おわりに:中東市場とどう向き合うか

〔2〕日本企業はどうするか

 (1)日本企業とUAE・サウジアラビアの関係
 UAEやサウジアラビアは、多くの企業にとって必ずしも馴染みの深い市場ではないかもしれない。しかし、日本のエネルギー企業、総合商社、エンジニアリング企業、機械メーカーは、長年にわたり石油・天然ガス開発、発電所、海水淡水化プラントといったインフラ分野で中東と深く関与してきた。
 バラカ原子力発電所においても、EPCは韓国企業であったが、日本企業は保守管理やサプライチェーンの強化などで参画しており、長期運用を見据えた技術・人材面での貢献を行ってきた注8
 一方、近年の中東における再エネ案件では、日本企業の参画事例は存在するものの、一部の出資や業務に限定されるケースが多く、太陽光パネルや蓄電池といった主要機器の供給や、IPP・開発主体としての役割を担う例は限られている。
 再エネ発電所の建設は、従来の石油・ガス設備や火力・原子力発電所とは異なり、低コストの機器を大量に、かつ迅速に設置する能力が肝要となる。この点で、中国の機器メーカーや、中国・欧州のIPP・開発事業者が優位性をもっている。
 なお、2021年には日本企業3社が前述したADNOCと、将来のブルー水素・ブルーアンモニア供給を見据えた協力に関する覚書を締結しており、日本企業が再エネ以外の脱炭素分野で関係構築を進めている点も注目される注9

 (2)日本企業の選択肢は何か
 日本企業は、「難易度の高いインフラ技術を中東で展開し、長期の運用を支援してきた」という実績と信頼がある。しかし、再エネや蓄電池分野では、この強みを十分に活かせているとは言い難い。
 では、この実績と信頼を活かせる領域、役割、パートナー、そして参入フェーズはどこにあるのか。どの立ち位置で国家主導プロジェクトに関与するかは、企業の規模や資本力、リスク許容度によって異なるだろう。
 MESIA注10によれば、UAEとサウジアラビアにおける太陽光発電の累積導入量は、2025年末の約12GWから2030年には約58GWへ、蓄電システムも2025年の約2.5GWから約15GWへと拡大すると予測されている注11。急拡大するこの市場において、日本企業がどの戦略的ポジションを選び取るのかは、今後の中東におけるビジネスを左右する重要な検討課題と言える。

おわりに:中東市場とどう向き合うか

 WFESは、最新の技術トレンドを収集する場というよりも、世界主要国・地域が脱炭素をどのように国家戦略として位置付けているのかを確認し、その中で自社がどの立ち位置を取るべきかを考えるための場であると感じた。展示会場や会議セッションにおける各国企業の振る舞いからは、脱炭素をめぐる国ごとの温度差と戦略の違いが浮かび上がっていた。
 米国が、国としては国際的な気候変動対策の取り組みから距離を取り、欧州が調整局面に入る一方で、中東は国家主導で前のめりに脱炭素投資を進めている。この環境下で日本企業に求められるのは、国家主導で整備される電力インフラの中で、自社が得意とする価値をどこに、どの役割で、誰と組み、どのフェーズで提供するのかを見極めることである。


注8https://www.global.toshiba/jp/news/energy/2023/07/news-20230721-01.html
注9https://www.adnoc.ae/en/news-and-media/press-releases/2021/adnoc-and-three-japanese-companies-to-explore-hydrogen-and-blue-ammonia-opportunities
注10:MESIA:メシア。Middle East Solar Industry Association、中東太陽光発電産業協会。
注11:MESIA Solar Outlook Report 2026(2026年1月) https://mesia.com/

◎著者プロフィール

大串 康彦(おおぐし やすひこ)
1992年に荏原製作所入社後、環境・エネルギー技術の開発に従事。2006年~2010年にカナダBC Hydroでスマートグリッド事業を担当。2016~2017年は英国RES日本法人で系統用蓄電池事業に従事。2017年~2023年にLO3 Energyの日本担当ディレクターを務める。現在は産業戦略アナリストとして、グローバルな産業政策と企業戦略の分析・立案を行う。著書に『商用化が進む電力・エネルギー分野のブロックチェーン技術』(インプレス)『蓄電池ビジネス戦略レポート』(日経BP)がある。

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