WFES 2026(UAE:アブダビ)イベント・レポート:脱炭素が加速する「中東市場」と日本企業の新たな商機はどこか

大串康彦 産業戦略アナリスト

2026年2月26日 (木曜) 14:38

中東の脱炭素は、どこまで進んでいるのか。アラブ首長国連合(UAE)の首都アブダビで開催されたエネルギー関連の国際イベント「World Future Energy Summit 2026(以下、WFES 2026)」における展示の見学や国際会議の聴講を通じてその答えを確認することができた。
本稿では、同イベントの概要を紹介しながら、中東の脱炭素の現状と、それが日本のエネルギー企業にどのような機会と判断を突きつけているのかを整理する。

WFESとは?  そのプロフィール

〔1〕WFES:世界未来エネルギーサミット

 WFES(World Future Energy Summit、世界未来エネルギーサミット)とは、2008年から毎年UAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビ(図1)で行われているエネルギー関連の国際イベントである。
 2026年1月13日~1月15日にアブダビのADNEC(アドネック。Abu Dhabi National Exhibition Centre、アブダビ国立展示場。写真1)で行われ、114カ国から約5万人が参加した。WFESはAbu Dhabi Sustainability Week(アブダビ持続可能性ウィーク)の中核イベントであるが、本イベントのサポーターでもあるIRENA(International Renewable Energy Association、国際再生可能エネルギー機関)の会合や、中東で唯一の排出権取引関連の会議であるCarbon Forward Middle East(カーボン・フォワード中東)などのイベントが同時開催された。

図1 UAEの首都アブダビの位置

写真1 WFES会場のADNEC(アブダビ国立展示場)の外観

出所 著者撮影

〔2〕主催企業は「Masdar」(マスダール)

 WFESの主催は、アブダビ首長国のエネルギー企業「Masdar(マスダール)」(写真2)である。Masdarは、2006年からスマートシティの黎明期のプロジェクトの1つ、「マスダール・シティ」を企画したことで知られているが、現在は世界中で再エネおよび水素の案件を開発する開発会社である。WFESでのMasdarの展示ブースは会場の中央に位置し、出展企業の中で最大の面積を占めていた。WFESの展示会は民間の企業も参加しているが、Masdarはじめ政府系企業がUAE(およびアブダビやドバイなど各首長国)のエネルギー転換の取り組みを世界に発信する場としての性質が強い。

写真2 WFESの主催企業「Masdar」(マスダール)の展示ブース

出所 著者撮影

〔3〕展示会と国際会議

 WFESは、主に国際会議と展示会から成る。国際会議は、太陽光発電とクリーンエネルギー、パリ協定の1.5℃目標への道筋、サーキュラーエコノミー(循環型経済)、水、グリーンファイナンス(環境問題の解決に限定した投資)、持続可能な都市とモビリティのセッション加え、AIに特化したセッションがあった。
 展示会のエネルギー分野における主な出展領域は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)、蓄電池、水素、CCUS(CO2を分離・回収し、貯留・利用する技術)、原子力などである。
 UAEの国家目標は、2050年にカーボンニュートラル達成であるが、電力セクターは100%再エネ化するのではなく、化石燃料(天然ガス、石炭)はCCUSなど脱炭素技術を用い、また世界の需要増加に向け化石燃料から水素やアンモニアの製造にも取り組んでいることから、CCUSや水素も重要な領域として扱われていた。

温度感が高い中東の脱炭素の取り組み

〔1〕2050年カーボンニュートラル目標は前提条件

 WFES 2026で際立っていたのは、UAEをはじめとする中東諸国の脱炭素への取り組みの本気度が会場全体の空気として共有されていた点である。著者は3日間にわたり、「太陽光発電とクリーンエネルギー」の会議セッション(写真3)の主な講演を聴講したが、国の政策目標である2050年カーボンニュートラル達成が議論の前提としてしっかりと刷り込まれ、どのようにして目標を達成するか、課題に対してどのように対処するかという議論に徹底していた。
 UAEの再エネは太陽光発電が中心で、IEA(国際エネルギー機関)によると、総発電量中の割合は2023年で7.9%だった注1。これは世界的には特別高い再エネ導入割合とはいえないが、WFESでは再エネをどのようにして系統に統合できるかの議論が活発に行われた。特に、再エネの系統への統合が進んでいる欧州諸国の経験を中東が学ぶ構造が見えた。
 例えば、会議の上記のセッションで繰り返し話題となったのが2025年4月のイベリア半島(スペイン・ポルトガル)の大停電であり、中東で同様な問題を発生させないような系統インフラの構築や系統運用の必要性が強調された。

写真3 「太陽光発電とクリーンエネルギー」の会議セッションの様子

※テーマは「デジタル化の活用を通じた系統拡張コストの最小化」。中東、欧州、中国の各事業者が議論を行った。
出所 著者撮影

〔2〕石油・ガス開発会社の脱炭素の取り組み

 ADNOC(アドノック。Abu Dhabi National Oil Company、アブダビ国営石油会社)は、日量4.85百万バレル・115億立方フィートの天然ガスを生産するアブダビの政府系石油・ガス会社であるが、WFESに大きな展示ブースを構え、基幹事業となる石油と天然ガスの採掘や生産に関連する脱炭素の取り組みを展示していた。例えば、その1つはオフショア(沖合い)天然ガス採掘プラントにおける水素製造である。説明してくれた担当者は、脱炭素の取り組みは当然であり、「なぜ」行うのかには一点の疑いもないようだった。

〔3〕世界の中で中東の脱炭素に対する熱量は

 米国は第2次トランプ政権になり、国際的な気候変動対策の枠組みへの積極関与をやめ、自国でも太陽光発電や風力発電の税控除を早期終了するなど、脱炭素の取り組みを減速した(参考サイト「米国のエネルギー政策②:エネルギー技術への連邦政府の支援を再定義したOBBBA(包括的な税制・歳出改革法)と関税政策」)。
 2026年1月にもUNFCCC(気候変動に関わる国際連合枠組条約)からの脱退を表明し、この方向性が再確認された。
 欧州は2050年カーボンニュートラルの目標を維持しているものの、エネルギー価格の高騰や国際競争力低下の懸念からやや政策を現実路線に修正している。例えば、2025年12月に発表された「自動車パッケージ(自動車に関する政策)」にて内燃機関車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車の販売を条件付きで2035年以降も許可する提案が発表された注2ことに政策の一部軟化、現実路線化が観測される。
 一方、中東であるが、WFESを見た限りの印象では、かつて気候変動への取り組みを世界で先導した欧州よりも取り組みへの勢いが強いように感じた。これには、国家目標がまずあり、政府系のエネルギー企業がこれを達成するために忠実にアクションに落とし込む構造があった。


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