[米国のエネルギー政策 ①]第2次トランプ政権の政策の大転換とその背景を読み解く(3ページ目)
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Ⅱ. バイデン政権とトランプ政権のエネルギー政策と電源構成 |
〔1〕米国のエネルギー生産、消費、輸出入の推移
第1次トランプ政権期においては、エネルギー支配を中心政策として、石炭・石油・天然ガスの開発やエネルギー輸出を推進する米国第一エネルギー計画(America First Energy Plan)を2017年3月に発表した。
図1に示すように、米国のエネルギーの生産量と輸出量は第1次トランプ政権の前政権であるオバマ政権(2009年~2016年)の2010年頃からすでに増加傾向を示し、第1次トランプ政権の後半には生産量が消費量を、輸出量が輸入量を上回った。
2020年のコロナパンデミック発生時には生産・輸出とも落ち込んだが、その後のバイデン政権時にもこれらの指標は再び上昇基調に転じた。米国エネルギー情報局(US Energy Information Administration)によると、原油の輸出量は2023年に1日あたり平均4百万バレルを超え、過去最大を記録した。
図1 米国のエネルギー生産、消費、輸出入の年次推移
※ラベルは各政権の4年間の範囲を示している。年次データのため2020年は第1次トランプ政権、2021年はバイデン政権に含め、その間にデータはない。
出所 U.S. Energy Information Administrationのデータを基に著者作成
〔2〕バイデン政権とトランプ政権のエネルギー価格
第2次トランプ政権では、エネルギー価格を下げることが目標として示されている。これによって、国内のインフレを抑制することにも狙いがあるようだ。それでは、第1次トランプ政権時代のエネルギー価格はどうだったか。図2に、エネルギー価格として代表的な原油価格の推移を示す。第1次トランプ政権時には、2020年のコロナショック由来の需要減による大幅下落を除き、変動は小幅で、ほぼ横ばいだった。
一方、バイデン政権の前半には原油価格は大幅に上昇した。これは、バイデン政権によってエネルギー価格を引き上げる政策があったわけではなく、コロナ後の大幅な金融緩和が引き金となったインフレーションの影響と考える。さらに、2022年2月にはウクライナとロシア間の紛争が発生し、2022年の夏まで原油価格を含むインフレーションに拍車がかかった。
図2で価格の変動が顕著なのは、2021年から2022年にかけての上昇のほか、2008年のリーマン・ショック後の大幅下落と2014年(いずれもオバマ政権時)の大幅下落である。2014年はシェールによる増産、金融緩和終了による景気減速、OPECが減産を見送ったことなどの複数の要因が重なり、原油価格が下落した。これらを見ると、原油価格の変動には米国の政策に由来しない要因も大きく働いており、第2次トランプ政権がエネルギー価格を下げる意向を示しても、政策が原油価格に与える影響は限定的となる可能性がある。
図2 原油価格の推移(WTIスポット価格、2006年1月~2025年6月)
WTI:West Texas Intermediate、米国の西テキサス(West Texas)地方で採れる代表的な原油先物商品で、WTI先物ともいわれる。
出所 U.S. Energy Information Administration のデータを基に著者作成
〔3〕米国の電源構成の推移
次に、米国の電源構成の推移を見ていく。図3に発電電力量ベースの1990年から2024年までの米国の電源構成を示す。第1次トランプ政権の前のオバマ政権時(2009年~2016年)から、電源構成中の石炭(棒グラフの一番下、黒色)が減り、天然ガス(棒グラフの下から2番目、薄いオレンジ色)が増える傾向が見られたが、第1次トランプ政権、バイデン政権時ともこの傾向は続き、電源としての石炭は減少の一途を辿った。
原子力は、オバマ政権以降すべての期間を通じて横ばいである。太陽光発電(棒グラフの上から2番目、濃いオレンジ色)・風力発電(棒グラフの一番上、水色)はオバマ政権以降、一貫して増加傾向である。本図を見る限り、第1次トランプ政権は化石燃料重視、バイデン政権は再エネ重視という特徴は見えてこない。
図3 米国の電源構成の推移(1990年~2024年、発電電力量ベース)
出所 U.S. Energy Information Administration, July 2025 Monthly Energy Review, Electricity 7.2bを基に著者作成
〔4〕トランプ第1次政権とバイデン政権時の電源構成の変化
各政権に相当する時期の年間発電量(kWh)を、前政権と比較したときの変化を表1に示す。
第1次トランプ政権は第2次オバマ政権(2013年~2016年)との比較、バイデン政権は第1次トランプ政権との比較である。
政策方針としては、トランプ政権は化石燃料重視、バイデン政権は再エネ重視であるが、化石燃料による発電量の減少率は、第1次トランプ政権時がバイデン政権時より大きかった。また、再エネによる発電量の増加率は第1次トランプ政権時がバイデン政権時より大きく、それぞれの政権の政策方針を必ずしも反映する結果となっていない。
表1 第1次トランプ政権とバイデン政権時の電源構成の変化(発電量ベース)
出所 U.S. Energy Information Administration, July 2025 Monthly Energy Review, Electricity 7.2bを基に著者作成