みんな電力のP2P電力取引プラットフォーム「ENECTION2.0」が拓く新たな電力ビジネス
― ブロックチェーン技術によって日本初の「電源のトレーサビリティ」を実現 ―2020年1月6日 0:00
電力の自由化によって、電力のビジネスモデルは集中から分散へと大きく変化している。
ベンチャー企業「みんな電力株式会社」(以下、みんな電力)は、日本の電力システム改革と、脱炭素社会を目指して再生可能エネルギー(以下、再エネ)電源を指向する世界的な潮流を背景に、ブロックチェーンを使った独自のP2P(注1)電力取引プラットフォーム「ENECTION2.0」を構築し、日本で初めて商用化を実現した。すでに同社が扱う再エネ電源は約50万kWhに達し、再エネの主力電源化を目指すRE100時代を迎えて、その電力容量は増大し続けている。
ここでは、みんな電力 専務取締役 事業本部長 三宅 成也(みやけ せいや) 氏への取材をもとに、中核となっている「ENECTION2.0」の詳細と、新しい電気の価値を追求して新サービスを提供する、みんな電力の挑戦を見ていく。
日本で唯一、生産者の「顔がみえる」電力小売サービス
〔1〕電気を通じて生産者とつながる
みんな電力のコンセプトは、「顔の見える電力」である。
“電源の生産者”を明示して、電力購入者(需要家)が応援したい発電所を選べるようにするという、国内では唯一の電力小売ビジネスプラットフォームを構築し、提供している。
ここに1つのエピソードがある。
ある日、電車に乗っていた創業者 大石 英司 社長は、携帯電話の電池残量が少ないことに困っていたとき、近くに座っていた女性が持っていた携帯型のソーラー充電器を見て「電気は創ろうと思えば、簡単に自分で創ることができるんだ」と感動した。
このときの経験を通して大石氏は、「電気は誰にでも創れるのだから、みんなが電気を創って、売る仕組みがあれば、富の分散につながるし、日本も元気になるのではないか」と思ったそうである。大石氏は2011年5月に起業し、社名は、“誰でも電気が創れる”“みんなで電気を創ろう”などという意味を込めて付けられた(表1)。
〔2〕てのひらソーラー発電器「空野めぐみ」
みんな電力の最初のビジネスは、スマートフォンや各種携帯電話、iPad、携帯ゲーム機用に充電が可能な、てのひらソーラー発電器「空野めぐみ」(そらのめぐみ)の発売であった(2012年4月、写真1)。
写真1 最初の一歩:スマホ用充電器「手のひら発電 空野めぐみ」
発電でポイントが貯まる「発電ポイント機能」や、友達と発電情報を共有できる「ソーシャルバッテリー機能」を搭載し、世界初の試みがなされた。
出所 みんな電力提供
重さは約90グラムで、ソーラーパネルを装備し、2000mAh注2の大容量バッテリーを搭載していた。
「空野めぐみ」にフェリカ(FeliCa)搭載の携帯電話をかざすと、1日の発電量情報をチェックできたり、発電量に応じてポイントを貯めたりすることもできた。コンセントやUSBからの高速蓄電も可能とし、さらに、手元を照らすことのできるLEDライトも搭載され、防災時や停電時でも活用もできるという暮らしの安心も意識されたものであった。
▼ 注1
P2P:Peer to Peer(ピア・ツー・ピア)。もともとは通信方式の1つで、サーバを介さずに個々の端末(Peer)が互いに直接かつ対等に通信を行うこと。P2P電力取引とは、各家庭(Peer)が電力会社を介さずに他の家庭(Peer)と直接取引を行う電力取引のこと。現状では制度的に直接、家庭と家庭の間では電力取引は許可されていないため、みんな電力のような小売電気事業者を介してP2P電力取引が行われている。
▼ 注2
mAh:ミリアンペア・アワー。ミリアンペア時。バッテリー(蓄電池)の容量を示す単位。例えば、リチウムイオン電池等に書かれている「mAh」という単位は、電流[mA]と時間(hour) [h]の積を示す。例えば、2000[mA]のフル充電された電池の場合は、LEDランプに100[mA]の電流を流して使うと、20時間(20h)使える(100[mA]×20[h]=2000[mAh])ことになる。