[インターネット・サイエンスの歴史人物館]

連載:インターネット・サイエンスの歴史人物館(4)J. C. R. リックライダー

2006/12/20
(水)

「銀河間コンピュータ・ネットワーク」の構想

リックライダーは、ルイナからMITの提案書に対する資金援助の承認を得ると、1963年7月1日から、6週間の夏期研究会をMITで開催することを決め、SDCとMITにタイムシェアリング・システムの実演を要請した。

ファノは同年3月に、タイムシェアリング・システムと人工知能の研究の両方に、ARPAの助成を割り当てる必要から、プロジェクト名を「Multiple Access Computer」、あるいは「Machine-Aided Cognition」の頭文字として解釈できる「MAC」にすることに関係者の同意を得た。

リックライダーは1963年4月25日に、「銀河間コンピュータ・ネットワーク(Intergalactic Computer Network)」として知られるメモを口述して、プロジェクトの提案者たちに送付した。その「銀河間コンピュータ・ネットワークの関係者各位に」で始まる7ページのメモで、リックライダーは、研究コミュニティが開発するコンピュータが相互に接続でき、データやプログラムが地理的な制約を受けることなく、どこにあるのかを知る必要もなく利用可能になるという未来像を描いた。リックライダーはここで、情報を共有できるネットワークがさらに進化を遂げることを予見してみせた。

タイムシェアリング・システムの普及拡大

リックライダーがMITで開催した夏期研究会には、57人の研究者が参加した。彼は、この研究会で参加者がタイムシェアリング・システムを学び、その後コミュニティを形成する起点にしようとしていた。参加者はこの研究会の後で、ARPAの助成を受けた研究プロジェクトを正式に開始することができた。夏期研究会の参加者は、テレタイプで西海岸のQ-32にログインし、CTSS(Compatible Time-Sharing System、MITで開発されたタイムシェアリング・システム)を10人以上のユーザが同時に使用することを体験した。

フェルナンド・コルバットゥは、ARPAの助成により、1963年10月にIBM7090のトランジスタ版のIBM7094をテクノロジー・スクウェアの9階に導入し、CTSSを移植した。そうして、タイムシェアリング・システムがプログラム開発に利用できるようになり、大学院生のジェローム・サルツァーは、ワープロの原型となるコマンド、”TYPSET”(テキストを入力/編集するためのコマンド)と”RUNOFF”(TYPSETで入力したテキストを整形し出力するコマンド)を記述し、学部生のトム・ヴァン・ヴレクは、CTSSのユーザ間でメッセージをやりとりする”MAIL”コマンドを開発した。また、CTSSはパスワードによる認証やファイアウォールを備えた最初のシステムになった。

写真:IBM7090/7094
http://www.frobenius.com/7090.htm

タイムシェアリングOSの開発

ファノとコルバットゥは、IBM7094に移植したCTSSを開発環境にして、情報ユーティリティの土台となる本格的なタイムシェアリングOSの開発プロジェクトを開始した。CTSSは、バッチ処理用に設計されたコンピュータの上で、割り込みを利用してタイムシェアリングを可能にしていたが、新しいプロジェクトでは複数のプロセッサとメモリバンクを利用して、格段に多い同時ユーザに対話型コンピューティングをサービスとして提供することを目指した。新しいシステムは、Multics(Multiplexed Information and Computing Service)と呼ばれた。

カリフォルニア大学バークレー校のタイムシェアリング・システムは、1964年秋に完成した。また、リックライダーが助成したカーネギー工科大学では、アラン・パーリスが学部教育を充実させ、米コンピュータ学会(ACM)の活動で中心的な役割を果たした。MITとカーネギー工科大学は1963年半ばに、ARPAにより「Center of Excellence」に選定され、コンピュータ・サイエンスの最高学府になった。

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