbpsのインターネット回線に加え、閉域網(KDDI Wide Area Virtual Switch 2)やマルチクラウドゲートウェイ注8を備え、全国に分散したデータを安全に集約し、大規模な学習・推論を行えるとしている。
 AIデータセンターのネットワークをラック注9内(Scale‑Up)、ラック間(Scale‑Out)、拠点間(Scale‑Across)の三層でとらえる場合があるが、今回KDDIは、この拠点間に相当する部分で閉域網などを活用している。これによって電子カルテデータなどを活用した製薬会社による医療ビッグデータ分析、設計図面などを活用した製造業向けスタートアップのデータ解析などを、信頼性の高い環境で行うことを実現している。


注1:鴻海精密工業:ホンハイせいみつこうぎょう。台湾の電子機器受託生産企業であり、フォックスコングループの中核企業である。
注2シャープ堺工場を活用した大規模なAIデータセンターの構築について〜敷地面積約44万平方メートル、受電容量約150メガワット規模のデータセンターを2025年中に本格稼働へ〜
注3AIデータセンターの構築に向けて、シャープ堺工場の土地や建物の取得に関する契約を締結
注4シャープとKDDI、AIデータセンター構築に関する基本合意書を締結
注5大阪堺データセンターを1月22日から稼働開始
注6:学習:機械学習。大量のデータ(Web上のテキスト、画像、企業内の業務データ、センサーやログなど)をAIモデルに読み込ませ、データに含まれるパターンや規則性を自動的に獲得させるプロセス。大規模言語モデル(生成AIの基盤)の場合、Webページや書籍など膨大なテキストデータを用いて学習が行われる。学習には大量の計算資源と時間を要する。
注7:推論:学習済みのAIモデルが、新たに与えられた入力に対して結果を出力するプロセス。例えば、生成AIがユーザーの質問(プロンプト)に回答を生成する処理がこれにあたる。学習に比べて1回あたりの計算量は小さいが、多数のユーザーから同時にリクエストが発生するため、データセンター全体では大きな処理能力が求められる。
注8:KDDIによるサービス名。複数のパブリッククラウドへの閉域接続を統合管理するサービス。
注9:ラック:サーバやネットワーク機器などを収納する標準規格の筐体のこと。

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