ロッキーマウンテン研究所(RMI)のプロフィール
〔1〕RMIはロビンス博士の自宅兼研究所
米国コロラド州、ロッキー山脈のふもとのアスペン空港から10㎞ほどの標高2,200メートルに位置するオールド・スノーマス(Old Snowmass)に、ソフトエネルギー(太陽光や風力などによる分散的なエネルギー)の利用を具体的に実証することを目的に建てられた、ロッキーマウンテン研究所(RMI)がある(表1、写真1)。
表1 ロッキーマウンテン研究所(RMI)のプロフィール
出所 各種資料をベースに編集部で作成
写真1 ロビンス博士の自宅でもあるロッキーマウンテン研究所
出所 エイモリー・B・ロビンス、「抜本的な効率化・低コスト化のための統合的設計」、2018年10月5日
この研究所の建物は、エイモリ―・B・ロビンス博士夫妻(妻ジュディさん、Judy Hill Lovins)の自宅ともなっているため、「Amory and Judy Lovins's home」とも言われている。
1984年に完成した4,000平方フィート(372m2)のこの施設は、これまで継続的にアップグレードされ続け、現在もエネルギー利用について効率に関するアイデアや実践的な省エネ方法などの情報を、各国に発信するショーケースともなっている。例えば、ロビンス博士は、すでに『ソフトエネルギーパス』注3『新しい火の創造』注4などを含む31の著書と、450以上の研究論文を発表している。
〔2〕使用エネルギーは通常の住宅の10分の1以下
研究所の屋上には、ソーラーパネルや太陽熱利用システムが設置されている。冬は標高が高いため-40℃ぐらいになるが、窓ガラスは超断熱ガラス(2〜4重窓のスーパーウィンドウ)で、壁面の材料も断熱の工夫がされており、使用エネルギーは通常の家の10分の1以下程度と低い。太陽エネルギーの利用は、99%がパッシブ・ソーラーで、1%がアクティブ・ソーラー注5だ。このため、暖房が不要でエネルギーコストも下がり、建物のエネルギー効率性を高めることにかかったスーパーウィンドウなどの設備コストを相殺することができている。
具体的には、建物をつくるだけで1万1,000ドル減った一方で、暖房エネルギーや給湯用のエネルギーもそれぞれ99%減らし、電力も50%削減している。いずれも1983年の技術を用いて実現したもので、10カ月で回収できたという。2018年現在の技術は、当時の技術に比べて大幅に進化し、しかも低コストになっている。
〔3〕「統合的設計」(Integrative Design)による実証
同研究所における実践的な「統合的設計」(Integrative Design、後述)による実証内容は、コロラド州のような寒いところから、タイのバンコクなどの暑いところにも適用できるため、日本の気候はもとより、地球上のほぼすべての人々が住んでいるところに適用できる。
暖房には、通常の家庭で使用されているガスや石油は一切使用されておらず、「パソコンやサーバからの熱や、職員・ペットの体温」などで間に合うほど省エネ化されている一方、写真1に見られるように、二酸化炭素を吸収する植物が生育し、バナナやパパイヤなども収穫できるほどの温暖な環境となっている。
すでにこの建物(RMI)には、全世界から10万人以上が訪問している。30年以上経過した同施設は、現在も非常に効率的であり、ここで使用されている基本的なアーキテクチャやコンセプトの多くは、全世界で標準的な持続可能な建物を設計するうえで基本的な原則として活用されている。研究所は、申し込めば、祝日を除く毎月第1および第3金曜日の午後2時に、スタッフによる見学ツアーが可能になっている注6。
〔4〕RMIイノベーションセンターがスタート
このようなRMI(ロッキーマウンテン研究所)の活動を背景に、2015年12月には、「効率的で永続的に回復可能な資源の利用を推進する」というRMIの目標を実現するため、「RMIイノベーションセンター」(写真2)が設立された。
写真2 ロッキーマウンテン研究所イノベーションセンターの外観(2015年12月完成)
出所 https://living-future.org/lbc/case-studies/rocky-mountain-institute-innovation-center/
2018年10月現在で、従業員は42名である。市販されている材料を使用して、最大年間エネルギー消費量19kBtu /平方フィートを実現している。2階建ての15,600平方フィート(1,450.8m2)のネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)注7は、RMIにおける研究の実証や調査のためのオフィスとコラボレーション空間を提供するほか、セミナーや会議も開催できる。
同ビルディングは、RMIの統合プロジェクト・デリバリー(IPD:Integrated Project Delivery、統合プロジェクト推進)モデルを使用して設計され、米国内で、同様の規模の商業プロジェクトに適用できる複製可能なプロセスが開発されている。
同イノベーションセンターの初期のプロジェクト・ビジョンでは、RMIが目指す使命やプログラムを実証する建物であること、実行可能な最高性能をもつ建物であること、複製可能なプロセスとビジネスケースを開発すること、などの目標が掲げられた。
▼ 注2
2018年10月5日、グリーン・ビルディング シンポジウム「脱炭素化に向かう建築・住宅」(主催:公益財団法人 自然エネルギー財団)における講演。
▼ 注3
『ソフトエネルギーパス』〔Soft Energy Paths:Toward a Durable Peace(永続的平和への道〕、Friends of Earth刊、1977年(和訳版は1979年、時事通信社)。エネルギー政策には、ハード・パスとソフト・パスの2つがある。太陽光・風力などによる分散的なエネルギー供給(ソフト・パス)は、化石燃料や原子力などによる集中的なエネルギー供給(ハード・パス)に比べて環境破壊が少なく、核拡散の危険性もない。このため、今後のエネルギー政策はソフト・パスに重点を置くべきことなどを提示した。
▼ 注4
『新しい火の創造』(Reinventing Fire:Bold Business Solutions for the New Energy Era、新エネルギー時代の大胆なビジネスソリューション)、Chelsea Green Publishing刊、2011年(和訳版は2012年、ダイヤモンド社刊)。ロッキーマウンテン研究所の科学者も多数関わったロビンス博士の31作目の書著。企業主導で2050年までに米国の石油、石炭、原子力を削減しつつ5兆ドルの節約を実現する道筋などを提示した。
https://www.goodreads.com/book/show/12742309-reinventing-fire
https://rmi.org/insight/reinventing-fire/
▼ 注5
アクティブ・ソーラー・ハウスとは、ソーラーパネルを屋根などの屋外に設置し、そのエネルギーを空調や給湯に利用する形態で、太陽光発電などがある。一方、パッシブ・ソーラー・ハウスとは、採光や建材を工夫することで太陽の光や熱を建物内に取り入れ利用する形態。効率的に太陽光を取り入れるには南向きの大きな窓が不可欠だが、建物が南向きでない(採光が少ない)、あるいは住宅が小規模の場合は、アクティブ・ソーラー・ハウスのほうが適している。
▼ 注6
見学ツアーの申し込み先:
https://rmi.org/about/office-locations/amory-private-residence/、
https://www.rmi.org/about/office-locations/amory-private-residence/greenhouse/
▼ 注7
ZEB:Zero Energy Buildingの略で(ネット)ゼロ・エネルギービルのこと。日本政府は、「建物内における一次エネルギー消費量を、省エネ性能の向上や、現場での再エネの活用などによって削減し、年間の一次エネルギー消費量が(ネット)でゼロまたはほぼゼロとなる建築物」と定めている。つまり、エネルギー負荷の抑制や設備の省エネの向上などで建物における消費エネルギーを削減したうえで、それを敷地内で太陽光発電などの再エネで相殺することで実現する。ZEBは、エネルギーを使わないという意味ではないことから、正式には頭に“正味”の意味であるNetが付いている