ペロブスカイト太陽電池の出力計測における課題
ペロブスカイト太陽電池の出力計測における課題
従来の結晶シリコン太陽電池向けに構築された測定・評価フロー(既存のIEC 60904-1)を、物理特性の異なるペロブスカイト太陽電池へそのまま適用することは困難である。そのため、デバイスの特性に適合した新たな計測手法の確立と国際標準化への反映が最重要課題となっており、現在は次の2つの技術的課題を中心に国際規格の策定が急速に進められている。
〔1〕電流-電圧(I-V)特性におけるヒステリシス現象
結晶シリコン太陽電池では、印加電圧を低電位側から高電位側へ変化させる「フォワード掃引」と、その逆の「リバース掃引」のどちらを行っても、得られるI-V特性曲線はほぼ一致する。
しかし、ペロブスカイト太陽電池では双方のI-V特性曲線が一致せず、電圧の走査方向によって出力値が異なる「ヒステリシス現象」が発生する。これが、デバイス本来の正しい出力値を特定するうえでの最大の障害となっている。
〔2〕測定直前の初期状態(電圧印加・光照射履歴)への依存性
測定開始直前におけるデバイスの電気的・環境的状態によって、出力挙動が大きく変化する。一例として、デバイスを短絡(ショート)状態で保持した直後と、開放(オープン)かつ光照射状態で保持した直後とでは、得られる測定データに大きな乖離が生じる。
このように、直前に加えられた電圧や環境の「履歴」を引きずる性質が、出力評価の均一化を阻む要因となっている。
ペロブスカイト評価技術における国際標準化の最前線
ペロブスカイト特有の物理特性を考慮せずに評価を行うと、手法の差異によって「見かけ上の発電効率を意図的に高く見せる測定」が可能となるため、市場における製品の信頼性を著しく損なう懸念がある。これらの課題を解決し、適正な評価基準を担保するため、現在は新規測定規格「IEC TS 60904-1-4 ED1」の策定と、それに紐づく技術開発が急ピッチで進められている。
〔1〕「IEC TS 60904-1-4 ED1」における4つの技術的議題
同規格を策定するプロジェクトチーム(PT)において、現在、主に議論されている核心的な審議事項は次の4点である。
(1)準安定状態(Metastability)の挙動評価
光や電圧による一時的な内部状態の遷移挙動の解明、および測定不確かさへの影響評価。
(2)定常状態(Steady-state)の基準策定
最大30%程度生じるヒステリシスを排除し、発電が完全に安定した状態を判定する閾値(しきいち)の定義。
(3)安定化(Stabilization)手順の規定
過渡状態の出力を、定義した「定常状態」へと電気的に誘導・保持するための制御シーケンス。
(4)前処理(Pre-conditioning)の統一
デバイスがもつ過去の電圧・光照射履歴をリセット(初期化)し、測定の再現性を高めるための条件。
〔2〕国際標準化における議論の焦点と現在の着地点
上記議題のうち、審議の中心となっているのが「定常状態の定義」「安定化の手順」「測定前処理の仕様」である。
世界中で同一の測定結果(再現性)を得るためにはこれらを厳密に規定する必要があるが、当初から過度な制約を課すと、多様な構造も持つペロブスカイト太陽電池のすべてに対応できなくなり、規格そのものが機能しなくなる恐れがある。
現在の議論の方向性について、吉田氏は次のように語る。
「まずはTS(技術仕様書)の形として規格を速やかに発行し、世界共通の測定プラットフォームを早期に確立することを最優先としています。そのため、判定基準や前処理の手順にある程度の許容幅(適用範囲)を持たせる現実的なアプローチを採り、まずは広範なペロブスカイト太陽電池を測定できる共通指針を提示する。PTではその発行に向けた国際合意と手続きを進めています」
〔3〕社会実装へ向けた4領域の標準化と、GI基金による技術開発
ペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けた標準化活動は、出力計測法に留まらず、多角的な視点からライフサイクル全体を包括する必要がある。具体的には、次の4領域において技術開発と規格化(やガイドライン策定)が並行して進められている。
(1)出力計測法
物理的な特異性(ヒステリシス等)を排除し、正確な出力を高い再現性で測定する手法の確立(前述のIEC TS 60904-1-4等)。
(2)耐久性・長期信頼性評価
初期不良のスクリーニング技術注9の開発、および屋外における長期信頼性を担保する加速劣化試験手法の標準化。
(3)施工・設置手法
軽量・柔軟といった特長を活かした新たな設置工法および専用部材等の標準化。
(4)安全性と環境適合(ライフサイクル評価)
主流である鉛系ペロブスカイトにおける「鉛の毒性・安全性管理」への対応、および将来的な「廃棄・リサイクル(End of Life)」プロセスの構築。これは、結晶シリコンが現在直面している廃棄問題を先取りした対応である。
これらの広範な課題に対して、産総研が参画するGI(グリーンイノベーション)基金事業では、特に「(1)出力計測法」および「(2)信頼性評価法」に関する最先端の技術開発を推進している。
同事業で得られた高精度な技術知見を国際規格策定へと迅速にフィードバックし、試験技術の国際標準化に直接貢献していくことを目指し、研究開発と標準化活動を一体として強力に推進している。
注9:スクリーニング技術:製造された製品の中から、初期不良や早期故障のリスクがある欠陥品を短時間で検知し、選別・排除する技術。



