関西VPPプロジェクトの実証内容
〔1〕3つのチームによるVPP構築実証
アグリゲーションコーディネーター(AC、表2を参照)である関西電力を中心にVPP構築実証事業を推進している「関西VPPプロジェクト」は、2020年5月29日から実証事業を開始した。
表3に示すように、
- 関西電力と関西電力送配電の2事業者チームによる、VPPの事業化(ビジネス化)を見据えた実証をはじめ、セキュリティ対策を含む周波数制御技術の確立
- 関西電力・出光興産・住友電気工業の3事業者チームによる、卸電力市場価格に連動する電気料金に基づいた電動車(EV/PHEV)の充放電遠隔制御の実証
表3 「関西VPPプロジェクト」の2020年度の実証事業の概要(2020年6月1日発表)
DP:Dynamic Pricing、ダイナミックプライシング。固定的な料金ではなく、卸売電力市場の価格に連動した「時間別料金」の設定を行い、EV/PHEV充電用の電力料金を安くすること。下記URL参照。
EVDP:Electric Vehicle Dynamic Pricing、ダイナミックプライシングによって、電動車(EV/PHEV)の充電のタイミングを「電気料金が高い時間帯から、安い時間帯に誘導(ピークシフト)」し、充電用の電力料金を下げること。同時に、系統電力の混雑(ピーク)を緩和することも可能となる。下記URL参照。
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/bunsan/r2gaisanyoukyu_r1hoseiyosan.pdf 、32ページの図
出所 関西電力2020年6月1付けプレスリリースをもとに、編集部で作成
(3)関西電力・日本ユニシス・住友電気工業・パナソニック・東京ガスの5事業者チームによる、家庭用燃料電池「エネファーム」を活用したVPP実証
という3つのチームによって、VPP構築実証が行われている。
〔2〕「関西VPPプロジェクト」の全体像
図2は、関西VPPプロジェクトが2019年度に構築したVPP構築実証システムに、2020年度に取り組む課題を重ねて示した全体像である注6。
図2 2020年度の関西VPPプロジェクトのVPP構築実証システムの構成イメージ
具体的には、図2に示す4カ所の黄色枠の部分が、2020年度の主な取り組み内容である。また、2カ所の白色枠部分は、2019年度から継続して取り組む内容である。
関西VPPプロジェクトでは、これらを通して、2021年4月から開始される電力の「需給調整市場」において、VPPの事業化に向けた取り組みを強化していく。
2事業者チームの取り組み:VPPシステムの高度化
まず、関西電力と関西電力送配電の2事業者チーム(表3)の取り組みを見ていく注7。
〔1〕関西電力
関西電力は、VPP構築実証事業(5カ年計画)が開始された2016年度から同実証事業に参画している。これまで、比較的長時間(十数分から数時間程度)の負荷変動(需要者側機器の電気使用量の変動)に対応する調整力注8に関して、リソースアグリゲーター注9がもつ、大型蓄電池や電動車(EV/PHEV)、エコキュートなどのさまざまなエネルギーリソースを活用するため、必要なシステムを開発し、実フィールドで高度な制御が可能であることを実証してきた。
2020年度は、前年(2019)度までに構築したVPPシステムの高度化を図るとともに、多様なリソースを活用できるよう、同実証事業では初の家庭用燃料電池「エネファーム」を導入する(図2の下段中央)。
また、卸電力市場(JEPX)価格に連動する電気料金に基づいた、アグリゲーター注10による電動車(EV/PHEV)の充放電の遠隔制御実証を開始するなど、VPPの本格的なビジネス化を見据えた実証に取り組む。
〔2〕関西送配電
関西送配電は、これまでVPP実証事業において、比較的短時間(数秒から数分程度)の負荷変動に対応する調整力の制御(周波数制御)を目的に、図3に示すような、約1万台規模の蓄電池を一括制御するシステムを構築し、さらに、メーカーの異なる蓄電池の制御技術などを開発し、確認してきた。
図3 約1万台規模の蓄電池を一括制御するシステム
K-LIBRA:Kansai electric power company’s Liberty to manage the power grid Integrated Batteries and energy Resource Aggregator(s)、関西電力が日本電気(NEC)と構築した蓄電池を一括制御するための蓄電池群監視制御システム。
出所 関西電力『関西VPPプロジェクト』H31年度実証結果と今後の取組み」、2020年3月24日、18ページ
2020年度は、リソースアグリゲーター(関西電力)との連携や、セキュリティ対策も含めて、インターネット回線を活用した周波数制御技術の確立を目指す。
2事業者チームでは、同実証事業を通じて、
- リソースを統合的に制御するために必要なシステムの構築
- 各リソースの特性に応じた制御技術の確立による新たなエネルギーマネジメント(EMS)の実現
- (2)によるエネルギー利用の最適化や再エネのさらなる導入拡大
などによって、低炭素社会の実現を目指す。
3事業者チームの取り組み:EV/PHEVの充放電遠隔制御
〔1〕DP料金メニューをベースにしたEV/PHEVの充電時間をシフト
関西電力、出光興産、住友電気工業による3事業者チーム(表3)は、電動車(EV/PHEV)を活用した卸電力市場価格に連動する電気料金に基づいた、充放電遠隔制御実証を開始した(前出の図2右上の黄色枠の部分)。
関西VPPプロジェクトでは、すでに2016年度から、EV/PHEVをエネルギーリソースとして活用する取り組みを行ってきた。2020年度は、JEPXの卸電力市場価格と連動した時間帯別のダイナミックプライシング(DP、時間帯別料金)料金メニューに基づいて、一般家庭に設置する充電器注11などをアグリゲーターが遠隔制御することによって、市場価格の安い時間帯にEV/PHEVの充電時間をシフトする(ずらす)実証に取り組む。
〔2〕EVDPサーバで充放電を制御
具体的には、充放電を制御するサーバ(図4中央右に示すEVDPサーバ)によって、
- 小売電気事業者が提供するDP料金メニューの情報
- 制御機器の情報から把握した充電可能量
などを組み合わせることによって、ユーザーが必要とする充電量を、価格の安い時間帯に充電するよう、アグリゲーターが最適な制御を行う。
図4 3事業者チームの各分担とEVDPサーバの役割
EVDP:Electric Vehicle Dynamic Pricing、ダイナミックプライシングによって、電動車(EV/PHEV)の充電のタイミングを「電気料金が高い時間帯から、安い時間帯に誘導(ピークシフト)」し、充電用の電力料金を下げること。同時に、系統電力の混雑(ピーク)を緩和することも可能となる。
出所 https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2020/0601_2j.html
また、EVDPサーバと連携するスマートフォンアプリをEV/PHEVユーザーに提供し、ユーザーが運行計画を入力することによって、より実運用に近い実証を行う。
EVDP(Electric Vehicle Dynamic Pricing)とは、ダイナミックプライシング料金メニューの情報をもとに、EV/PHEVの充電のタイミングを「電気料金が高い時間帯から、安い時間帯に誘導」(ピークシフト)し、充電用の電力料金を下げることである。同時にEVDPは、系統電力の混雑(ピーク)を緩和することも可能となる。
3事業者チームでは、この実証を通じて、VPPにおけるEV/PHEVの新たな活用に向けた技術的知見を蓄積すると同時に、今後のEV/PHEVの普及による運輸部門の低炭素化や電力の安定供給、再エネのさらなる導入を拡大する。これによって、エネルギーを効率的に活用する脱炭素社会の実現を目指す。