【第3回】米国のエネルギー政策②:エネルギー技術への連邦政府の支援を再定義したOBBBA(包括的な税制・歳出改革法)と関税政策(6ページ目)

〔3〕中長期(2028年以降)の再エネ・EV・蓄電池の見通し

(1)電力需要の動向
 まず背景となる電力需要であるが、継続した増加が見込まれている。Brattle Group(ブラトル・グループ。国際的な経済コンサルティング企業)が米国の各送電機関(ISO/RTO:系統運用機関/地域送電機関)の見通しを集約した情報によると、米国全体の需要は2030年に2024年比で24%増加、2035年には2024年比で36%増加の見込みである。
 短期(2027年まで)では、禁止外国組織要件を回避し、期日までに着工または運転開始し、税控除を確保することが再エネ・定置用蓄電池の大きな推進力となる。2028年以降は太陽光発電・風力発電のITC/PTCは使えないため、州政府のインセンティブなどを活用し、収益基準を満たす案件が建設される。前述した通り、太陽光発電と蓄電池については特にデータセンター建設需要に支えられるだろう。
(2)風力発電には逆風
 風力発電については、価格競争力がある陸上風力は残るが、洋上風力の新規建設は困難になるだろう。エネルギー情報局によると、2025年時点で洋上風力発電の平準化コスト(資本費や運用維持コストなど生涯でかかるコストを生涯で発電する電力量で割った値)の平均は$88.16/MWhであり、コンバインドサイクル発電注20($64.55/MWh)や先進型原子力注21($81.45/MWh)よりも高く、コスト競争力に欠ける注22。しかも、トランプ政権による連邦用地のリース停止やITC/PTC以外の補助金の停止も行われており、逆風が続く。
(3)2025年~2026年、定置用蓄電池製造能力は大幅に増加
 蓄電池に関しては禁止外国組織排除要件が税控除のハードルとなるが、2025年から2026年に米国の定置用蓄電池製造能力は大幅に増加する。
 Tesla(ネバダ州、10GW/年)、LG Energy Solution(ミシガン州、16.5GWh)、AESC(テネシー州、7GWh)、Canadian Solar(ケンタッキー州、6GWh)などの蓄電池セル製造工場が稼働開始し、2026年末までには米国内の定置用蓄電池セル製造能力は30GWhに達する見込みだ注23。これらの工場で製造されたセルを含む蓄電システムは禁止外国組織排除要件をクリアし、税控除の対象となるはずだ。不足分は引き続き中国企業以外のサプライヤーから調達されるだろう。

〔4〕ブロック経済化で中国の独走を止められるか?

(1)データセンター需要の増加と国内製造投資の拡大が米国エネルギー市場を下支え
 OBBBAとトランプ関税は、米国のエネルギー市場に二重の圧力を加えている。前者は太陽光発電、風力発電、EVの税制優遇を縮小し外国勢力排除を制度化、後者は高関税で実際に市場から外国製品、特に中国製品を締め出す。
 その結果、米国は国内製造能力増強など脱中国サプライチェーンの構築を進めつつも、EV市場は税控除打ち切りで減速、太陽光発電や風力発電も支援縮小で先行きが不透明となる。しかし、データセンター需要の増加に支えられた電力需要の増加と国内製造投資の拡大が太陽光発電と定置用蓄電池を下支えするだろう。風力発電は淘汰の方向で、コスト競争力がある案件のみが建設されるが、そのほとんどは洋上ではなく陸上風力となるだろう。
(2)ブロック経済化への構造変化が最大の注目点
 再エネ・EV・蓄電池では巨大な自国市場と大規模投資によって構築した製造能力を背景に中国が世界を席巻してきた。今までは、米国や欧米は関税によって自国・自地域市場を中国から守ることはできても、世界の脱炭素のキープレイヤーとなった中国の地位を脅かすことは難しかった。
 第2次トランプ政権の政策は単なる自国保護ではない。国内製造能力の拡大に舵を切り、関税を外交ツールとして使う姿勢を鮮明にした。自由貿易を前提とした国際経済の枠組みは変質し、ブロック経済注24化の兆しが見え始めている。こうした構造変化が、中国の独走を止めるのか。それとも中国の優位は揺るがないのか。再エネ・EV・蓄電池市場の行方を占う最大の注目点となっている。
 日本企業にとっては、製品の輸出先や原材料の調達をめぐり、様々な世界貿易のシナリオを想定した戦略を描くことが欠かせない。関税や規制といった政治的リスクを前提にサプライチェーンをどう設計するか、特に「対中デカップリング」をどの水準まで進めるかは、中長期的な競争力を左右する要因となり、同時に米国との関係にも影響を及ぼす可能性がある。一方で、関税や規制によって新たな市場機会が生まれる局面もあるため、そうした変化を前向きに捉え、自社の成長につなげていく視点も重要だ。


注20:コンバインドサイクル発電:Combined Cycle Power Plant(CCPP)、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた二重の発電方式。
注21:例えば、小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)など。
注22https://www.eia.gov/outlooks/aeo/electricity_generation/pdf/AEO2025_LCOE_report.pdf
注23https://www.energy-storage.news/us-ess-cell-manufacturing-to-reach-50gwh-by-the-end-of-2026/
注24:ブロック経済化:米国を中心にして複数の国・地域で閉鎖的な経済圏を形成すること。

 

◎著者プロフィール

大串 康彦(おおぐし やすひこ)
1992年に荏原製作所入社後、環境・エネルギー技術の開発に従事。2006年~2010年にカナダBC Hydroでスマートグリッド事業を担当。2016~2017年は英国RES日本法人で系統用蓄電池事業に従事。2017年~2023年にLO3 Energyの日本担当ディレクターを務める。現在は産業戦略アナリストとして、グローバルな産業政策と企業戦略の分析・立案を行う。著書に『商用化が進む電力・エネルギー分野のブロックチェーン技術』(インプレス)『蓄電池ビジネス戦略レポート』(日経BP)がある。

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