[インターネット・サイエンスの歴史人物館]

連載:インターネット・サイエンスの歴史人物館(3)アイヴァン・サザランド

2006/11/28
(火)

コンピュータ・情報通信技術は今日、社会生活においてなくてはならないものになっています。本連載「インターネット・サイエンスの歴史人物館」では、 20世紀初頭に萌芽を見せ、インターネットの誕生など大きな発展を遂げたコンピュータ・情報通信技術の歴史において、多大な貢献を果たしたパイオニア技術者たちの伝記を掲載。やがて「標準技術」へと結実することになる、彼らの手探りの努力に触れることで、現代社会が広く享受している恩恵の源流を探ります。第3回目は、 GUI、コンピュータ・グラフィクス、オブジェクト指向の原点になるシステムとして、その後のソフトウェアの発展に甚大な影響を与えたアイヴァン・サザランドを取り上げます。

アイヴァン・サザランド

Photo: Ted Mock Photography

「スケッチパッド」の開発で
ソフトウェアの発展に多大な影響

アイヴァン・サザランドが1963年1月7日にMITに提出した博士論文「スケッチパッド」(図形を自動的に描く描画プログラム)は、GUI、コンピュータ・グラフィクス、オブジェクト指向の原点になるシステムとして、その後のソフトウェアの発展に甚大な影響を与えた。サザランドは26歳で米国防省高等研究計画局(ARPA)の情報処理部長に抜擢され、研究段階のパケット通信の実験に着手し、ARPAとして投資すべき将来に資する情報処理を選定した。

さらに、1967年にハーバード大学でバーチャル・リアリティの研究に先鞭をつけ、カリフォルニア工科大学では大規模なコンピュータ回路をCADで設計する研究プロジェクトを立ち上げた。サザランドはその後、非同期論理回路によりノイマン型を超える高速コンピュータを実現するため、1991年にサン・マイクロシステムズの研究所の創設に加わった。

ornament

12歳でプログラミングを体験

アイヴァン・エドワード・サザランドは1938年に、ネブラスカ州ヘイスチングスで土木工学の博士号をもつ父と教員の母の次男として生まれた。サザランド家の祖先は、スコットランド最北端のサザーランドシャー(Sutherlandshire)から米国に渡ってきた。アイヴァンは2歳上の兄バートとともに、ニューヨーク市の北方の住宅地ウェストチェスタ郡スカースデールで少年期を過ごした。

スカースデール駅から電車に乗ると、マンハッタンのグランドセントラル駅に30分ほどで到着する。兄弟は、父が仕事で使う機械の図面に興味を持ち、幾何学やアマチュア無線の知識を交換し合う仲だった。

アイヴァンが12歳になった時、父親はリレー式の卓上計算機を携えて帰宅した。このマシンは、「Harvard Mark II」の開発に関わったエドムンド・バークレーが、1950年に製作した「Simon」で、12ビットのメモリを備え紙テープで2進数のプログラムを入力することができた。Simonは合計が30までの加算しか行えない設計だったが、アイヴァンはマシンの配線を変えて条件停止を可能にして、2.4mのテープに除算を行うプログラムを記述した。

バークレーはプルーデンシャル保険に「UNIVAC」を導入した人物で、コンピュータ学会のACM(Association for Computing Machinery)の創設者の1人として知られている。バークレーはアイヴァンのプログラムを見て、2進数が扱えるこの兄弟に小遣いを与えて、仕事を手伝わせた。Simonはマイクロ・コンピュータのトレーニング・キットのような代物だが、400台ほど販売された。兄弟は史上最年少でプログラミングを経験し、バークレーの仕事を手伝ううちに、コンピュータについて数多くのことを学んだ。

バークレーはサザランド兄弟を、クロード・シャノンに紹介した。兄弟はベル研究所を訪れ、シャノンは1950年に製作した迷路からの脱出法を学習するネズミのロボットなどを見せ、一輪車の乗り方や綱渡りを披露して兄弟に強烈な印象を与えた。

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