[クローズアップ]

スマートハウスのプラットフォームを狙うNest LabsとGoogleの戦略

2014/08/01
(金)
SmartGridニューズレター編集部

Nest Labsの歴史とその製品

〔1〕「サーモスタット」の概念を超える製品

Nest Labsは2010年5月に、Matt Rogers氏とTony Fadell(トニー・ファデル)氏によって創業された。ふたりとも、もともとはAppleでMP3音楽プレイヤーであるiPodや初代のiPhoneなどの開発にかかわっていた。共同創業者のふたり以外にも、経営陣にApple出身のメンバーが多いのが同社の特徴である。
 
創業後1年ほどは、ほとんど知られることがなかった同社が注目を浴びるきっかけになったのが、2011年10月に発表した同社最初の製品Nest Thermostat(ネスト・サーモスタット)である。

サーモスタットとは、家庭内の空調を制御するための機器である。一般的に、冷暖房などの空調機器は、家庭における電力消費の中でも大きな割合を占めると言われている。それらの機器を制御することで、電力消費量を大きく削減することを目的としているのがサーモスタットである。現在もさまざまなサーモスタットが発表されているが、当時、サーモスタットとしての機能を前面に打ち出す競合製品が多かったなかで、Nest Thermostatは、Apple譲りのデザイン性の高いサーモスタットとして、まず注目を集めた(図1)。

 
 
 
〔2〕Nest Thermostatが注目される理由
 
もちろん、Nest Thermostatが注目されたのは、そのデザイン性だけからではない。発売当初は同製品を”Nest Learning Ther-mostat”注3と呼んでいたように、ユーザーが細かい設定をする必要はなく、自動的に家庭の空調機器を制御する機能を備えた製品であった。当時は、ユーザーがあらゆる設定をすることができることを売りにしたサーモスタットも少なくなかったが、 Fadell氏の当時のコメントによれば、それらの製品で実際に細かい設定をしているユーザーの数は、全体の6%ほどだとしている注4。電力消費量を削減する機能をもった製品であっても、ユーザーがその機能を適切に使ってくれなければ効果はない。そこで、NestはAppleのiPodやiPhoneのような直感的な操作性と、自動学習機能を備えるNest Thermos-tatを開発した。
 
Nest Thermostatは、「温度センサー」「湿度センサー」「照度センサー」、そして2つの「人感センサー」の5つのセンサーがついた製品で、据え付けてから1週間ほどでセンサー情報とユーザーの利用状況をベースとして、ユーザーが快適だと感じる設定を学習する。その学習データに基づき、ユーザーにとっての快適性を損なわない範囲で、電力消費量を削減できるような空調の制御を自動で行う。
 
同社のWebサイト上の情報によれば、Nest Thermostatを利用することで家庭における電気などの請求額を最大で20%削減できる注5としている。また最近ではNest app(ネスト・アップ)と呼ばれるスマートフォンアプリやWebツールを利用することで、遠隔からNest Thermostatの状況を確認したり、設定をしたりすることができるようにもなっている。
 
その後、Nest Thermostatの改良を重ねながら、2013年10月にはNest Protect(ネスト・プロテクト)という火災報知器を発表した注6。Nest Protectは、煙と一酸化炭素を探知する機器である。Nest Thermostat同様、直感的な操作やスマートフォン向けのアプリと連携することで、家庭の安全をよりわかりやすく確保するための製品を提供し始めた。
 
 
〔3〕「再発明」(Reinvent)への取り組み
 
Appleの創業者であるSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏がiPhoneを発表した際、「電話を再発明する(Reinvent the phone)」と掲げたように、Nestもまた「再発明(Reinvent)」という言葉を好んで使っている。同社は、家庭における重要ではあるが好んで使われているわけではない製品を、よりシンプルに、かつ美しいものにすることをミッションに掲げ、一見地味なサーモスタットや火災報知器という製品を再発明するための取り組みを行ってきた。

◆図1 出所
 〔出所 Nest サイトより(https://nest.com/press/#product-images)〕
 
▼注3
Nest Labs Int roducesWorld’s First Learning Thermostat(https://nest.com/press/nestlabs-introduces-worldsfirst-learning-thermostat/
 
▼注4
Introducing a thermostat Steve Jobs would love:Nest(http://gigaom.com/2011/10/24/introducing-a-thermostatsteve-jobs-would-lovenest/
 
関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...