世界中でペロブスカイト太陽電池の開発が加速するなか、次世代の市場覇権を握るための「国際標準化」(ルール形成)を巡る攻防が活発化している。同デバイスは従来の結晶シリコン太陽電池にはない特異な物理特性(ヒステリシス等)をもつため、既存の性能評価法をそのまま適用できないという大きな課題を抱えている。
特集第2部では、日本の標準化戦略の牽引役である国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)の上級主任研究員 吉田 正裕(よした まさひろ)氏への取材をもとに、現在急ピッチで策定が進む新規IEC規格の全貌や各国の思惑、そして日本の技術的優位性を守りつつ社会実装を目指す「オールジャパン」の戦略に迫る。
目次
- 「日本型標準加速化モデル2025」におけるペロブスカイト太陽電池の戦略的位置づけ
- 産総研におけるペロブスカイト太陽電池の位置づけと多面的な役割
- 太陽光発電分野における国際標準化体制と国内の対応組織
- 太陽電池の性能評価に関連する主要規格
- 「IEC 60891」と「IEC 60904シリーズ」規格に基づいた性能評価測定
- 太陽電池の性能評価測定の実際(I-V特性・変換効率)
- 太陽電池の出力特性:電流-電圧(I-V)特性測定と対応するIEC規格
- ペロブスカイト太陽電池の出力計測における課題
- ペロブスカイト評価技術における国際標準化の最前線
- ペロブスカイト太陽電池の型式認証と国際標準化戦略
- 日本の強みを世界へ:ペロブスカイト実用化へのマイルストーン
「日本型標準加速化モデル2025」におけるペロブスカイト太陽電池の戦略的位置づけ
〔1〕「日本型標準加速化モデル2025」の背景とコア戦略
経済産業省は2025年6月16日、ペロブスカイト太陽電池などを含む最新方針「新たな基準認証政策の展開-日本型標準加速化モデル2025-」を公表した注1。
同方針では、従来の施策の底上げに加え、日本における標準化および認証の取り組みを加速させるための新たな方針として、次の2点を提示している。
(1)特定分野における国主導の戦略的標準化の推進
(2)国内認証機関の強化
近年、グローバル市場における競争環境の激化と複雑化に伴い、米・欧・中は国家標準戦略等に基づき、重点分野を定めた標準化活動を加速させている。特に欧州においては、「規制」「規格」「認証」を一体的に推進する枠組みのもとに、認証の対象を最終製品からサプライチェーン全体へと拡大する動きが顕著となっている。
こうした国際情勢に対して、日本が従来展開してきた「産業界全体の標準化活動の底上げ」を中心とするアプローチだけでは、産業政策上重要な分野において国際的な議論をリードできず、日本に不利なルール形成がなされるリスクが高まっている。
そのため、産業構造の転換につながる不確実性の高い分野においては、産業政策と緊密に連動した分野全体の標準化活動を国が牽引する必要がある。具体的には、図1に示すように、技術と市場の成熟度や産業横断での連携性を基礎とした「3つの類型化」を行い、国家として「パイロット5分野」(重点取り組み分野)を設定し、戦略的な標準化を推進している。
図1 「日本型標準加速化モデル2025」の概要
〔2〕重点分野「ペロブスカイト太陽電池」への期待と“測定法”の壁
ペロブスカイト太陽電池は、「日本型標準加速化モデル2025」が掲げる「パイロット5分野(重点取り組み分野)」の1つに位置付けられている。軽量・柔軟(フレキシブル)という特長をもち、ビルの壁面をはじめとする国内の未開拓市場への導入が期待されている。
しかし、ペロブスカイト太陽電池は、特異な物理特性による「ヒステリシス」注2や「準安定状態」注3が存在し、光照射後に発電が安定するまでに時間を要する。そのため、既存の結晶シリコン向けの性能評価測定に関する規格(IEC 60904シリーズ等、後述)をそのまま適用するだけでは、正確な発電性能(真の定常出力)を測定できないという課題を抱えている。
注1:https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/jisho/seisaku2025.html
注2:ヒステリシス:Hysteresis。過去の電気的・環境的履歴が現在の特性に影響を及ぼす現象。電圧の走査(掃引)方向によって出力値が変化し、測定誤差を生む要因となる。
注3:準安定状態:Metastability。一時的な安定を保ちつつも、外部からのわずかな刺激(光や電圧など)をきっかけに、本来の「真の安定状態」へと速やかに移行してしまう過渡的な状態。



