[スペシャルインタビュー]

スマートシティはビジネスでなければならない

亜細亜大学 都市創造学部 都市創造学科 教授 岡村 久和氏に聞く!
2017/04/10
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

スマートシティ化と犯罪の関係

─編集部:開発途上国、新興国、先進国の3者それぞれについて、課題はありますか?

岡村:スマートシティについては、技術的あるいは機能的に解説されることが多いので、ここではスマートシティ化と犯罪など社会的な課題に着目して解説しましょう。

 図3は、日本を基準(=1)としてシンガポール、マレーシアのジョーホール州の犯罪状況を示したものです。縦軸に日本を基準(=1)とした場合の倍率、横軸に「殺人」「強盗傷害」「婦女暴行」「全体の犯罪」件数を示し、それらを棒グラフで示したものです。

図3 日本とシンガポール、ジョーホール州(州旗)の犯罪の比較

図3 日本とシンガポール、ジョーホール州(州旗)の犯罪の比較

※日本を1とした場合の人口当たりの犯罪認知率
出典 New Straits Times: Lower crime index last year, Wikipedia: Rape statistics, Singapore Police Force: Annual Crime Brief 2012
出所 http://uniunichan.hatenablog.com/entry/20151128JohorPublicSafety

─編集部:お話の途中ですが、マレーシアのジョーホール州については、日本では馴染みが薄い方も多いので簡単に紹介していただけますか。

岡村:はい。シンガポールに隣接するマレーシアのジョーホール(JOHOR)州(州都:ジョーホール・バル)では、2025年の完成に向けて、図4と表2に示す5つの地区(フラグシップA〜E)を統合してスマートシティを構築するという、国際的に有名な「イスカンダル・プロジェクト」(ISKANDAL MALASIA)の開発が行われています注7。このプロジェクトが行われているジョーホール州の面積は、2,217㎢と東京都(2,190㎢)とほぼ同じで、シンガポールの約3倍の面積という壮大なプロジェクトです。写真2に、その外観を示します。

図4 マレーシア・ジョーホール州のイスカンダル・プロジェクト

図4 マレーシア・ジョーホール州のイスカンダル・プロジェクト

出所 ISKANDAR REGIONAL DEVELOPMENT AUTHRITY Annual Report 2015

表2 図4に示すフラグシップA~Eの各役割

表2 図4に示すフラグシップA~Eの各役割

出所 ISKANDAR REGIONAL DEVELOPMENT AUTHRITY Annual Report 2015

写真2 マレーシアのジョーホール州の州都「ジョホール・バル」の街並み

写真2 マレーシアのジョーホール州の州都「ジョホール・バル」の街並み

出所 ISKANDAR REGIONAL DEVELOPMENT AUTHRITY Annual Report 2015

 ジョーホール州は州なのですが、発展途上国から新興国に移行するような発展途上中なのです。

─編集部:ありがとうございました。それでは引き続きお願いします。

岡村:前出の図3をもう一度見てください。図3を見ると、全体の犯罪件数(右端)は日本が一番多いのですが、ジョーホール州では、殺人、強盗、婦女暴行などの凶悪犯罪がかなり多いことがわかります。これは、インドについても同じような傾向となっています。

なぜ、凶悪犯罪が急速に増えるのか?

─編集部:なぜ、新興国に移行する途中で、凶悪犯罪が急速に増えるのでしょうか?

岡村:根本的な原因は、先ほど申し上げた「アンマッチ」なのです。

 もともと開発途上国である地域に、スマートシティをつくるので、現地住民と流入してくる新しいお金持ちの人たちとの間で、貧富の差が非常に大きくなる現象が起ります。前述したジョーホール州のイスカンダル・プロジェクトはとても大きいプロジェクトで、そこに建設されたマンションを求めて、日本人や西欧人のお金持ちがたくさん入ってきます。そうすると、現地にもともと住んでいる多くの貧困層との間で、アンマッチが起こってしまうのです。

 これを、日本の歴史を振り返ってみるとわかりやすくなります。図5では、日本の戦後を次の3期に分けて見ています。

  1. 戦後間もない発展途上の時期:1946(昭和21年)〜1955年(昭和30年)
  2. 新興国の時期:1955(昭和30年)〜1965年(昭和40年)
  3. 先進国への仲間入りの時期:1965(昭和40年)〜2000年(平成12年)

 図5を見ると、日本の犯罪件数の推移とジョーホール州の犯罪件数の推移が似ていることがわかると思います。つまり、開発途上国から新興国への移行時期と、新興国から先進国への移行時期は、ともに犯罪件数が増加し、検挙人員も増加している傾向となっています。

図5 日本の戦後から現在に至る犯罪率の推移

図5 日本の戦後から現在に至る犯罪率の推移

出所 岡村久和「スマートシティ最新情報」(2017年2月、インド・ムンバイでの講演資料より)、『平成12年 警察白書』(第1章第1節 犯罪情勢の推移と刑事警察の50年)を元に加筆して作成


▼ 注7
http://iskandarmalaysia.com.my/downloads/IRDA%20ENG%202015.pdf

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