「ソブリン性」(主権)をめぐる新たな競争軸
「ソブリン性」(主権)をめぐる新たな競争軸
〔1〕海外依存リスクと「ソブリンAI」の台頭
今回の富士通構想で、もう1つの鍵となるのが「ソブリンAI」(Sovereign AI、自国が主権をもつAI)の概念である。国家がAIのモデル、インフラ、データといった中核部分を自国内で開発・管理し、外国への依存を抑える考え方で、2024年以降各国で急速に広まっている。つまり「AIを誰が、どのルールのもとで管理するか」ということだ。
背景には、海外依存に対する懸念がある。多くの企業が業務に用いるAIモデルは、米国企業が開発したものである。モデルの制御、データの処理場所、学習内容は、その海外の提供企業に委ねられる。加えて2025年以降は中国企業のモデルが急速に台頭し、オープンソース分野で採用を広げた。結果として、米国への依存と中国への依存の双方が、リスクとして意識されるようになっている。
〔2〕「人工知能基本計画」に見る日本の政策対応
政府は、「人工知能基本計画」(2025年12月閣議決定)注4で「日本が世界を主導できるようAIロボットの公的需要創出やより高度な自動運転技術導入を含めたフィジカルAIの研究開発及び実証を戦略的かつ統合的に促進する」としている。つまり、フィジカルAIを「日本の勝ち筋」の1つとして位置づけているわけだ。
この方針のもと、2026年度から複数年にわたり、国産AIの開発に大規模な予算を投じる編成が進んでいる。経済産業省のイベントで官民が「フィジカルAIで競争優位へ」の決意を共有するなど、気運も高まっている。
〔3〕現場データと制御レイヤで確保する日本の主権
生成AIなど汎用的なモデルの領域で、日本が米中に正面から対抗することは容易ではない。開発に投じられる資金の規模、蓄積されたデータの量で、先行する両国との差は大きい。このため汎用モデルではなく、特定の産業に特化したモデルで主権を確保する方向となっている。
日本企業は、「産業用ロボットのハードウェア」と、「その稼働から得られるデータ」で一定の優位を保っている。汎用AIで先行を許した日本にとって、この領域は主権(ソブリン)を確保しうる数少ない場といえる。
今回の富士通構想が掲げる「ソブリン性を確保した協調制御基盤」も、この文脈にある。現場のデータと制御の中核を国内で開発・運用し、海外プラットフォームに依存しない構造を築くことを目指している。
しかし、演算チップ(GPU)と基盤モデルの根幹はNVIDIAに依存しており、確保されるのは、その上位のソフトウェアとデータ層における主権に限られる。この現実を前提に、優位が残るレイヤ、つまり現場データとロボット制御のレイヤで主権を確保する(図2)。
図2 フィジカルAI開発における主権(レイヤ別)
出所 富士通株式会社プレスリリース(2026年7月16日)をもとに編集部で作成
フィジカルAI時代における「メイド・イン・ジャパン」の確立へ
いま、フィジカルAIをめぐる議論は日本の産業界全体で沸き起こっている。米中のスタートアップ企業が巨額の資金とコンピュータ資源を投じて先行する中、「日本のロボット産業は生き残れるのか」という危機感が聞かれる。
一方、政府はAI基本計画でフィジカルAIを日本の勝ち筋の1つとして位置づけ、NVIDIAのジェンスン・フアン CEOは今回の会見で「フィジカルAIは次の産業革命であり、それはメイド・イン・ジャパンとして生まれるでしょう」とまで語っている。期待は高い。
こうした中、各分野で世界的にも覇を競ってきたファナック、安川電機、川崎重工業の大手3社が、それぞれ富士通と組む枠組みが生まれた。現場データやロボット制御など、日本の優位性がある領域でその主権を確保しながら、次の産業界のテーマであるフィジカルAIの具現化を目指す。それは日本の産業界が抱いている危機感と期待に対する、具体的な回答だといえる。
また、ロボット各社が磨いてきた独自技術は、日本のものづくりの優位性を支え、「メイド・イン・ジャパン」ブランド確立の一翼を担ってきた。この構想は、その優位性をフィジカルAIの時代へ広げる取り組みといえる。
この取り組みが成功すれば、ものづくりの分野で日本が築いてきた“職人技”はフィジカルAIにも反映され、さらに今回の3社以外にも横展開が可能となる。次世代技術とされるフィジカルAIの領域においてもメイド・イン・ジャパンの確立に寄与し、ひいては日本産業全体の優位性確保につながるだろう。
参考リンク
富士通株式会社 Press Room 2026年7月16日「富士通が、ファナック、安川電機、川崎重工業の各社と、NVIDIAの技術を取り入れたフィジカルAIの社会実装に向けた事業検討を開始」
ファナック株式会社 ニュースリリース 2026年7月16日 「フィジカルAIの社会実装に向け富士通との事業検討を開始」
NVIDIA Corporation ブログ 2026年07月16日「日本のロボティクスおよび製造業のリーダーたちが、 NVIDIA Cosmosを基盤にフィジカルAIの最前線を切り拓く」



