フィジカルAI:情報処理から「物理世界」へのシフト
〔3〕安川電機:小売・物流への自律型AIロボット適用拡大
安川電機は、サーボモータを起点とするメカトロニクス技術を強みとする。2017年に提唱した技術コンセプト「i³-Mechatronics」(アイキューブメカトロニクス)注1によって、従来のハードウェア中心のソリューションに「デジタルデータのマネジメント」を組み合わせ、「新たな産業自動化革命の実現」を目指している。
2023年には、業界初の自律型AIロボット「MOTOMAN NEXT」(モートマンネクスト)を発売。同機はNVIDIAのGPUを標準搭載したオープンプラットフォームであり、状況を見て自律的に動くロボットを実現している。富士通とは小売・物流を対象に、データ活用による自動化の適用範囲を広げる。
〔4〕川崎重工業:ヘルスケア領域における「病院ワンストップソリューション」
川崎重工業は、50年以上にわたる産業用ロボット製造の実績を基盤に、大出力から医療精密まで幅広い制御レンジをもつ。医療用検査機器・試薬の大手メーカー、シスメックス(神戸市)との合弁会社であるメディカロイド(神戸市)を通じて手術支援ロボット「hinotori」(ヒノトリ:手塚治虫の代表作である漫画『火の鳥』に由来)注2を実用化するなど、医療分野に強みをもつ。富士通とはヘルスケアを対象とし、来院から診察・治療・手術・術後ケアまでをつなぐ「病院ワンストップソリューション」の実現を目指す。
〔5〕富士通とNVIDIAの役割:中核ソフト「協調制御基盤」の開発と技術供給
フィジカルAI構想で富士通が担うのは、ロボットと業務システムをつなぐ中核ソフトウェア「協調制御基盤」の開発である。メーカーの異なるロボットや設備を共通のインタフェースで接続し、業務システムからの指示を各ロボットのタスクに翻訳しながら、現場全体の動作を統括する役割を果たす。富士通は自社を「リード役」と位置づけ、各業務アプリケーションとロボット制御技術をシームレスにつなぐ基盤を構築するとしている。
この基盤には、富士通がもつ2つの技術が使われる。1つは、世界最高レベルの日本語性能をうたう生成AI「Takane」(高嶺:タカネ)を含むAIインフラ基盤。もう1つは、高信頼のコンピューティング技術である。
富士通はこの基盤を自社で囲い込むのではなく、賛同する企業や研究機関に開かれたオープンプラットフォームとして提供する方針を示している。同時に、サイバー攻撃や情報漏洩に備え、システムの中核を国内で開発・運用する「ソブリン性」を確保することを掲げている。
そして、今回の取り組みでは、NVIDIAの技術は協調制御基盤の構成要素として位置づけられている。富士通が基盤を作るための部品として、NVIDIAの技術を調達する。NVIDIAは提携相手というより、技術の供給元に近い関係といえる(具体的な技術は後述)。
なお、今回発表された事業構想は検討段階にあり、具体的な製品、価格、提供時期は示されていない。今後、技術開発と事業展開のロードマップを策定するとしている。
フィジカルAI:情報処理から「物理世界」へのシフト
これまでAIといえば、ChatGPTに代表される生成AIが注目されてきたが、それがフィジカルAIに移りつつある。その背景には、AIの適用範囲が情報処理から物理世界へ変化したことが挙げられる。それによって、次のようなことが起きている。
〔1〕現場でのみ得られる「物理世界の動作データ」
従来のAI、とりわけ生成AIは、インターネット上の膨大なテキストや画像を学習して成立した。これらのデータはネット上に大量に存在し、収集が可能である。一方、物理世界の動作データ(ロボットが特定の速度で対象物を掴んだときにかかる力、その動作の成功率等)は、実際に現場で設備を稼働させている企業だけが保有するデータであり、ネット上からは得られない。この点が、フィジカルAIの開発における制約となっている。
〔2〕事前の「ティーチング」から「自律動作」への転換
産業用ロボットの動作は、これまで人間が事前にプログラムする方式が主流だった。作業ごとに動作を教え込む「ティーチング」と呼ばれる工程が必要で、多品種少量生産や頻繁な仕様変更には対応しにくい。
フィジカルAIはこれを、AIが現場の状況を認識して自律的に判断・動作する方式へ転換しようとするものだ。事前のプログラム作成から、状況に応じた自律動作への移行が、技術的な核心といえる。
〔3〕フィジカルAIにおける日本の立ち位置
この構造変化の中で、各国および各企業の立ち位置は分かれている。AI基盤モデルの開発では、米国と中国の企業が先行している。日本は、産業用ロボットにおける制御技術やモーターなどのハードウェアでは世界有数の地位を保つ一方、その頭脳にあたるAI基盤の領域では、米中に先行を許している。



