再生可能エネルギーと次世代の電力市場の将来像

アルカテル・ルーセント ベル研究所 シニアダイレクターKenneth C. Budka(ケネス・C・ブッカ)氏に聞く!

再生可能エネルギーと次世代の電力市場の将来像

─編集部:欧州などでは再生可能エネルギーがかなり導入され、これらをストレージ(電池などの貯蔵技術)で管理することが話題になっていますが、これについてはどのように見ていますか。

ブッカ:おっしゃるように欧州では、CO2排出の削減を目指して、風力発電を推進したり、アフリカで大きな太陽電池発電プロジェクトを立ち上げたりと、大規模な発電や蓄電のプロジェクトが動いています。

 また今後はビジネスレベルにおいて、マイクログリッド発電、あるいはマイクログリッド蓄電ということも言われていますが、これによって今、グリッドでは2つのことが起こっていると思っています。

 1つは、監視や制御の対象となる機器の数の爆発的な増加、もう1つは、再生可能エネルギーの導入によって電力の需要と供給の変動性が激しくなっているということです。供給と需要が見合うようにするためには、密接な監視や制御が必要になります。現在、非常に広範な通信ネットワークが構築され、さまざまなデバイスや機器と通信ができるようになっていますが、これはグリッドの安全性と安定性を図るうえで欠かせないことです。

─編集部:例えば、私は太陽エネルギーが好きなので、太陽エネルギーを用いた電気を買いたい、あるいは風力発電の電気を買いたいといった場合、需要家(消費者)は、将来そのような選択ができるようになるでしょうか。

ブッカ:ベル研究所ではリサーチを行いましたが、我々が思い描いている将来では、それぞれの家庭や個人が発電者となり、電力を近隣の人々と取引できるようになると考えます。そして電力組合のようなものをつくり、投資として太陽パネルなどを購入したりする、つまり自分自身が発電者になることができるし、電力の取引者になることができるということです。

 また、私は自分が発電した電力しか使いたくない、近隣で発電された電力を買いたいといったマーケットのメカニズムが生まれてくることにより、再生可能エネルギーへのシフトは加速すると思っています。

 テレコム業界において、以前は大手通信事業者からのサービス提供しかありませんでしたが、今ではVoice over IP(IP電話)やスカイプなどが、まったく問題なく使用できますよね。そういったイノベーションというのは、いつも市場の末端で起こってきたものです。電力業界でも同様の現象が見られ、再生エネルギーへの加速も、そのぐらいのスケールで進むのではないかと思っています。

アルカテル・ルーセントの日本の電力市場への参入

─編集部:日本の電力市場へはどのように参入されようとしているのでしょうか。

ブッカ:我々はあくまでも通信を売り物とする会社なので、先ほどお話ししたような最高水準の信頼性や安全性を保証する通信ネットワークを提供し、スマートグリッドのアプリケーションの導入に貢献したいと考えています。

 レガシー系の技術が寿命を迎えることによるネットワークのアップグレードの可能性はあると思いますし、まさに今、日本は電力の規制緩和の時代を迎えていますので、これまでにはないビジネスチャンスもあるものと期待しています。世界各国で実績のある我々のソリューションを、ぜひ日本のマーケットに紹介したいと考えています。

 我々は、ただ機器を納入すればいいということではなく、お客様が抱えている課題や長期的なプランをよく理解したうえで、最も適切なソリューションを提供するのが重要だと思っています。これをコンサルテーティブアプローチと呼んでいますが、我々はこの方法で世界中の電力事業者とビジネスをしてきました。日本特有の環境や条件も理解しつつ、日本においても同じ姿勢で、電力向け通信ネットワークの革新に貢献していきたいと考えています。

─編集部:ありがとうございました。

◎Profile

Kenneth C. Budka(ケネス・C・ブッカ)

Kenneth C. Budka(ケネス・C・ブッカ)

アルカテル・ルーセント ベル研究所 シニアダイレクター

ユニオンカレッジ(ニューヨーク州)にて電気工学学士(BSEE)を取得。同校卒業後、ハーバード大学(マサチューセッツ州ケンブリッジ)にてエンジニアリング・サイエンスのPhDおよびMSciを取得。1991年、ベル研究所に入所。

2014年半ばより現職。ベル研究所が取り組むスマートグリッドの多角的な研究開発において指揮を執り、スマートグリッドを支える高性能で安全な通信プロトコルやアーキテクチャの開発に携わっている。前職では、アルカテル・ルーセントのストラテジック・インダストリーズ・グループ(公安やエネルギー、交通、政府を対象としたミッションクリティカルな通信システムの開発と展開を専門に行うビジネス部門)にてCTO(最高技術責任者)を務めた。

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