[特集]

【創刊7周年記念】 第36回 太陽光発電シンポジウムレポート 2050年に300GWの太陽光発電の導入へ

― 再エネ自立化とCO2の80%削減を目指した新ロードマップ ―
2019/12/12
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

一般社団法人 太陽光発電協会(JPEA)(注1)は、2019年11月6〜7日の2日間にわたって「第36回太陽光発電シンポジウム」(於:東京・大崎ブライトコアホール)を開催し、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の主力電源化に向けた新しいロードマップを発表した。
同シンポジウムでは、2050年における太陽光発電の予測導入量を従来の200GW(注2)から、300GW(交流ベース。後述)へと大幅にアップさせ、これによって2050年の太陽光発電は、日本の電源全体の30%を賄うことになるとあって、再エネの主力電源化に向けたダイナミックな取り組みが発表された。
ここでは、JPEA ビジョン部会長 杉本 完藏(すぎもと かんぞう)氏による基本講演「JPEAビジョン PVOUTLOOK2050〜太陽光発電の主力電源化への道筋〜」をベースに編集部がまとめ、シンポジウムの内容をレポートする。

深刻な事態を迎えている地球の温暖化

〔1〕IPCCとは

 2015年12月に採択された地球温暖化対策の新しい枠組みであるパリ協定は、地球の気候変動に対処するため、産業革命(1750年前後)前に比べて気温の上昇を2℃未満(努力目標1.5C未満)に抑えることを目的に、21世紀(2001〜2100年)の後半に全世界で温室効果ガス注3の排出を実質ゼロにすることを目標として定めた〔その実現は、各国の自主目標(約束草案:NDC注4)によって行われる〕。

 この気候変動に関して、その科学的な根拠となる分析や評価を行っているのは、195カ国・地域が参加している国連のIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル、1988年設立)という国際的な組織である。

〔2〕IPC「1.5℃特別報告書」のインパクト

写真1 JPEA「第36回太陽光発電シンポジウム」の冊子(左)とIPCC「1.5℃特別報告書」の表紙

写真1 JPEA「第36回太陽光発電シンポジウム」の冊子(左)とIPCC「1.5℃特別報告書」の表紙

出所 JPEA「第36回太陽光発電シンポジウム」(2019年11月6日~7日)
IPCC「1.5℃特別報告書(Global Warming of 1.5℃)」(2018年10月)

 IPCCは2018年10月、IPCCの「1.5℃特別報告書」(Global Warming of 1.5℃)を発表した(写真1右)。これは各国政府などからの推薦を踏まえて、世界約40カ国から91名の執筆者(日本から4名)が選出され執筆されたものである。

 全642ページ(本文616ページ+政策決定者向け要約26ページで構成)にも及ぶ膨大なもので、パリ協定の実施ルールが合意されたCOP24(ポーランド・カトヴィツェで開催。2018年12月2〜15日)の直前に発表されたが、その内容は深刻なもので、世界に大きなインパクトを与えた。

 「1.5℃特別報告書」の分析では、世界の平均気温は、すでに産業革命(1750頃、工業化)以前の世界の平均気温から約1.0℃上昇(地球温暖化)し、現在の進行度合では、2030〜2050年に1.5℃に達してしまうと予測している(図1)。今後、地球温暖化を1.5℃に抑制するには、CO2排出量を2030年までに45%削減し、2050年頃には正味ゼロにする必要があるとされ、現状のままでは2100年には3℃も上昇してしまうというショッキングな予測である。このため、パリ協定がスタートする2020年1月までに、各国は削減目標を引き上げる必要に迫られている。

図1 IPCC「1.5℃特別報告書」の分析

図1 IPCC「1.5℃特別報告書」の分析

≪最大2030年代には1.5℃を超えると想定。1.5℃に抑制するには、2030年までに、CO2排出量を45%削減、2050年頃には正味ゼロが必要≫
■工業化以降、人間活動は約1.0℃の地球温暖化をもたらしている
■現在の進行度では、地球温暖化は2030~2050年に1.5℃に達する
■地球温暖化を1.5℃に抑制するには:
 ・CO2排出量を2030年までに45%削減
 ・2050年頃には正味ゼロにする
 ・メタンなどの排出量も大幅に削減
■地球温暖化を2℃、または1.5℃に抑制することには、明らかな便益(※)がある
※便益:例えば、地球温暖化を1.5℃に抑制する過程でもたらされる大気質の改善は、人々の健康面に直接的および即時的な便益を与えることが示されている
※1 総カーボンバジェット:工業化以前の期間から人為起源のCO2排出量が正味ゼロに達する時点までに推定される、世界全体の正味のCO2累積排出量
※2 残余カーボンバジェット:所与の起点から人為起源のCO2排出量が正味ゼロに達する時点までに推定される、世界全体の正味のCO2累積排出量
参考URL⇒http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf
出所 太陽光発電協会(JPEA)「第36回太陽光シンポジウム」、2019年11月6日~7日


▼ 注1
JPEA:Japan Photovoltaic Energy Association、一般社団法人 太陽光発電協会。代表理事 菅原 公一(株式会社カネカ 代表取締役会長)。太陽光発電システムに関する利用技術の確立や普及促進、および関連産業の発展を目指して、1987年4月に設立された。会員数は137社・団体(2019年7月現在)。

▼ 注2
2017年に発表された「太陽光発電2050年の黎明:脱炭素・持続可能社会実現に向けて」(2017年6月)では、2050年における太陽光発電の予測導入量は200GWであった

▼ 注3
温室効果ガス:Greenhouse Gas(GHG)。地球の大気や海水温度を上昇させる性質を持つ気体のこと。温室効果ガスには二酸化炭素(CO2)の他に、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、六フッ化硫黄(SF6)などがある。CO2は地球温暖化に及ぼす影響がもっとも大きな温室効果ガスであるところから、温室効果ガスは、二酸化炭素(CO2)を代表(=温室効果ガス)として扱われて解説されることもある。

▼ 注4
NDC:Nationally Determined Contribution、国が決定する貢献。約束草案ともいわれる。パリ協定に基づいて、各国が自主的に決定する温室効果ガスの削減目標。その目標を各国が国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出する。

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