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京大など、アンモニアを直接燃料とした燃料電池による発電に成功

2015/07/22
(水)
SmartGridニューズレター編集部

2015年7月22日、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「エネルギーキャリア」〔管理法人:国立研究開発法人科学技術振興機構(以下:JST)、埼玉県川口市、理事長:中村道治〕の委託研究課題「アンモニア燃料電池」において、国立大学法人京都大学、株式会社ノリタケカンパニーリミテド、三井化学株式会社、株式会社トクヤマは共同研究により、アンモニア燃料電池の世界最大規模(200Wクラス)の発電に成功したことを発表した。
 写真 開発したアンモニア燃料電池スタック※1

背景
近年、再生可能エネルギーの大量導入・利用の際のエネルギー貯蔵・輸送用の媒体として、エネルギーキャリアへの期待が高まっている。エネルギーキャリア※2は、常温常圧では気体の水素を、水素を多く含んだ化学物質に変換して、より簡便に貯蔵・輸送を行うための媒質である。アンモニアは炭素を含まず水素の割合が多い水素キャリアとして注目されており、発電用燃料としての利用に期待が高まっている。アンモニアを燃料として発電しても主に水と窒素しか排出しないことから、通常の化石燃料である炭化水素を利用した燃料電池に比較し、二酸化炭素排出量の削減効果が大きいことが期待される。

研究の内容
今回の直接アンモニア燃料電池は、電解質であるジルコニアの片面に取り付けた燃料極に発電の燃料となるアンモニアガスを直接供給し、反対側の空気極に空気を供給することによって、両極の間で電力を発生させる原理に基づいている。(図参照)今回の技術はこの燃料電池単セルを積層した200WクラスのSOFC※3スタックへ直接アンモニアを供給し、発電したものである。アンモニア燃料に適用するための各種部材を選定し、アンモニア燃料専用の新規SOFCスタックを開発した。アンモニア燃料は部材の接合部から漏洩すると、配管部を腐食してしまうなどの課題があったが、アンモニア燃料を漏洩なく封止できる特殊なガラスを開発することができた(担当:株式会社ノリタケカンパニーリミテド)。その結果、アンモニア燃料を直接供給しても、高い発電能力を有するスタックを実現した。同スタックに直接アンモニア燃料を供給して発電を行ったところ、純水素と比較して、同等レベルの良好な発電特性が確認された。また、燃料電池の直流発電効率は255Wにおいて53%(LHV)が達成された。※4

今後、アンモニア燃料を用いて、家庭で使用できる出力である1kWクラスの実証実験を行う予定である。また、アンモニア燃料は分散型電源として、業務用の発電への展開も期待される。


※1 燃料電池スタック:1個の燃料電池(単セル)では数10W程度の出力であるが、燃料電池をセパレーター(またはインターコネクター)と呼ばれる導電性の材料とを交互に数十~数100個コンパクトに直列に連結して、電圧及び出力を増加させた燃料電池の集合体。

※2 エネルギーキャリア:液体水素やメチルシクロヘキサン、アンモニアなど水素を多く含む物質の指す。エネルギー生産地で合成して、化学的に安定な液体として保存・運搬し、エネルギー消費地で水素を取り出すか直接エネルギーに変換して使用する。

※3 固体酸化物形燃料電池(SOFC):700~900℃で動作する酸化物セラミックスを構成材料とする燃料電池。発電効率が高く、天然ガスからの発電でその有効性が確認されている。燃料極、電解質、空気極から構成され、燃料には水素のほか一酸化炭素などが使用される。

※4 燃料電池に供給したアンモニアの低位発熱量に対する直流発電出力

■リンク
京都大学
JST

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