国外における初の「AITRAS」の実装事例

国外における初の「AITRAS」の実装事例

 国外初の実装例としては、NVIDIAの本社ビル内(米国カリフォルニア州サンタクララ)に、「AITRAS」を構築した。ここでは、今後、モバイルEdge AIアプリケーションの開発を推進していく。
 Edge AIアプリケーションの第一弾として、LLMロボットによる「ポーターロボット」を開発し、NVIDIA本社ビル内で実証実験を開始している。「AITRAS」上で動作するLLMを用いて、来訪者の服装を指示することで、ロボットは来訪者を追従し、状況に応じて荷物を運ぶ。往復20msという低遅延環境を活かして安定動作し、従来のロボット制御と比べて高い追従性能を実現している。

AITRASに秘められた“こだわり”

〔1〕低消費電力のArm Neoverse V2プロセッサ
 NVIDIAのGH200の定格消費電力は1,500Wだが、ソフトバンクの計測によれば、実際の消費電力は1基地局あたり25W程度、1機のGH200で20本のアンテナを駆動するため、合計で500W(=25W×20本)程度でしかない。これには、Arm Neoverse V2プロセッサが大きく貢献している。同社で消費電力量を計測したところ、Armは他社CPUに比べて約半分程度でしかなったという測定結果が出ている。

〔2〕過干渉を排除するソフトウェア基地局間の制御
 AITRASはすべての信号処理をソフトウェアで行っており、信号はすべて親局にあるGH200で一元処理している。これはアンテナ同士の過干渉を徹底的に抑えることが目的だ。

〔3〕稼動率100%を目指すAIオーケストレーター
 AI-RANには、ピーク時以外の深夜などに余っているデータセンターのデータ処理能力をAIに振り分けるというコンセプト(AI and-RAN)がある。これにより通信インフラの常時100%の稼動を目指している。そのカギとして開発しているのが、AIオーケストレーターである(図5)。

図5 AITRASにおけるAIオーケストレーターの役割

出所 ソフトバンク先端技術研究所

 RANとAI処理、それぞれの稼動状況を常にモニタリングし、要求に応じてCPUやメモリなどの調整を行う。夜間などRANの稼動が減少したらAI処理を増やすほか、AI処理の内容や遅延の要求レベル、必要帯域などに応じて、適切に全国の各データセンターへの振り分けを行う。
 AIオーケストレーターでは、NVIDIAのMIGが活用されている。MIGは、1つのGPUサーバをロジカルに分割して利用できるようにする機能で、AIの処理容量に応じてパフォーマンスを最適化できる。

AITRASの開発進捗と商用化へのマイルストーン

 「AITRAS」は、2026年の商用化およびグローバル展開を見据えて、2025年3月以降、基盤実装や具体的なユースケースが相次いで発表されている。

〔1〕ハードウェア基盤の整備
 富士通とのパートナーシップにより、NVIDIA Grace CPU Superchip搭載のプラットフォームへのCU(Central Unit)の機能実装を完了した。また、CUとDU注6(Distributed Unit)の処理を1台のNVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip上で実行するD-RAN(Distributed RAN、分散型無線アクセスネットワーク)の機能実装も完了している。C-RAN/D-RANの構成が実現できたことで、AITRASの商用展開時の導入コストの削減や省電力化が期待できる。

〔2〕ネットワーク運用面
 5G SA(Standalone)のローカルブレイクアウト技術注7を活用して、「AITRAS」上にあるEdge AIサーバへのエッジルーティング注8を確立した。これにより、企業が扱う機密性の高いデータのセキュリティを担保しつつ、エッジ環境でのセキュアなAI運用を可能にする機能を実現している。

〔3〕実社会への応用事例
 前述した「ポーターロボット」の開発の他に、「AITRAS」上でレベル4(高度運転自動化)の自動運転支援を見据えた、「AITRAS」のEdge AIサーバで動作する「遠隔自動運転サポートシステム」も開発した。自動運転車と連携することで、自動運転車のセンサーやシステムの一部に不具合が起こった場合や、想定外の事象が発生した場合に、遠隔サポートで安全な自動走行を実現することを目的としている。

 AIサービスのニーズが見込まれるのは、まずユーザーが多く集中するエリアだ。周波数帯でいえば5G TDD向けのキャパシティバンド注9で、最短で2026年度をめどに、ソフトバンクがこの周波数帯へのAITRASの導入を進めている。


注6:CUとDU:中央ユニット(CU)と分散ユニット(DU)。5Gなどの移動体通信においてRAN(無線アクセスネットワーク)を効率化・機能分割するための無線基地局の構成機能。
注7:ローカルブレイクアウト技術:特定の通信をインターネットなどのWAN(Wide Area Network)に対する通信と分離して、ローカルネットワーク内で処理する技術。
注8:エッジルーティング:データトラフィックを端末に近いエッジ領域に配置されたサーバへ経路制御すること。
注9:キャパシティバンド:通信容量確保の周波数帯。1,000MHz(1GHz)の周波数帯は、大容量のマルティメディア移動通信を目的とした周波数帯。

参考資料

https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2024/20241113_06/
https://www.softbank.jp/corp/technology/research/topics/117/
https://www.softbank.jp/corp/technology/research/topics/126/
https://www.softbank.jp/corp/set/data/technology/research/topics/126/img/pdf/SoftBank_AI_RAN_Whitepaper_December2024.pdf
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2025/20250303_04/
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2025/20250303_05/
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2025/20250319_01/
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2025/20250303_06/

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