【1】MIMO
【1】MIMO
MIMO技術は、同一周波数を使用する1対の無線伝送系に、複数の送信アンテナ(Multi Input)と複数の受信アンテナ(Multi Output)を同時に利用する技術である。複数の送信アンテナで送信された信号は、空間で互いに混信するが、受信側ではこれらの混信信号から受信したい信号を分離・合成する信号処理を行うことによって、伝搬利得を得る技術である。
送受信に用いるアンテナ系には、AASのように送信方向制御が連携するシステムも提案されているが、ここでは電波の送信方向を明示的に意識しない方式を対象として、空間多重通信(SM)および時空間符号(STC)のそれぞれについて示す。
(1)空間多重通信(SM-MIMO)
SM(Special Multiplex、空間多重)-MIMOは、複数のコード・データ系列(データ信号一定のルールで符号化した後のビット列)を、同時にそれぞれ独立した空間に対して送信することで送信データ・レートを向上させる手法で、CCIR(Co-Channel Interference Rejection、チャネル干渉抑圧)効果、ダイバーシチ利得、アレイ利得を得ることができる方式である。CCIR効果とは、マルチパス(複数の通信路)の受信環境において、複数のパスを合成し、受信波の信号対干渉雑音比を最大化(雑音に対して相対的に信号の感度を最大にすること)させることによって、同一周波数の干渉電力を相対的に低減する効果のことである。
ダイバーシチとは、マルチパス伝搬が生じる無線通信環境において、複数の異なる電波の通信路(例えばAとB)を経由して到着する電波を受信する場合、例えば受信電力の高い通信路の電波を選択して受信したり、A,B双方の通信路から到来する電波を合成して利用する事で、信頼性の高い通信を維持することができるになる技術である。また、このとき得られる利得をダイバーシチ利得という。アレイ利得とは、複数のアンテナ素子(アレイ)を利用することによって、各アレイで受信した電波の電力が加算され、受信感度が向上する利得を言う。
SM(空間多重)-MIMO方式のシステムの基本概念は図1に示す通りで、送信機が2つの信号を同時に送信することで、送信データ・レートを2倍とする例である。詳しくはコラム1を参照。
コラム1
Tx i から送信された信号をsi、Tx mからRx nのチャネル係数をhmn、Rx jで受信した信号をrjとしたとき、送信アンテナ2基、受信アンテナ2基のシステムでの送受信信号の関係式は次の行列式 [1] で表現することができる。
![式[1]](/sites/default/files/images/070215/80216_form01.gif)
受信信号から送信信号の推定式は[2]式の逆行列により行われる。
![式[2]](/sites/default/files/images/070215/80216_form02.gif)
[2]式から分かるように、SM-MIMOはチャネル行列Hに逆行列が存在するときのみ有効となり、これに合致しない伝搬環境においては、期待する送信データ・レートが達成されないことになる。
関連記事
802.11n(無線LAN)の標準化動向(3):600Mbpsを実現する物理層の仕組み(後編)
2006年10月2日 0:00
802.11n(無線LAN)の標準化動向(2):600Mbpsを実現する物理層の仕組み(前編)
2006年9月6日 0:00
対談:電波・周波数を語る(1):通信に適した周波数はなぜ5GHz以下なのか?
2006年11月6日 0:00
802.11n(無線LAN)の標準化動向(4):600Mbpsを実現するMAC副層の仕組み
2007年1月9日 0:00
802.15.3c(無線PAN)の標準化動向(5):チャネル・モデル編成、利用モデル絞り込みを完了
2006年12月25日 0:00
802.15.3c(無線PAN)の標準化動向(3):802.15.3c MACの標準化の検討へ!
2006年10月4日 0:00