Q9:MPEGシリーズとHシリーズはどこが違うのか?
これまでよく知られているMPEG-1とか、MPEG-2、MPEG-4という名の圧縮技術と、H.261、H.262、H.263、H.264という名の圧縮技術は、どのように違うのでしょうか。歴史的な(年代的な)推移も含めて解説してください。
≪1≫応用分野ごとの圧縮標準
圧縮技術の主要な応用分野は、①放送の分野、②通信の分野、③蓄積の分野、の3つの分野です。
[1]放送分野はMPEGとITU-T標準
放送に関する国際標準は、ITU-R(ITU Radiocommunication Sector、国際電気通信連合無線通信部門)によって、定められます。テレビ放送のデジタル化には早くから着目し、テレビ画像信号のデジタル表現に関する基本的な標準ITU-R BT.601初版を1982年に制定しています。ITU-R BT.601のBTとは、ITU-R勧告のBTシリーズのことで「Broadcasting service Television」の略です。
ITU-R BT.601では、前述した標本化(サンプリング)周波数を13.5MHzと定め、1ライン
(1本)の走査線の画素数を720としています。このデジタル・テレビのフォーマットはITU-R BT.601水準と呼ばれ、この場合のテレビ信号のビット・レート(圧縮なし)は、216Mbpsとなっています。
また、放送のための圧縮に関してもいくつかの標準を作っていますが、現在はMPEGあるいはITU-T標準を使用する(参照する)アプローチを取っています。
[2]通信分野はHシリーズ(ITU-T標準)
通信の分野では、実用的なテレビ電話、テレビ会議には、情報量が多いため圧縮符号化が不可欠なことから、1980年代半ばから活発な標準化が進められています。その成果が、前述したHシリーズすなわち「H.26x標準(x=1,2,3,4)」です。
[3]蓄積分野はMPEGシリーズ
一方、蓄積の分野では、CD-ROMの登場とともにそのための圧縮符号化を標準化するため、1988年にMPEGが設立され、その後MPEGシリーズすなわち「MPEG-y標準(y=1,2,4)」が定められています。
≪2≫汎用的な圧縮標準の登場
このように、当初は応用分野ごとにHシリーズやMPEGシリーズなどの圧縮符号化標準が作業されていましたが、通信、放送、蓄積間のアプリケーションの融合が認識されるような1990年代に入って、応用分野を問わない汎用的な圧縮符号化(ジェネリック・コーディング)標準が志向されるようになりました。
その具体的な現れが、ITU-TとMPEGが共同して作業した「H.262|MPEG-2」と、本書で解説する「H.264|MPEG-4 AVC」です。ここで“│”(たてぼう、またはバーティカル・ライン)は同じ標準を両方の標準化機関が承認したことを意味する記号です。本コーナーでは「H.264|MPEG-4 AVC」標準を簡単のために「H.264/AVC」と表記しています。
※この「Q&Aで学ぶ基礎技術:最新の情報圧縮技術〔H.264/AVC〕編」は、著者の承諾を得て、好評発売中の「改訂版 H.264/AVC教科書」の第1章に最新情報を加えて一部修正し、転載したものです。ご了承ください。