日本としての取り組み:トップスタンダード制度と国際標準化の戦略的活用
第34代IEC会長 野村淳二氏に聞く!日本としての取り組み:トップスタンダード制度と国際標準化の戦略的活用
─日本におけるIECの位置づけと活動はどのようになっているのでしょうか。
野村:日本では経済産業省で「トップスタンダード制度」を定めていて、この制度には大きく2つの目的があります。1つはIEC向けも含め、新規国際標準化提案までの期間短縮を目指そうというものです。これは長いものは結構長くなってしまうので、それを短縮していこうという話ですね。
─具体的にどのくらいの期間ですか?
野村:1つのTC(専門委員会、Technical Committees)であれば普通は3年くらいで完了するのですが、6〜7年になってしまうケースもでてきます。
実際にIECには日本の代表としてJISC注5が参加していますが、個々の提案について、日本として対応する際は国内審議会を作り、それにどう対応していくかを決めることになっています。実際に新しい提案を出す場合、審議会の中にさまざまなステークホルダー(利害関係者)がいると、その調整に時間がかかってしまって、その間に他国が先駆けて提案してしまうことがよくありました。
そのような状況に危機感を感じ、日本としては「トップスタンダード制度」として、手を挙げた人の提案について、あまり調整に時間をかけずに日本として提案していくことを積極的に推進していこうというのが、今の経済産業省の1つの方策になっています。
─「国際標準化の戦略的活用の推進」とは具体的にどのようなことでしょうか?
野村:IECは電気安全規格を扱う組織なので、そのようなデジュール標準を産業界として積極的に活用していきましょうということを目指しています。今までは、産業界主導というとデファクト標準になっていましたが、デジュール標準を使っていけば、国際市場に出て行く際に障害が少ないということで、その活用を推進していくことを掲げているのです。戦略的にデジュールを優先していくということですが、この点では中国のほうがずっと進んでいます。中国はデジュール標準を意識して積極的に取り組んでいます。
機器単品の時代からシステムやソリューションを意識した研究開発の時代へ
─最後に、日本でスマートグリッド関連のビジネスに携わっている方々へのメッセージをお願いします。
野村:今までは、デファクト標準という形で事実上の標準に関心を払っていましたが、今後は研究開発の段階からデジュール標準を意識して取り組んでいくことが求められています。さらに、今後は機器などの単品からシステム型、あるいはソリューション型として、個々の機器がつながることによって機能することが主流になってくるなかで、つながったシステムとしての安全規定を考えていかなければいけない時代になってきています。
そのようななかで、先進国はシステムと標準を作り、最先端のものをこれから産業が興ってくる国に標準として導入していく必要があります。その際、電気安全に関してはIECが標準策定の役割を担うことになります。
エネルギーという面では、人が何かをするというのではなく、自動的に制御していく、状態をシステムが察知して、それを制御していくという仕組みを作っていくことになっていくと思います。それが実現すれば、エネルギーは最小限で最適な生活を送ることが可能になります。このようなことを日本として支援していくようにしていければと思っています。
─ありがとうございました。
Profile

野村 淳二(のむら じゅんじ)
パナソニック株式会社 顧問
1971年3月 京都大学工学部を卒業。同年、松下電工株式会社(当時)に入社。
1997年12月 同社システム開発センター所長に就任。
2002年以降、同社取締役 新規事業推進担当、情報機器事業分社社長、ビルソリューション・エンジニアリング事業担当、専務取締役 オートモーティブ事業担当などを歴任。
2006年6月 同社代表取締役副社長に就任。
2009年6月 パナソニック株式会社 常務取締役に就任。
2010年2月 同社技術担当。同年4月から代表取締役専務に就任。
2011年6月から現職。
2011年4月 IEC(国際電気標準会議)の評議会委員、
2013年1月 IEC次期会長。
2014年1月〜2016年12月 第34代IEC会長に就任。工学博士。
▼ 注5
JISC:Japanese Industrial Standards Committee、日本工業標準調査会。