[米国のエネルギー政策 ①]第2次トランプ政権の政策の大転換とその背景を読み解く(2ページ目)
〔3〕米国のエネルギー政策の目標
米国のエネルギー政策は、「米国のエネルギーを安価にし、エネルギー大国に(Make America Affordable and Energy Dominant Again)」という目標を掲げている。「エネルギー支配」(Energy Dominance)が中心戦略となるが、エネルギー支配とは米国がエネルギー自給を達成するだけではなく、国内の雇用創出や同盟国へのエネルギー供給による安全保障強化を通じて、国際的な優位性と外交力を高めるという考え方である。第1次トランプ政権時にも、同じ方針の下で米国はエネルギーの純輸出国となった。第2次政権では、この政策を継続し、さらに強化する姿勢を明確にしている。
「エネルギー支配」の中核を担うのは化石燃料であり、トランプ政権は気候変動対策を「エネルギー支配」と相反するものと見なしている。そのため、大統領就任初日にバイデン政権が行った「気候変動の過激主義」を止めると表明し、パリ協定からの再離脱を指示する大統領令に署名した。これによって、米国連邦政府によるIPCC注2関連業務への関与や気候関連基金への資金提供が停止された。2025年11月にブラジル・ベレンで行われたCOP30にも米国連邦政府レベルの公式代表団を派遣しなかった。同時に、米国連邦政府として掲げていた「2050年までにネットゼロ達成」(温室効果ガスの排出量を「正味ゼロ」にすること)の目標も撤回された。
また、2025年6月には、2035年までにガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止する州の規制を無効化する法案に署名した。そして、7月に成立したOBBBAによって、バイデン政権時にIRAで定められた電気自動車(EV)、太陽光発電、風力発電の支援策が大幅に縮小されることとなった。
OBBBAをはじめとする第2次トランプ政権のエネルギー政策および関税政策の最新の動向については、次回(連載第3回)の記事で詳述する予定である。
〔4〕「エネルギー支配」以外の優先順位:ガバナンスや価値観の再構築
ここまで述べたトランプ政権の優先順位には、「沼地を一掃する」(Drain the swamp)および「米国の価値観を取り戻す」(Bring back American Values)が掲げられている。
「沼地を一掃する」とは、米国政府による不正・汚職・無駄の撲滅を目指す政府改革のことであり、その具体的な取り組みとして、政府効率化省(DOGE、ドージ。Department of Government Efficiency)の設立がある(同省は2025年11月に政府組織としては解散した)。同省は、国際開発省(USAID、ユーエスエイド。United States Agency for International Development)によって行われていた対外支援のうち、米国の国益に資さないと判断される資金援助を特定し、これらの支出を停止する措置を講じた。
次に、「米国の価値観を取り戻す」では、「常識の革命」のスローガンのもと、前政権で行き過ぎたDEI注3を含むアイデンティティ政治注4の見直しに取り組んでいる。本来DEIは、社会の公平性や平等な機会の提供を目指した理念であったが、マイノリティ(少数派)を過度に優遇した結果、組織に本来あるべき能力・実力主義が損ねられ、また、マジョリティ(多数派)に対する逆差別や人々の分断が生じていると判断されたためだ。連邦政府内では個人の能力、実績、勤勉度などに基づく採用、昇進、成績評価を導入し、連邦政府による外注プロセスでもコスト低減や効率向上などに基づいた発注を行う。
第2次トランプ政権の財政政策に関しては、上記の最優先課題では網羅されていないが、減税によって国民負担を軽減し、国益につながらない政府支出を削減する方針が示されている。また、関税を強化し、歳入を増やすために対外歳入庁(External Revenue Service)が創設された。上述のUSAIDを通じた支援の停止など、米国の国益にならない支出は抑える。国際組織への拠出による政府支出も削減対象となっており、上述のパリ協定を脱退したほか、世界保健機構(WHO)からも脱退している。
〔5〕第1次トランプ政権とバイデン政権のエネルギー政策を振り返ると
大まかに書くと、バイデン前政権は気候変動対策を最優先課題と位置づけ、再エネの導入拡大を図ったが、トランプ政権は気候変動対策を重視せず、化石燃料を中心とするエネルギー開発を推進している。両政権のエネルギー政策には根本的な方向性の違いがある。
以降では、第1次トランプ政権およびバイデン政権のエネルギー政策の概要を振り返り、それぞれの任期中にエネルギーインフラの整備、エネルギー価格や米国の電源構成が、どう推移したかを概観する。第2次トランプ政権の政策運営は第1次政権期とは環境が大きく異なり、同様の展開になるとは限らない。しかし、過去2つの政権が市場やインフラに残した結果を確認することで、第2次トランプ政権の政策を評価する際の現実的なベースラインを示すことができる。
注2:IPCC:アイピーシーシー。Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル。1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立された政府間組織。世界中の科学者が協力して、定期的な報告書を作成し公表している。
注3:DEI:Diversity Equity and Inclusion、ディー・イー・アイ。多様性、公平性、包括性を意味する。
注4:アイデンティティ政治:性別や人種、民族、性的指向、障害などの特定の帰属意識(アイデンティティ)に基づいて行う政治活動。